社長の背中 第十三章
●第十三章 社長の謝罪
春山不動産の支援が始まって半年が過ぎた。
東城リアルエステートは少しずつ変わり始めていた。
監視カメラは減った。
録音もなくなった。
社員との面談も始まった。
表彰制度も導入された。
しかし。
東城には分かっていた。
制度を変えただけでは足りない。
本当に変わらなければならないのは、
自分自身だと。
ある日。
東城は全社員を会議室へ集めた。
社員たちはざわついていた。
また何か新しい方針だろうか。
誰もがそう思っていた。
東城は壇上へ立った。
資料はない。
パソコンもない。
原稿もない。
しばらく沈黙が流れた。
そして東城はマイクを握った。
「今日は謝りたくて集まってもらった。」
会議室が静まり返った。
社員たちは顔を見合わせた。
東城が謝る。
想像もしていなかった。
東城は続けた。
「私は長い間、間違っていた。」
「社員を信じなかった。」
「成果だけを見ていた。」
「感謝もしなかった。」
「話も聞かなかった。」
東城の声は震えていた。
「たくさんの人を傷つけた。」
「辞めていった人たちにも謝りに行った。」
社員たちは驚いていた。
東城は続ける。
「だが戻ってはこなかった。」
会議室が静まり返る。
「当然だと思う。」
「失った信頼は簡単には戻らない。」
東城は深呼吸した。
そして。
全社員へ向かって深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。」
誰も言葉を発しなかった。
東城は頭を下げたままだった。
十秒。
二十秒。
三十秒。
社長室では絶対に見せなかった姿だった。
やがて顔を上げる。
東城の目は赤くなっていた。
「これから先。」
「皆が信じてくれるかは分からない。」
「許してもらえるかも分からない。」
「でも私は変わりたい。」
「もう一度、この会社を皆と作り直したい。」
会議室は静まり返っていた。
やがて一人の若手社員が拍手をした。
パチン。
小さな音だった。
次にもう一人。
さらにもう一人。
拍手は少しずつ広がった。
大きな拍手ではない。
だが温かかった。
東城の目に涙が浮かんだ。
その時だった。
後方にいた春山不動産の若手営業リーダーが小さく笑った。
「やっとスタート地点ですね。」
東城も笑った。
「そうだな。」
人生で初めて、
心からそう思えた。
会社を大きくすることがゴールではない。
人と共に歩くこと。
それこそが経営だったのだと。
そして東城は、
新しい未来へ向かって歩き始める。
第十四章(最終章)へつづく
