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何故、この空間は2次元ではないのか?

ホーキング博士は、「何故、空間は2次元ではないのか?」という問いに対して、「空間2次元では、私たちのような複雑な生物が進化するには不十分であるように思われる。」と言っていました。もしその生物の身体を貫通するような消化器官のような管構造があったとすると、それによって、生物の身体は二つの別々の部分に分断されてしまう。つまり、2次元の生物はばらばらになってしまうという理由からでした。ですから、2次元空間に我々のような人間が現れることはないという考え方です。

このような考え方は、様々な問題に対してホーキング博士以前から行われており、「人間原理(anthropic principle)」と呼ばれています。人間が現実に居るのだから、人間が発生できる法則しか、この宇宙には存在しないという、ある意味で逆転の発想の考え方です。

例えば、魚が水中で、「なぜ私のいる世界には水があるのだろう?」と疑問に思ったとします。しかし、水がなければその魚は存在できません。だから魚にとって、水がない世界を体験しようがないのです。その魚の場合と同じように、人間の存在は、物理学の理論に重要な制限を与えます。

たとえば陽子は中性子より約0.14%軽いことがわかっています。ほんの少しの差です。もしこの大小関係が入れ替わっている宇宙があるとすると、陽子は、中性子と陽電子とニュートリノに分解してしまいます。

そうだとすると、陽子を原子核とする水素原子は不安定になり、崩壊します。この宇宙で観測されている、実際の水素の量を説明することが難しくなります。またビッグバン宇宙における元素合成の理論からも、中性子と陽子の質量を入れ替えると、水分子も作れなくなり、水を必要とする人間が地球に現れるための条件が難しくなります。ですから、陽子と中性子のどちらが軽いか?という問いは、条件付きですが、「人間が居るのだから、陽子が軽い」という答えも可能なわけです。このような議論も人間原理の例です。

観測者が存在できる宇宙だけが、観測者によって観測される。当たりまえのように思える話ですが、ある程度定量的で、重要な情報を与えています。地球は、現在太陽から約1億5,000万 kmほど離れた軌道を進んでいます。この太陽からの距離が、数分の一になっても、数倍になっても、人類の生命を維持できる地球環境は存在しません。逆に、人間が今地球に存在する事実から、現在の地球と太陽間の距離を、ある程度逆算ができるわけです。これも人間原理の考え方の有用性です。

また現代宇宙論においては、宇宙項などのいくつかのパラメータが存在します。「その現在の値が、何故その値なのか?」という問いに対しても、人間原理は制限を与えます。たとえば宇宙膨張の加速度を決める宇宙項が大きすぎる場合には、物質間の距離がどんどんと伸びてしまい、銀河や星などの構造物を宇宙内に持てなくなります。すると地球も作られず、人間も生まれなくなるため、宇宙項の値に制限がかかります。

人間原理は、いろいろな「何故?」という問いに対して、「我々人間が居るから」という、裏技的な解答を与える考え方ですが、これも実証科学のしっかりした一面ではあるのです。「我々が居る」ということは、科学として、とても重要な観測事実なのです。また量子力学でも、「自分には意識がある」という観測事実は、人間原理として重要です。これが量子力学の観測問題を解くカギになっています。


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