「正しい負け」と「必要な負け」
どんな人でも、勝ち続けることはできません。
誰もが「勝ちたい」と願い、仕事や勉強、人生のさまざまな場面で努力を重ねています。
それ自体は、とても自然で尊いことです。
私は、長い間、高校、大学受験の世界で生徒たちと向き合ってきました。
受験が近づくにつれて、多くの生徒が「合格したい(勝ちたい)」という思いに飲み込まれていきます。
「合格しなければ価値はない」
「負けたら人生が終わる」
「周りより上でなければ意味がない」
そんな、普段では考えられないような、ある種【異常な思い】に支配される生徒もいます。
ただ、このある種【異常な思い】が、受験と必死に向き合ってている生徒には、ある意味、正常なのかもしれませんが。
こうなると、受験は【未来への挑戦】でなく、【恐怖との戦い】になってしまいます。
私は、この状態を勝手に【勝ちたい中毒】と呼んでいました。
だから、この中毒症状を抑えるために、生徒たちには、何度も何度も同じことを伝え続けました。
「目標に向かって努力することが尊い」
そして、「合格は目標であって、決して【すべて】ではない」
この2つだけは最後まで忘れないで欲しいと。
人は勝つことだけに固執し過ぎると心も身体も悲鳴をあげます。
生徒はギリギリで頑張ってます。
だから、私は、生徒から限界を感じたときは、「労をねぎらい」、時には「安心とゆとり」を手渡すようにしました。
でも、現実は容赦なく生徒に襲いかかります。
生まれたばかりの仔馬を競馬のレースに出すような感じです。
どんなに、頑張っても、第一志望校に合格できない生徒は必ず毎年います。
涙を流し、自分を責め、「先生、終わりました」「先生、ごめん」と肩を落とす姿を何度も何人も見てきました。
私は、
「今は辛抱やで」
「だからどうした、これからや。今までの努力を無駄にするなよ。もったいないで」
「俺だけは、君の頑張った姿を知っているから」
としか思えなかったし、としか言えませんでした。
ところが、その後の人生では、その悔しさを力に変え、大きく成長した生徒も少なくないのです。
私の教え子だけに限ると、たくさんいます。
あの時の「負け」があったからこそと思わせてくれる生徒たちです。
彼らは、味気ない社会の中で、一生懸命、【いい味】を出して頑張っています。
私は、彼らを一人の人間として、心から尊敬しています。
だから、私は思うのです。
人生には勝たなければならない場面はあります。
しかし、それと同じくらい、
「負けることでしか学べない」こともあるということを。
私が生徒に教えられたことは、
「人生は勝ったり、負けたりするくらいがちょうどいい」ということです。
そして、負けの中には、「人生を壊す負け」でなく、「人生を育てる負け」があるということを。
人は勝っている時には、自分を過大評価したり、自分の弱点を見落としがちです。
一方、負けた時には、自分に何が足りなかったのかが見えてきます。
勝利は【自信】を与えてくれます。
敗北は【変化】をもたらします。
もちろん、全力を尽くさず逃げてしまった敗北からは得られるものは多くありません。
だから私は負けにも【正しい負け】があると思うのです。
現状の力を出し切り、本気で勝ちにいって、それでも負ける。
その敗北には【大きな価値】があります。
本気で向き合ったからこそ、自分の課題が見え、【次へ進む力】が生まれるのです。
ただ、いくら「正しい負け」と言っても、その渦中にいる時は、人生が終わってしまったかのような挫折と後悔に襲われます。
私も人生で一度、大敗北を経験したことがあります。
ようやく、最近、ペンが持てるようになりました。
人生を懸けていたと言っても過言ではないことでの敗北でした。
自分を責めました。
自分の運のなさを嘆きました。
相手を恨んだことも多々あります。
悩み続け、もがき続け、ようやく、たどり着いた答えはたった一つでした。
「それも、俺」
苦しみの中にいた時の私は、
「それが、俺」
でした。
【が】という現実が【も】という意味に変わるまでに、三年という歳月が必要でした。
「それも、俺」
成功した自分も、失敗した自分も、強い自分も、弱い自分も、すべて今の自分を作っている。
【それも、俺】
そう受け入れられた時、ようやく、敗北は傷ではなく、人生の一部へと変わったのです。
そして、もう一つ大切なのは「何に勝つのか」を選ぶことです。
すべてに勝とうとする必要はありません。
すべてに勝つことなど、誰にもできません。
だからこそ、自分にとって本当に大切なものを勝ちにいく。
力を注ぐ。
そのための、通過点の経験としての負けは【必要な負け】です。
この【必要な負け】は決して無駄にはなりません。
【正しい負け】や【必要な負け】は人生の財産として積み重なっていきます。
そして、自分が負けを経験したからこそ、人が負けた時の痛みを理解し、【思いやり】や【やさしさ】へと変換されていくのです。
負けることは決して単純だったり、悪いことではありません。
それは、新しい自分へと成長するためのプロセスであり、次の勝利へ向かう大切な一歩なのです。
私たちの目線は、
勝った時は やや下向きに
負けた時は やや上向きに
普段は、まっすぐ前を
これくらいでちょうどいいのかも知れませんね。
