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量子バッテリーの量子性とは?

最近、「量子バッテリー」が世界的に注目を集めています。これは状態の量子重ね合わせなどを使って、電池の性能を高める技術です。ただし社会実装できるような現実的な量子バッテリーは、まだ出来ていません。つまり、基礎研究の段階と言えるでしょう。2026年3月には、オーストラリアのCSIROという研究所が中心となったグループが、この量子バッテリーのプロトタイプを作ったことが話題でした。ただし、その充電を保持できる時間は極めて短く、ナノ秒(10のマイナス9乗秒)程度です。また電気容量も小さくて、実用性を持ったバッテリーではありませんが、非常に面白い性質を持っています。

まずこの量子バッテリーは常温で機能します。量子コンピュータのように、極低温に冷やす必要はありません。レーザー技術の発展により、充電時間をフェムト秒(10のマイナス15乗秒)程度に短くできるために、その量子性は現れます。なおこの短時間の充電時間自体は、特に新しい量子技術とは言えません。レーザー技術の堅実な発展が支えた結果です。今回の研究で興味深いのは、室温の外部環境がバッテリーの量子性を壊す時間スケールに比べて、充電時間が圧倒的に短いという点です。つまり、その充電過程の中だけならば、バッテリー内部に量子的なコヒーレンスを保つことが可能なのです。そのため、量子的な状態重ね合わせの効果を引き出すことができます。

従来の化学電池では、電気を蓄える分子数が増えれば増えるほど、その充電時間は伸びます。しかし彼らの量子バッテリーでは、バッテリーユニットの数Nを大きくすると、その充電時間はNの平方根の逆数で小さくなることを確かめたというのです。この振る舞いは、確かに状態重ね合わせによる量子性と言えます。

約100ナノメートル間隔の2枚のミラーの間に有機色素分子を挟んだ多層有機マイクロキャビティを作り、そのミラーの間に飛んでいる1個の光子を、N個のバッテリーユニットが量子的な形で吸収することで、通称「シュレディンガーの猫状態」をバッテリー全体で作ります。それぞれのバッテリーユニットが1つの光子を吸収してできる、N個の異なる励起状態の重ね合わせになるのです。すると、エネルギー源である光子とバッテリーの間の相互作用が有効的に大きくなります。そのため、Nが大きくなるほど充電時間が短くなります。

この充電過程は、環境によって量子状態の線形重ね合わせが壊される前に終了するため、室温でもこのような量子性を示すのです。ただし現在のプロトタイプでは電気容量が極めて小さいこと、そして充電を保持できる時間がナノ秒であり、とても短いことが、技術としての壁になっています。

しかし、充電過程だけでも量子性を保持させられれば、充電時間の短縮は実現します。その充電後の電気エネルギー保持の状態では、外部環境によって量子性が壊されても問題はないとも言えます。量子性を使って素早く充電した後、長く保持できる古典的な化学電池に、そのエネルギーを移動させられれば、ナノ秒の壁は超えられるかもしれないと、CSIROグループは語っています。またバッテリーユニットの数を桁違いに増やすことができれば、電気容量も大きくすることも可能かもしれません。そのような方向性が次の課題だと、彼らは言っています。

フェント秒レーザーやアト秒レーザーなどの技術が驚異的に進んでいる現在、量子コンピュータに比べて、量子バッテリーの量子性は割と担保しやすいと言えます。フェント秒程度の間だけその量子性を保てば、その有意性が発揮できるからです。複雑な計算ゲートや量子操作も、量子バッテリーには要りません。この意味で、量子バッテリーは今後注目すべき量子技術の1つだと言えます。

なお量子バッテリーについての他の量子性については、私もマサチューセッツ大学の池田さんと一緒に下記の論文で書いています。これは量子エネルギーテレポーテーションを量子バッテリーに応用したものです。


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