部屋と彼女のトリセツ
「先に沸かしておいたほうがいいかな」
彼女が訪れるのを待つ間にいつものルーティンをやっておく。
彼女がやってきてその身を包んでいる衣を脱ぎ去ると僕らの時間は始まる。放たれる芳香、そして何度も行為に及ぶのだ。回数を重ねるごとに彼女は開かれて変わっていく。
「あれ? いつもと何か違う?」
僕は違いを感じた。
「そんなことないよ」
彼女はそう言うが何かが違う。
「何が違うの?嫌だった?」
馴染みの娘、そしてここはいつも使っている部屋だ。僕もいつも通りのはずだ。何も変わらない。
「別に嫌とかじゃないんだよ。ちょっと違うと思っただけだよ。いつも通り素敵だったよ」
「でも最高って思ってくれなかったってことね」
「そういう意味じゃないよ。何か違うってだけだよ。少し時間が短いとかそんなことでも感じ方が違うってことない?こちらの気分ってものもある、その日の天気ぐらいでも変わることあるような気がするんだよ」
一度や二度選んだくらいではわからない。何度も選んでいるから些細な変化がわかるようになる。
「他の子、選んだりしてるの?」
そんなことを聞くんだと思ったが動じなかった。
「良さってみんな違うと思わない?」
僕は逆に尋ねた。こちらが欲しい時にはいないことだってあるというのに、随分と勝手なことを言うものだと思った。
彼女は何も答えなかった。そしてこう言ってきた。
「また選んでくれるの?」
「ああ。選ぶさ。またこの部屋で良いよね?」
「この部屋が良いじゃなくて、この部屋じゃなきゃダメなの。そして、ここに呼ぶのは私だけにして、他の子は絶対にダメ」
「わかってるよ」
僕だって何でも受け入れるわけではない。一度でそれっきりになった子だっている。
初めて選ぶ子と入る部屋は他にある。彼女は何度も選んでいる。僕はとても気に入っていた。だからこの部屋は彼女の部屋になっていた。
部屋は彼女の色と香りで染められていく。
僕らは帰り支度をした。
「それじゃまたね」
部屋に彼女の香りだけが残った。僕は深い関係になっていっていることを感じた。
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