【第3話】業務効率化の落とし穴 (※長め)
業務効率化の進め方
ためしに、一般的なバックオフィスの業務改善プロジェクトを考えてみましょう。
まず最初のステップは、業務の現状を正確に把握する作業に着手します。業務フローや処理件数、運用ルールなど、様々な業務ナレッジが存在しているはずです。
これらの業務ナレッジや経験知を、スタッフへのヒアリングやドキュメント、システムのデータなどを確認することでファクトを整理していきます。
これを「ASIS整理」と呼びます。
次に、このASIS業務のうち、非効率なプロセスや属人的な作業、業務量のピーク性等を特定して、効率化・自動化することを考えます。
本来この業務はどうあるべきか。業務の目的や制約など、”そもそも”を問い直し、業務を再設計する。その際、人や業務だけではなく、ツールやシステムなど最新のテクノロジーによる効率化や自動化の余地についても併せて検討することが重要です。
このように、あるべき業務を再設計することを「TOBE定義」と呼びます。
そして、ASIS業務からTOBE業務に移行するためには、業務フロー作成、システム導入検討、システム構築、課題検討、マニュアル作成、トレーニングなどなど、膨大な作業が発生します。
これが「業務移行」というステップ。
大きいプロジェクトだと業務移行に半年〜1年以上かかるプロジェクトもあります。
入念な準備とリハーサル、Go/No-Go判定を経て、ようやく本番業務が稼働します。「Go Live」です。
本番稼働後、数ヶ月は稼働が安定するまで時間がかかります。ユーザーが業務フローやシステムの仕様を理解し、習熟するまで一定の時間を要するのです。
業務効率化の副作用
しばらくして、スタッフもある程度業務に慣れ、業務やシステムが安定して動くようになると、徐々に人はその業務フローやシステムに安心感を覚えてきます。
ここまで入力すれば、あとはシステムが自動で処理してくれるから大丈夫、というように。システム内部でどういう処理が行われているのか、意識しなくなっていきます。
さらに時間が経つと、担当者が異動したり退職したり、マニュアルが変更されたり、イレギュラー対応が追加されたりする。
どんどん歴史が積み上がっていき、もはやその業務の目的やシステムの仕組みがどうなっているのか、誰にもわからなくなっていく。でも、システムが自動で処理しているから業務は回っている。
これは、悪いことではありません。むしろ、人が意識しなくていいようにシステムを導入し、自動化することで生産性を上げているのですから、むしろ成功と言えます。
これまで人が持っていた業務ナレッジがシステムに吸収され、属人性が解消されるというわけです。
しかし、反対側から見ればこれは、これまで業務ナレッジとして蓄積してきた膨大な知見が、誰も触ることのできないブラックボックスの中に消失しているようにも見えます。
さて、この状態において、システムトラブルが起きた時、人は臨機応変に対応することができるでしょうか。おそらく難しいでしょう。
しかし、実態はそこまで先を考えた業務設計になっていない。人はシステムに依存し、人に依存しなくなる。いざという時に、人の力だけでは復旧できなくなる。
コンサルタントは、こういう構造的な問題にも目を向けなければいけません。
ゲシュタルト能力を使い倒す
今のはあくまで一例ですが、さまざまなプロジェクトを経験していくと、こうした先の問題や課題が見えるようになってきます。
そして、どのプロジェクトでも同じような課題が、同じように起きていることに気づくのです。
ちなみに、このように「具体と抽象」、「部分と全体」を行き来しながら考える力をゲシュタルト能力と呼ぶようですが、これはコンサルに限らず、多くの仕事で使える汎用的な能力です。
ある分野でこのゲシュタルト能力を発揮できるようになると、仕事のパフォーマンスが爆上がりし、しばらく他の追随を許さない無双状態になります。
社会学との出会い
さて、次に重要になってくるのは、「全体をどこに置くか」という話。
プロジェクトを全体と捉えれば、他のプロジェクトとの比較をすることでパフォーマンスを発揮できるでしょう。しかし、事業そのものを全体として捉えた場合はどうでしょうか。会社を全体として捉えたら、と考えていくと、その全体に応じた新しい課題が見えてきます。当時、僕は会社を「全体」として捉え、それぞれの課題と向き合っていました。そんなある時、ふと動画を見ていて興味深い考え方があることを知りました。
社会学です。
その動画は、コンサルタントとして有名な波頭亮氏と社会学者の宮台真司氏の対談動画で、「思想をRethinkせよ」という名の通り、ニーチェやマックスウェーバー、ハイデガーなどの思想の巨人達の考え方を紐解きながら現代社会を考えていく内容になっているのですが、これが大変おもしろい。
社会学の意味すら知らない教養の浅い私には、初め何を言っているのかわかりませんでした。でも、何か大切なことを話しているとは感じる。調べながら繰り返し見ていくうちに、少しずつお二人が何を議論しているのかがうっすらと見えてくるような気がしてきました。
中でも面白いなと思ったのが、マックス・ウェーバーの「鉄の檻」という考え方。
"システムが安定して回れば回るほど、人はシステムに依存する。そうすると、その合理性の連鎖によって人は人でなくなり、お互いを助け合おうとしなくなる。その結末として、人倫の世は終わる。"
と。
あれ、なんかこの状態、知ってるぞ。
「ああ、今この令和時代に僕が企業の現場で感じている課題感が、数百年も前にすでに解析され言語化されていたのか!!!すごい!!」
となったのです。
社会学の観点で業務課題を眺める
このマックス・ウェーバーの図式を、実際に今仕事で直面している課題に当てはめて考えてみると、これが見事にマッチする。
冒頭の業務改善プロジェクトの事例でも、「業務ナレッジは静かに消失している、しかしビジネスは回っている」という状態でした。
これは、確かに人に依存しないモデルです。
しかし、システムには依存しています。
その副作用として、効率化・合理化によってこれまで当たり前に行われてきた人間同士の助け合いや協力まで失われてはいないだろうか。
資本主義の旗をかざせば、効率化・合理化を進めることでコストが下がり、利益が上がるので正しいと肯定される。
しかし、その仕事にやりがいを持って、成長を感じながら人間は仕事に取り組めるでしょうか。成果に貢献していると感じながら働けているのでしょうか。自分じゃなくてもできる、ただの歯車のひとつだとは思わないでしょうか。
まさにここにジレンマがあるのだと思います。
こういった課題は、目に見えにくい課題であるがゆえに、解決までには少し時間がかかるかもしれません。しかし、こういうプロジェクトの現場で起きている課題群を、社会学という観点から俯瞰して眺めることで、新しい視座を獲得していくことこそが、コンサルタントとして課題解決力を高めるための一歩であることも忘れてはいけないのだと思いました。
