Katz's Delicatessenと、私の大切なNYの記憶
Katz's Delicatessen(カッツ・デリカテッセン)は、1888年に創業したNew York(Lower East Side)を代表する歴史ある老舗デリカテッセンです。
映画の舞台としても有名で、名物の「パストラミサンドイッチ」を求めて連日世界中から人々が訪れる、まさにニューヨーカーのソウルフードと言える存在です。
私にとっても Katz's Delicatessen は単なる有名店ではありません。
訪れるたびに異なる誰かと、あるいは一人で、幾度となく大切な時間を重ねてきた、少し胸がキュンとする特別な場所です。
初めて足を運んだのは、確か2度目のNew York旅行のとき。
同行していた会社の同僚が「ぜひ行きたい」と誘ってくれたのがきっかけでした。
自由の女神を訪れた帰り道、二人で徒歩で北上し、Houston Street を東へ折れて歩きました。
「本当にこの道で合っているのかな……」と不安になるほど長く感じた道のりは、今でも鮮明に覚えています。
勧められるままに食べた名物の Pastrami Sandwich(パストラミサンドイッチ)。
当時はまだテイクアウト(To Go)をお願いする勇気もなく、必死に完食したのも良い思い出です。
それから、この店には何度も足繁く通うことになりました。
4度目のNew Yorkで、初めて一緒に旅した友人たちと3人で訪れた時には、初めて「お持ち帰り」にチャレンジしました。
6度目の旅では、一人でフラリと立ち寄り。
そしてNew Yorkで暮らし始めてからは、K氏をはじめとする5~6人の仲間たちと賑やかにテーブルを囲みました。(その時の賑やかな思い出については、また次回詳しくお話ししますね。)
でも、最も強く心に刻まれているのは、5回目の訪問——2001年9月11日のことです。
日本から母と母の友人が遊びに来ていて、二人を案内しながら地下鉄で南下していた最中、あの世界を震撼させた出来事が起きました。
何が起きたのか正確には分からないまま、私たちは City Hall Station で電車を降ろされました。
これ以上南へ進むことはできないと悟り、とにかく北を目指して歩き出しました。
地下鉄はもちろん、バスも Out of Service(運転休止)。
街中を黄色く染めていた Yellow Cab の姿すら、1台も見当たりません。
ただひたすら、歩くしかありませんでした。
緊迫した空気の中、私が「何か食べようか」と声をかけると、二人は場を和ませようとしてくれたのか、「そうしよう!腹が減っては戦はできぬ、やね」と明るく返してくれました。
途中で見かけるレストランは、混乱や暴動を恐れてか、どこも軒並みシャッターを下ろしています。
「営業しているだろうか……」と祈るような気持ちで向かった Katz's Delicatessen。
そこは、テロの直後という異例の状況の中でも、変わらず暖簾を掲げて営業していました。
日頃から街の人々の心とお腹を満たし、元気づけてきたこの店の頼もしい素顔を見た気がしました。あの日、私たちはここでようやく心を落ち着かせることができたのです。
その後、2011年に会社の同僚と訪れた6回目、そして一人旅の途中に立ち寄った7回目。
振り返れば毎回、注文するのは決まって Pastrami Sandwich 一択でした。
一歩店内に足を踏み入れると、「やっぱりパストラミでしょ!」という活気あふれる店員さんたちの絶妙なセールストークに引き込まれてしまうから不思議です。
一口食べ始めると「やっぱりすごい量……重い……」と思うのに、添えられたピクルスの浅漬け(Half Sour)と古漬け(Full Sour)の絶妙な酸味が最高のアシストをしてくれて、気づけば夢中で食べてしまうのです。
どちらが欠けても成立しない、完璧なコンビネーションでした。
気づけばもう15年ほど、あの賑やかな店内には足を踏み入れていません。
けれど、テレビの旅番組などでこの老舗が紹介されるたび、あの香ばしいスモーク肉の香りと共に、様々な年代の思い出が一気に蘇ります。
ニューヨーカーにとってはもちろん、私にとっても人生の節目節目に寄り添ってくれた、宝物のような場所なのです。
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