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1億円の機械を動かす人たち——MRI搬出の現場で起きていること(現場側目線)

病院の廊下の奥に、いつもあの機械がある。

白くて大きくて、なんだか宇宙船みたいなやつ。そう、MRIだ。誰もが「高そうだな」とは思う。でも、あれが「誰のものか」を考えたことがある人は、ほとんどいない。

実は、あの機械を動かす仕事がある。搬入し、据え付け、そしてやがて搬出する。その現場では、値段の話だけでは済まない、複雑な「権利の地図」が広がっている。

まず、MRIは「誰のもの」なのか

1億円前後するMRI装置を、病院が現金で買っているとは限らない。むしろ多くのケースで「リース」が使われている。

リースとは、リース会社が機器を購入し、病院が月々の使用料を払って借り続ける仕組みだ。所有権はリース会社にある。病院はあくまで「借りて使っている」だけで、「自分のもの」ではない。

病院から見れば、初期費用ゼロで1億円の機械が使える。担保も不要。魅力的な話だ。

でも、ここから話がややこしくなる。

「搬出してほしい」——その依頼、誰から来ているか

MRIの搬出作業を請け負う業者のもとに、ある日こんな依頼が届く。

「病院のMRIを撤去してほしい」

依頼主はメーカーの担当者だったとする。シーメンス、キヤノン、GE、フィリップス——こうした大手メーカーは機器の販売だけでなく、据付工事や撤去作業も請け負うことがある。だから「メーカーからの依頼」は珍しくない。

問題は、その機器が誰のものかだ。

メーカーが動く背景には、「病院からの依頼」か「リース会社からの依頼」のどちらかがある。しかし搬出を請け負った業者には、その区別がつかない。機器を見ても「リース品」とは書いていない。書類を取り寄せて確認しない限り、判断のしようがないのだ。

所有権を知らずに動かしたら、どうなるか

答えは単純で、怖い。

リース物件の所有権はリース会社にある。病院には「借りて使う権利」はあるが、「第三者に移動させる権利」はない。もし病院がリース会社の許可なく業者に依頼し、業者がそのまま動いてしまったら——業者は「他人の財物を無断で移動させた」立場になる。

「依頼主に言われたから動かした」は法的な免責にならない可能性が高い。しかもMRIは搬出中のトラブルリスクが極めて高い機械だ。損傷や事故が起きた場合の責任は一気に複雑になる。

だから正しい業者は、必ず確認する。「これは購入ですか?リースですか?リースならリース会社の承諾書はありますか?」——この一言が、何千万円規模のトラブルを防ぐ。

リース満了時、誰が動くのか

リース契約が終わると、病院の選択肢は3つある。再リース(月額の1/10程度で継続使用)、返却(指定場所への搬出、費用は病院負担)、買取(残存価格で正式に所有権を取得)だ。

「返却」の場合の流れはこうなる。リース会社が病院に満了通知を送る → 病院が搬出業者を手配、またはリース会社が指定業者に直接依頼する → 機器をリース会社の指定場所へ返す。

メーカーから依頼が来た場合でも、その背後には必ずリース会社の意思決定がある。搬出を頼まれた業者が「誰のために動いているのか」を確認する必要があるのはそのためだ。

リース会社の子会社が、撤去業者だった

ここに、業界の構造を鮮やかに示す事実がある。

株式会社FUJITAという会社がある。医療機器の搬出・解体・買取を専門とし、MRIやCT、アンギオ装置など大型医療機器の撤去に30年超の実績を持つ会社だ。自社エンジニアが非磁性工具を使って現場に入り、重量物の解体から施設の原状回復まで一手に担う。

この会社の親会社が、芙蓉総合リース株式会社だ。

つまり——リース会社がリース品を回収する際、自社グループの撤去会社に作業を依頼できる。所有から回収・再販・廃棄まで、グループ内で完結する仕組みがある。表に出てくる名前と、実際の意思決定者が違う——これが医療機器業界の「権利の地図」の複雑さだ。

一方、「日立が作った解体屋」もいる

東京エコリサイクル株式会社は、1999年に日立製作所が設立した会社だ。医療機器の廃棄・リサイクルに特化し、15トンクレーン設置の自社工場で解体・減磁・資源化まで対応できる数少ない会社のひとつだ。

永久磁石式MRIは電源を切っても常に強力な磁場を帯びており、専門知識なしの解体は事故のもとになる。FUJITAが「リース会社の回収部門」なら、東京エコリサイクルは「メーカーの廃棄部門」と言える。

この業界の構造を図にするとこうなる

【導入時】
メーカー(シーメンス・キヤノン等)
 ↓ 販売
リース会社(芙蓉リース・日医リース等) ← 所有権はここ
 ↓ 貸与(リース契約)
病院・クリニック ← 使用権はここ

【搬出時】
リース会社(所有者として意思決定)
 ↓ 指示
メーカー or 指定業者(FUJITA等)
 ↓ 作業依頼
搬出・解体業者
 ↓ 廃棄・リサイクル
東京エコリサイクル等

このどこかに「知らずに入ってしまった」業者が、思わぬトラブルに巻き込まれる。

「この機械、誰のものですか?」が最初の仕事

MRIを動かす仕事は、体力仕事でも技術仕事でもある。しかしそれ以前に、法律と権利の確認作業だ。

1億円の機械を動かす前に確認すべきことは、テスラ数でも重量でもなく、「所有権が誰にあるか」だ。病院が「うちの機械だから」と言っても、リース会社が「うちの資産だ」と言えば、後者が正しい。確認書類なく動いた業者は、善意であっても責任を問われる可能性がある。

この業界で長くやっている人間は口をそろえて言う。「書類を見るまでは一ミリも動かすな」と。

MRIは1億円する。でも本当に価値があるのは、その1億円が「誰のもの」かを把握している人間の知識かもしれない。

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