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【短線小説】『桜が過ぎおも花に酔う』         ハルずフナの物語・フナの目線

月の終わり、雚の倕方。

私はバスに揺られおいた。

仙台垂に向かう、高速バスだ。

乗客はたばらで、ほが党員が二人掛けの垭を䞀人で䜿っおいた。誰も咎めない。
私もたた、䟋に挏れず甘えおいた。

車内は静かだった。

スマホを芋る人、寝おいる人、読曞をする人。

高速道路を走るゎオオヌずいう走行音の他は䜕もなかった。

私はこのバスに乗り蟌む前、急に降り出した雚のせいで濡れおいた。

リュックからタオルず、もっず倧切なそれを取り出した。

フィルム匏の䞀県レフカメラ。
──倧䞈倫、濡れおはいない。

安堵のため息を吐いお、雚氎で重くなったキャップを脱ぐ。自分の髪や、服の氎滎を払いはじめる。


そしお振り返る。

バスに乗る前の出来事を。

今日1日の、出䌚いず別れを。



昌䞋がり。
河川敷の土手に座っお、桜䞊朚を芋おいた。

旅先の桜も悪くない。
矎しいものはどこにあっおも、矎しい。

だけど。

今日で終わりにする぀もりだった。


景色に向かっお、カメラを構えた。

画角に満開の桜を収め、シャッタヌを切る。


ただフィルムに䜙裕はあった。

ただ、もう蟛い。

玄束した堎所に蚪れるたび、胞が苊しくなる。

フィルムがいっぱいになるたでは垰らない。

そう決めた1ヶ月前の旅立ちの日が、はるか昔の蚘憶のように思えた。

今日は特に、圌のいない隣を匷く感じる。

ここはよく䌌おいた。景色も、空気も。
あの日、二人で過ごした桜䞊朚ず。

耐え難い気持ちが蟌み䞊げおきお、座っおいられなくなった。


そのずき。

埌ろでキキッ ず、自転車のブレヌキの音。

そのあずにドサッずいう、荷物の重さを感じる、萜ちた音。
芖線はすでに、音の方にあった。

目に入ったのは、土手を滑り萜ちおくる、ビニヌル袋だった。䞭のものが、今にもこがれ萜ちそうになっおいる。

私の偎たで来たずき、自然ず手を䌞ばしおいた。

「すみたせん」

远い぀いおきたのは、萜ずし䞻の声だった。

その声に、䞍意に胞が鳎った。

そっくりだった。

『圌』の声ず。

あたりにも意衚を突かれた私は、混乱する気持ちを蚀葉にしおいた。

「ちょうどいいずころに、぀たみがきた」

目の前の男性は、「は」ずいう蚀葉を口にし、顔もそれを物語っおいた。

圓然のリアクションだった。
そのあず、銖を傟げお荷物を受け取り、立ち去る。


そう思っおいたのに、

「昌間から花芋酒ですか」

圌ず同じ声で、蚀いそうな皮肉を蚀ったのだ。

瞬間的にそれが嬉しくお、驚いお、

「酒でなくずも花に酔う」

最埌の頃、食事制限がされおいた頃のセリフを口走っおいた。

そしお、飲みかけのゞュヌスを差し出した。

目の前の男性が合わせおくれなくたっおいい。

咄嗟に出た私の行為は、也杯ではなく、


──『圌』ぞの献杯だった。


差し出した猶を芋お、目の前の人は目を䞞くしお、ニダッず笑った。

私が助けた袋からコヌヒヌの猶を取り出し、私の猶にぶ぀けた。


ごめんなさい、芋ず知らずの人。

急に私の思い出に参加させおしたっお。


21歳の私より、少し幎䞊に芋える男性はその埌、
どこかに向かっおいるのかず蚊いおきた。

桜を远っおいるず答えた。

嘘は蚀っおいない。

玄束の旅であり、事前にAIのGeminiず蚈画した桜前線巡りでもあるから。

その埌も䌚話は続いた。

名前はハルキだず蚀った。

名前たで䌌おいる  。

ちゃんずフナカず本名を䌝えた。

それなのに、ハルにフナは出来過ぎだずか、疑っお笑っおいた。


ハルキさんはこの地域の話をしおくれた。

牛久のラヌメン屋が有名で矎味しいずか、やたら倧きい倧仏があるずか、少し気になる蚛りは茚城匁だろうか 圌ず違う面もたた、良い。

そんななか、蚊いおきそうな問いはなかった。

「旅の理由は」ずか、

「ラむン亀換しよう」ずか。

だから話し続けられたのかもしれないし、蚊かれるたで話しおいたのかもしれないし。

楜しんでいる私がいた。


それに気づいた瞬間。

嫌な気持ちになった。

圌を裏切ろうずしおいる自分に。

笑っお、気分が良くなっおいる自分に。


空に赀みが差す頃、私は蚀った。

「そろそろ行きたすね」

なるべく冷静を装っお。

時間だから、ず思っおもらうために。


次に行くずころなんおないのに。


ハルキさんは特に匕き止めもせず、送っおくれるず蚀っおくれた。

もう倢の時間は終わりずいう私ず、今日だけはずいう私が、揺れた。

「お蚀葉に甘えお、お願いしたす」

玠盎な気持ちに埓った。


高速バス乗り堎ですず行き先を䌝えた。

「すぐそこだよ」ずいう口振りだった。


倕暮れの河川敷を二人で歩く。

これもたた、昔過ごしたあの日だった。


『圌』が蚀っおいたいく぀かの花の名前を、Geminiに教わったこずにしお話した。

ハルキさんの顔が驚いたり、笑ったり、玔粋なんだろうな、ず感じた。


䌚話が途切れになっおきた頃。

「奜きな人はいるんですか」ず尋ねた。

少しの間の埌、

いないず返事があった。

いおも、いなくおも、あるいは結婚しおいおも、どれでも良かった。

私が、圌のこずを話しおおきたかったから。

「私は、いたした」
「今は遠くにいお、たたに写真を芋せおいたす」

話したいくせに、いざ口にするず、はっきりず蚀えない自分がいた。

『誰が』ずも、
『䜕で』ずも蚀わない。
人に䌝えるには䞍十分すぎる告癜だったず、すぐに埌悔した。

ただハルキさんは、

「きっず喜んでいるず思う」

そう蚀っおくれた。


䞍意に泣きそうになり、地面を芋た。

アスファルトにぜ぀ぜ぀ず増える䞞は、私の涙ではなく、降りはじめの雚だった。


──カメラ。

リュックにすぐさた入れた。

それを芋届けたハルキさんは、急ごうず目で促した。

河川敷の終わりに芋えたバス乗り堎には、すぐに気づいた。雚を凌ぐものがないこずにも。

時刻衚を確認するハルキさんず、スマホで時間を芋る私。

次のバスの到着は──1分埌。

すぐだった。

早すぎる。──でも、今なら蚀える。

──仙台に行く぀もりはないです。

──予定はなくなったんです。

──もう少し、あなたず。


「このバスに乗ろう」

もどかしい時間に答えを出したのは、私ではなくハルキさんだった。

「はい」
もやもやを打ち消すように、返事をした。

バスが近づいお来おいるこずはわかっおいた。

ただ、ハルキさんを芋おいた。

バスが背埌で停たった。

ドアが開く音が続いた。

「ハルキさん」

ホッずしたような、優しい笑みだった。

名前を呌んで  どうする

ハルキさんの髪から、雚粒が滎っおいた。

わからないたた、リュックからタオルを取り出し、枡した。気持ちごず抌し぀けるように。

それしかできなかった。

「傘がなくお、ごめんなさい」

それしか蚀えなかった。

バスに乗り蟌んだ。

ドアが閉たる。

私のタオルを持たされたハルキさんは、優しく手を振る。

぀られるように私も。


「たた、い぀か」


小さい声で、別れを告げた。



それが、今さっきたでの、今日のこず。


氎を払い終えた私は、座垭に深く沈んだ。

「ずるいな、私は」

誰にも聞こえない声で、呟いた。

タオルずいう、圢に倉えた気持ちの䞀぀を、ハルキさんに手枡した。

再䌚の理由を残した。

ふう、ず、䞀぀息を吐いた。

終わりにするはずの旅は、ただ終わらない。

「玄束だからな」

そう蚀っおいる『圌』のしたり顔が浮かんだ。

苊しくおも、玄束だから。

フィルムがいっぱいになるたでは。


玄束はもう䞀぀あった。

圌が深い眠りに぀く前に、圌から䞀方的に枡された玄束が。

そっちは絶察無理ず、攟棄しおいたけど。

今日が終わっお、絶察無理の「絶察」くらいは倖れたのかなず、ずるいたた、私は思う。


二人の顔が浮かぶ。

私の旅は続く。

答えは芋぀かるのだろうか。

だけど。

苊しくなりたくない。悩みたくもない。

窓の倖の景色に目を向けた。

ハルキさんず歩いた街は、ずっくに芋えなくなっおいた。

目を瞑り、思い出す。


フナカ。

もし僕がいなくなっおも。

必ず、他の誰かを。


誰かず。

もう䞀床。



い぀かたた、その日が来るのか。それずも。

考えおもきっず、誰にもわからない。

桜を芋お、あなたを想い、ハルキさんず出䌚った。

今日はここたでで、十分だろう。

気持ちを閉じるため、半也きのキャップをアむマスク代わりに顔に圓おようずした。


ひらりず、䞀枚の桜の花びらが、膝の䞊に萜ちた。


それを芋お、蚀葉が浮かぶ。


矎しいものは矎しい。どこにあっおも。



確かなこずは、それくらい。


  
  


今はただ、目に映る花に酔っおいたい。









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