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口熊野とんかつ追跡事件―サキティ少女の事件簿#7

2026.2.1

和歌山県、上富田町。
世界遺産、
熊野古道を走ることができる
唯一のマラソン大会。

その会場で、
一件の追跡事件が起きた。

――

口熊野ハーフマラソン。
昨年に続く、2度目の現場である。

初のハーフマラソンから1年が経過し、
2回目のジャズマラソンでは
悲願の2時間切りを達成。

もっとタイムを縮めたい。
さらに、その先へ。

夏からペース配分も意識し始め、
練習時間を増やしていた。
8月には月間走行距離180kmを達成し、
その脚には、
少しだけ自信が宿っていた。

この頃からようやく、
がむしゃらに走るダチョウから、
周囲を観察する
ガチョウくらいには進化したように思う。

そしてその頃、
永遠のライバルに出会った。

地元の大会で、
何度か彼を見かけていた。
そして、いつも勝てない。

トレードマークであるTシャツには、
とあるとんかつ屋の店名が刻まれていた。

スタート地点にはメイド服。
リクルートスーツ。
スーパーマリオ。
様々なコスプレランナーがいるが、
私が目指すのは、とんかつ屋。
ただ一人。

号砲が鳴り、
私は真っ直ぐにその背中を追い始めた。

……やっぱり速い。

5:40/km。
予定通りのスタートだったが、
目標を見失ってしまった。

だが、ここで焦っては、
飛んで揚げ油に入る冬のガチョウ。
私が目指すのは、
から揚げではなくとんかつのはずだ。

5:20/km。
5:10/km。
作戦通りのペースで脚を進めていく。

10km地点、52:58。
13km地点、1:08:28。
ベストタイムを目指すには、
順調なペースだった。

ただ願わくば、
もう一度とんかつ屋に会いたい。

……

そんな、
揚げ油のように熱い願いが叶ったのは
14kmを過ぎたあたりだった。

間違いない。
オレンジ色のTシャツ。
揚げたてのような熱気。
背中に刻まれた、とんかつ屋の文字。

やっと、
とんかつを捕まえた――はずだった。

5:05/km。
さらにペースを上げ、
一時は併走したように見えた。
しかし無念にも、
再び引き離される。
ラストでは
4:55/kmまでペースアップしたが
またしても、
数十秒の差で敗れた。

結果は1:49:37のベストタイム。
だが、
とんかつ屋に連敗した
ショックは大きかった。

何を食べたら、
もっと速く走れるんだろう。
豚カツか。
ヘレカツか。
それともメンチカツなのか。

……ロースカツの可能性も、捨てがたい。

だが、空腹には勝てなかった。

とりあえず、
ゴール後に振る舞われていた
鮎の干物五匹をやけ食いした。
口いっぱいの香ばしい鮎を、
温かい茶粥と、
冷たいビールで流し込んでいる間に
とんかつ屋は姿を消していた。

答えはまだ出ていない。

その答えはきっと、
とんかつ屋の背中だけが、
知っている。

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