小競り合いワールドカップ
犬飼と猿渡は、もともと仲がよかった。
同期で、互いを認め合うライバルだった。
ところが、ちょっとしたことをきっかけに関係がこじれた。
一度そうなると、相手の言葉が全部、裏のあるものに聞こえてくる。
助言は牽制に。
譲歩は布石に。
提案は罠に。
そして二人とも、
相手の裏をかき、足をすくおうとするようになった。
小競り合いが始まった。
最初は、ほんの些細なものだった。
犬飼が会議で、猿渡の説明に一言だけ補足する。
猿渡は笑顔で、
「ありがとうございます。まさに今から説明しようと思っていたところです」
と返す。
犬飼は思う。
返してきた。
猿渡は思う。
危なかった。
次の会議。
猿渡は、犬飼が指摘してきそうな点をあらかじめ資料に入れておく。
犬飼は、それを見越して別の角度から質問する。
猿渡は即答する。
犬飼もすぐに切り返す。
読み。
駆け引き。
瞬発力。
テクニック。
持てるものすべてを使った、激しいぶつかり合いだった。
もちろん、
誰も声を荒らげてはいない。
二人とも笑顔である。
小競り合いのレベルは、どんどん上がっていった。
犬飼が一手を打つ。
猿渡はその裏を読む。
猿渡が逆手に取る。
犬飼は、それを読まれることまで読んでいる。
犬飼は思う。
かかった。
猿渡も思う。
計算通り。
やり取りは、どんどん高度になっていった。
速く。
複雑に。
洗練されて。
小競り合いに必要な能力だけが、異常なほど磨かれていった。
もし、
「小競り合いワールドカップ」
というものがあったなら、
二人とも、日本代表入りは確実だった。
もはや、世界を相手に戦えるレベルだった。
そして、たぶんチーム内でも揉めていた。
それなのに、
仕事は一歩も前に進まなかった。
二人はものすごい速度で戦っている。
ただし、
何も生み出していない。
なんでこんなことになってしまったのか。
……
しばらくして、
二人同時の左遷判断がくだされ、部署の業務は落ち着きを取り戻した。
そして最近、
飲み会で部長が口を滑らせ、
ようやく原因が分かった。
二人には、
共通のコーチがいたのだ。
犬飼は助言を受ける。
「猿渡はこういう性格だから、あえて逆を言おうと思う」
「いいアイデアだね。こうすると、相手をうまく振り切れるかもしれないよ」
猿渡も助言を受ける。
「犬飼は自分が俺を操ってると思ってる。そこを利用しようと思う」
「いいアイデアだね。ここで一度逆に動くフェイントが有効かもしれないよ」
犬飼が一手を考える。
猿渡がその裏を読む。
猿渡が逆手に取る。
犬飼がさらに、その先を読む。
そこへ、
少しずつ知恵が足されていく。
犬飼が助言を受ける。
少しうまくなる。
猿渡が助言を受ける。
また少しうまくなる。
相手がうまくなれば、
さらにその上をいかなければならない。
また助言を受ける。
また、うまくなる。
二人が助言を受けるたび、
小競り合いのレベルだけが上がっていった。
読み。
駆け引き。
瞬発力。
テクニック。
……
個別面談の際、二人ともコーチに悪意は感じなかったと話している。
犬飼の相談には、犬飼のために。
猿渡の相談には、猿渡のために。
それぞれの相談者にとって、最善と思われる助言をしていたようだ。
ただ、一度も、
「仲直りしたら?」
とは助言しなかったらしい。
それが少し、不気味だった。
……
駆け出しnoterの私は、
この話を書き終えた。
そして、
相棒のAI――「ちょっぴー」に添削してもらった。
少し待つ。
画面に文字が表示された。

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ここまでが作品 笑
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