「バス釣りに行かせてください」生徒の正直すぎる欠席理由が、私をアイドルのライブへ向かわせた
教員として働き始めて18年。私の中には、ずっと変わらずに決めているルールが一つある。
それは、「子ども達に要求することは、必ず自分もする」ということだ。
現場で私が特に大切にしている行動は、大きく3つある。
① 丁寧で気持ちの良い挨拶をする。
② 毎日の掃除は、生徒たちに任せきりにせず一緒にする。
③ ミスをしたら素直に謝る。
この中で、私がもっとも重要だと思っているのが
③ ミスをしたら素直に謝る
である。
私の中での「謝る」という行為には、ただ失敗を詫びることだけでなく、「このままだと迷惑をかける(謝ることになる)かもしれない事柄を、前もって正直に伝える」ということも含まれている。
このルールを自分に課し、徹底するようになったのには理由がある。
私は普段、生徒が学校や補習を休むことに対して、ものすごく厳しい教員として認知されている。本当に辛いことがあったり、よほどの事情がない限り、安易な欠席は許さない。生徒たちもそれをわかっているので、「休みます」とは圧倒的に言いにくい空気があったと思う。
しかしある日、一人の男子生徒が私のところにやってきて「どうしても補習を休ませてほしい」と言ってきた。 その理由は、私の想像をはるかに超えていた。
「先生、昨日、めっちゃいい雨が降ったんです。だから今日行かないと、絶対に出会えないブラックバスがいるんです」
体調不良でもなく、家の用事でもない。
「いい雨が降ったから釣りにいきたい」
普段の私なら激怒してもおかしくない場面だ。しかし、これほど休みづらい雰囲気の中で、小細工も嘘も一切交えず、自分の情熱をまっすぐに伝えてきたその勇気に、私は心底驚かされてしまった。
何より、そのごまかしのない熱量に完全に負けたのだ。
元々まっすぐに自分の思いを伝える生き方をしてきたつもりだったが、この出来事を通じて
「自分の言葉で正直に伝えること」
の強さを、改めて教えられた気がした。
それからしばらくして、今度は私自身が試される出来事が起きた。
私は部活動の顧問としても、生徒たちには「安易に休むな」と厳しく指導してきた。しかし、どうしても行きたい「アイドルのライブ」の予定ができてしまったのだ。
「親戚に不幸があって」「急な出張が入って」……大人であれば、角が立たない便利な嘘はいくらでも思いつく。生徒にもバレないだろうし、こっそり嘘をついて行ってしまおうかという考えが頭をよぎったのも事実だ。
だが、あの時の男子生徒のまっすぐな言葉が浮かんだ。私は勇気を持って、部員たちに本当のことを言うと決めた。
「実は、どうしても行きたいアイドルのライブがある。握手会とチェキ会のために、朝の2時に出発して列に並ばせてほしい。だから部活を休む」
普段、あんなに厳しく叱りまくっている私が、真顔で
「アイドルのチェキ会に行きたいから休ませてくれ。あと握手も。」
と頭を下げたのだ。呆れられるか、反発されるか。少しの覚悟を持っていた。
しかし、予想に反して、子どもたちはなぜか大喜びしていた。
「先生、いってらっしゃい!」
と、普段は見せないような笑顔で盛り上がりながら送り出してくれたのだ。
その時、心から「素直に伝えてよかったな」と思った。
生徒に対して
「素直に謝りなさい」
「正直に言いなさい」
と口で言うのは簡単だ。
しかし、実際に自分がいざ「大人の立場」でそれを実行するとなると、見栄やプライドが邪魔をして少し勝手が違う。
それでも今振り返って確信するのは、適当な嘘をついたまま後ろめたい気持ちで生きていくのと、素直に言って全員にわかってもらった上で心から楽しむのとでは、天と地ほどの差があるということだ。
カッコ悪い自分も、自分の欲求も、ごまかさずにまっすぐ伝える。 あの時、大人の特権である「嘘」を使わず、子どもたちの前で正直になって本当によかったと、今でもそう思っている。

