見出し画像

朝の公園のベンチー誰もいないと思っていた。

朝、公園を歩いていた。

朝の光が芝生の上を斜めに伸びている。

そこに、ベンチがあった。

誰も座っていない。

ただそれだけの風景なのに、なぜか足が止まった。

人が座っているベンチなら、たぶん写真には撮らなかったと思う。

誰もいないから、撮った。



誰もいないベンチというのは、不思議なものだ。

人が座るためにつくられたものなのに、人がいない。

だからなのか、空っぽのベンチを見ると、かえって人のことを考える。

さっきまで誰かが座っていたのだろうか。

これから誰かがやってくるのだろうか。

あるいは、今日は一日、誰も座らないのだろうか。

そんなことを考えながら、ベンチに近づいた。

ベンチには、先客がいた。一枚の葉だった。

遠くから見たときには気づかなかった。

赤く色づいた葉が、一枚だけ、ベンチに乗っている。

落ちたのか。

風に運ばれてきたのか。

それとも、誰かがここに置いたのか。

もちろん、分からない。

けれど、一度その葉に気づいてしまうと、もうこのベンチは「誰もいないベンチ」には見えなくなった。

近づいて、もう一枚撮った。

よく見ると、赤一色でもなかった。

赤くなった葉の中に、まだ緑が残っている。

というより、緑の斑点が、あちこちから顔を出している。

夏なのか。

秋なのか。

どちらとも言い切れない。

季節の途中にいる葉だった。

朝の散歩では、ときどきこういうことがある。

遠くから見れば、ただの風景だったものが、近づくと急に何かを持ちはじめる。

ベンチを見た。

誰もいないと思った。

近づいた。

一枚の葉があった。

そして、その葉にも、近づいてみなければ見えないものがあった。

考えてみれば、最初から何もなかったわけではない。

私が見えていなかっただけなのだ。

誰もいないと思っていた。でも、先客はいた。

いいなと思ったら応援しよう!