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小説『悩めるいずしい日々ぞ』

※登堎人物

 リリヌ  䞻人公。高校䞀幎生。マリママずロヌが倧奜き。
 マリママ  リリヌの祖母。
 ロヌ  リリヌの飌い猫。グレヌの毛。
 マリ  リリヌの母芪。倫の浮気により情緒䞍安定。
 お父さん  リリヌの父芪。浮気をしおマリずケンカが絶えない。
 ゚リ  リリヌの友達。
 リバヌス  リリヌの友達。 



「悩めるいずしい日々ぞ」

 十二月初旬。十六歳を迎えたばかりのリリヌが倧切にしおいるのは飌い猫のロヌ。党身、黒色にパりダヌを萜ずしおしたったようなグレヌの毛を持぀少し倪った可愛い子。膝の䞊にロヌを乗せお顎を撫でるず目を现めお嬉しそうに喉を鳎らす。その姿にほっずしながらもリリヌは最近䞡芪の䞍仲に頭を悩たせおいた。

 喧嘩は、倧声を出したり殎ったりするこずだけじゃない。その堎の空気をひんやりずさせるず蚀う眪もある。そんな䞭に偶然ドアを開けお入っお行こうものなら、たちたちこちらたで冷凍されおしたう。
 倧嫌い。お父さんもお母さんも。きっず䞡芪の離婚は秒読み間近。恋愛の先に結婚があったずしお、どうしおあんなに互いを軜蔑しおしたう仲になっおしたうのだろう。それでも䞖間のドラマや映画は恋愛に溢れおいお、雑誌でも倧いに薊めおくる。

 リリヌは思う。奜きな人は恋愛関係の䞭にしか存圚するずは限らない。䟋えばマリママ。マリママずは母方の祖母をリリヌが幌い頃そう呌んでしたっおからずっずそのたた呌ばせおもらっおいる愛称。
 『マリ』はリリヌの母芪の名前。おばあちゃんは『マリ』の『ママ』だから『マリママ』。リリヌはマリママが倧奜き。マリママは普段物静かな仮面を被っおいるけれど時々やんちゃな玠顔が出珟しお、倧奜きなスポヌツ番組を芳おいるず血が隒ぐのを抑えられないのをリリヌは知っおいる。姿勢正しくヒヌルを履くけれど、べらがうに高いヒヌルではなく自分が䞀番きれいに芋えお、それから転倒しないよう、歩きやすい高さを熟知した䞊で靎を遞んでいるのが玠敵。服は神秘的で生地だけを纏っおいるように芋える䞍思議な圢のデザむンが倚いがコヌトを矜織るず裟から芋えるその生地がノェヌルのように四方に広がり、花びらのような矎しさずなり、思わず息を吞む。老県鏡はたるでゞュ゚リヌ。蚈算されたマリママのおしゃれが倧奜き。

 䞍愉快だったはずがい぀の間にかマリママのおしゃれぞの空想に浞っおいたのでドアベルが鳎っお死ぬほど驚いた。膝の䞊のロヌも䞀緒に飛び䞊がった。二床鳎らしお、次に䞀床。マリママだ。嬉しくおすぐ階䞋に䞋りお行こうずしたが、階段の䞊からお母さんが泣きじゃくっおいるのが芋えた。お母さんはマリママに背䞭を撫でられ、慰められおいた。たるで赀ん坊のようだ。リリヌは䞋に行くのを諊めお郚屋に戻った。

 ここたで喧嘩が絶えなくなったのはお父さんが浮気をしたからだ。しかも浮気盞手にもらったらしい手玙を広げたたたリビングに眮き忘れたりするからだ。お父さんのそんな迂闊さで、愛し愛されおきたずいうお母さんのプラむドがずたずたになった。そこからだ。家の空気が冷え出したのは。リリヌも䜕ずなく食欲が枛り䜓の調子が悪い日が増えた。けれどロヌずマリママ、そしお孊校に行けば友達がいる。だから登校時は足に矜が生えたように軜い。倧げさでもなくこの気持ちがあればただ生きおいけるずさえ思う。
 ドアをノックする音が聞こえた。
「リリヌ、ごきげんいかが」
「マリママ」
 リリヌは勢い良くドアを開け、マリママに抱き぀いた。
「あら、リリヌ、銙氎を倉えた」
「気づいた 嬉しい。倧奜きなブランドの新䜜なの」
「いい銙り。ずおもよく䌌合うわ」
「マリママも぀ける」
「ううん。リリヌには䌌合うけれど私には少し涌しすぎるわね」
 確かに柑橘系でフラワヌベヌスではない分、暖かさよりはさっぱりずしたむメヌゞだ。それを『涌しい』ずいう蚀葉で圩っおくれるのが嬉しい。マリママはリリヌがメむクをするこずも、こうしお銙氎を぀けるこずも吊定しない。それに倧抵の銙氎は詊䟛品で、そこから本圓に気に入った銙りを芋぀けた時だけおこづかいを貯めお買う。パルファムではなく少し軜めのオヌドトワレ。お母さんはこの銙氎のボトルを芋た時「子䟛にこのブランドは早いわよ」ず蚀った。お母さんは蓋を開けおこの銙りを嗅いだこずもないから、この爜やかな銙りすら知らずにいる。もちろん倧手のブランドではあるけれど今ではリリヌずそれほど幎が倉わらないティヌン向けの銙料がき぀くない手軜な䟡栌のラむンも登堎しおいるずいうのに。
「ねえ、マリママ。さっきお母さん、泣いおたよね」
「知っおたの 倧倉よね、マリも。リリヌはどう思う 私はマリに少し距離を眮くこずを薊めたの。マリはあなたのこずを気にかけおいたけれど、自分たちが喧嘩をする蚀い蚳に子䟛を䜿っちゃだめよ、ず蚀ったわ」
「ありがず。わたしは離婚したらいいず思う。お母さんはい぀もいらいらしおいるし、お父さんなんおわたしが挫画を読んでいるだけでだらけおるっお蚀っお咎めるんだよ。䜙裕がなさ過ぎる」
 マリママはそっずリリヌの頭を抱き寄せた。
「リリヌは䜕も悪くないのに倱瀌ね。あなたはずっおもいい子よ」
 撫でる手の滑らかさにリリヌはい぀も泣きたくなる。このたた包たれおいたいず思う。
「ねえ、マリママ。どうしお恋をしたり結婚なんおしなくちゃいけないのかな。お母さんたちを芋おいたらずおもそんな気持ちになれないよ」
「そうね。確かにずきめく気持ちは玠敵だけれどね。だからず蚀っお恋がなくたっお玠晎らしい人生には倉わりがないわ。ただ、恋は時に友情に倉化するこずもある。私ずおじいちゃんの人生も埌半は友情だったず思うの。恋愛の盞手ず蚀うよりも倧切な友人だった。互いに奜きなこずをしお、ふず隣を芋るず互いがいお䜕でも䞀番にお話をしたいず思う。そんな仲」
「それが䞀番玠敵」
 リリヌは憧憬を抱きながら少ししんみりずする。マリママずおじいちゃんは本圓に仲が良かった。ずっず䞀緒にいるものだず過信しおいた。けれどおじいちゃんは数幎前、脳溢血で倒れ、他界した。あたりにも急だった。あの時のマリママは取り乱しはしなかったけれど限りなく淋しそうな瞳で、圌ずはさよならが近いず思っおいたのよ、ず蚀った。あの柄み切った湖のような瞳をリリヌは忘れられない。お母さんも淋しがっおいた。おじいちゃんずマリママの関係はリリヌにずっおもお母さんにずっおも憧れだった。

 そんな玔粋な想いを共有できたお母さんだからこそ、互いの気持ちが砎綻しおいるのに婚姻関係が続いおいるのがリリヌにはよく理解できなかった。別に今曎お父さんに戻っおきおほしい蚳じゃないし、たしおや感情的になるほどお父さんのこずをリリヌは奜きじゃない。぀たり、無関心。だけど他に奜きな女性がいおお母さんを苊しめおいるくせに家には垰っおくる。それでやっぱりどこか埌ろめたさを抱えおいるせいか、お母さんずの普通の䌚話でもすぐに勘ぐっお喧嘩になっおしたう。それがずおも嫌。そこをお父さんはわかっおいない。たたにリリヌの冷たい芖線が刺さるのか、家が䞀番リラックスするなあ、なんお癜々しく蚀うけど、䞀䜓どの口が蚀っおいるわけ
「リリヌ、倧䞈倫」
 はっず気づくずマリママが心配そうにリリヌの顔を芗きこんでいた。
「ごめんなさい。最近考えごずをしおいるずその䞭に深く沈み蟌んじゃうんだ。だから蚀い蚳かも知れないけど、恋するっお䜕だか別次元のお話みたく思える」
「  そう」
 マリママは神劙にひずこずだけ蚀っおたたリリヌの髪を優しく撫でお、リリヌの膝の䞊のロヌの頭も撫でおくれた。

「マリママ、たた来おね。絶察だよ」
 リリヌはマリママの垰り際、今にも泣き出しそうな顔をしお蚀った。マリママはそんなリリヌの頬を䞡手で包み、すぐに来るわよ、ず笑っお蚀った。玄関で別れた時、颚の冷たさに気づいた。もうカヌディガンじゃ寒い。

 次の日、孊校で仲良しの゚リずリバヌスの䞉人で䞀緒にクリスマスパヌティヌの蚈画を緎っおいた。行動的なリバヌスはパヌティヌの日、い぀も集うカフェを貞切にできるように店長さんに話を通しおくれおいた。そこはリリヌたちが孊校垰りにアむスクリヌムを食べに行ったりおしゃべりする時に利甚する店だ。店長さんずもすっかり顔芋知りだった。この玠晎らしい提案に文句など出るはずもなく満堎䞀臎でリリヌず゚リずリバヌスはハむタッチした。あずはクラスメむトを誘うのみ。

 しかし、家に戻っおパヌティヌの蚈画を母に話すず反察されおしたった。昌間だずはいえ、そんな集たりは䞍道埳だず蚀うのだ。
「どうしお決め぀けるの お酒なんお飲たないしみんなずおもいい子たちだよ」
「リリヌだっおいい子たちっお決め぀けおいるじゃないの」
「友達だもの」
「怒鳎らないでちょうだい。お父さんみたいよ」
 母芪はこめかみを抑えお、倧きくため息を぀いた。䜕それ。その仕草にリリヌはいら぀いた。
「もういい、あなたず話したくない。ずにかく "健党" なパヌティヌの蚈画は進めるから」
「リリヌ、意地を匵らないで。心配しおいるのよ」
「意地なんか匵っおない わたしはみんなが倧奜きなの お母さんずお父さん以倖はね」

 リリヌは階段を駆け䞊がっお郚屋に篭った。
 別にわかっおもらわなくおもいいけど、あんな酷い態床っおない。自分だけが悩みを抱えおいるような顔をしお。それに、わたしは本音を蚀っただけなのにお父さんみたいだなんお。だから売り蚀葉に買い蚀葉で蚀いたくもない蚀葉をお母さんに投げ぀けおしたったじゃない。本圓はお母さんだけが悪いなんお思っおないし、嫌いじゃないのに。リリヌは悲しさず悔しさでいっぱいになり、ベッドにう぀䌏せになっおじっずしおいるずリリヌの柔らかな髪にロヌが慰めるようにじゃれる。可愛いロヌ。
「もしわたしがこの家を出る時は絶察ロヌも䞀緒だよ」
 そうロヌに話しかけた。

   ãƒªãƒªãƒŒã¯æ¯ãšã®æºãŒã©ã‚“どん深くなるのを感じおいた。父ずはもう長らくたずもに顔も合わせおいない。毎日家庭の雰囲気は殺䌐ずしおいおリリヌの入る䜙地はないように思われる。リリヌは顔を䞊げ、芪の悩みはわたしの悩みずは違う。わたしにはわたしのお仕事がある。勉匷ずクリスマスの蚈画で忙しいのだ、ず気を取り盎した。明日ぱリずパヌティヌ甚のドレスを芋に行く。それを思うずわくわくする。楜しみ。そんな気持ちずは裏腹にこの日は䜕だか疲れおしたっお倕食を残し、入济埌すぐベッドに暪になった。ロヌがずこずこ歩いおベッドの䞊に乗り、リリヌの䜓の暪に朜り蟌んできた。
「ねえ、ロヌ、ドレスはマリママの若い頃を参考にしようず思うの。アルバムで芋たこずあるんだ。すごく玠敵でモデルみたいなの。ロヌもマリママが奜きでしょ」 
 ロヌは既に目を閉じおうずうずしおいた。

 朝、リリヌは食欲がなくお朝食も半分以䞊食べられずオレンゞゞュヌスだけを飲んだ。心配する母芪の顔を芋ずに玄関を開けお靎のストラップを留めながら話しかけた。
「今日は孊校の垰りに゚リず買い物に行くから少し遅くなる。ロヌのごはんずお氎、お願いしたす」
「わかったわ。あたり遅くならないようにね」
「うん。行っおきたす」
 すぐにドアを開け、玄関を出た。少しだけわだかたりがあったがそれでも䌚話ができたから良かった。ただドレスを買うこずは内緒のたただ。

 リリヌが家を出たあず、すぐに䞡芪の間で喧嘩が始たっおいた。リリヌがいる間は寝宀に隠れおいたようだ。さすがに酒に酔っお朝垰りし、匷い銙氎の匂いをぷんぷんさせ、着衣も乱れおいた父芪の姿を自分もあの子に芋せたくなかったのだろう。マリはい぀たでこの状態が続くのかわからなくなっおリビングに行っお頭を抱えた。マリママがそのそばに寄り添う。
「もう嫌。だめだわ。このたたじゃ䜕もかも倱くしおしたう。優しい気持ちすら  」
「マリ、あなたが倧倉なのはもちろん刀っおいるわ。けれどリリヌの気持ちもきちんず考えおあげお。あなたは気づいおいないけれどあの子の心は垞に゚マヌゞェンシヌを発しおいるのよ」
「マリママ、それはどういうこず」
 その時、玄関のドアが開く音ず「うわっ」ず父芪が叫ぶ声が聞こえた。
「䜕ごず」
 マリが䞀瞬だけ窓を芋た時、芋慣れた埌ろ姿を芋お驚愕した。ロヌが倖に出おいる。
「あなた、そばにいるならロヌを぀かたえお」
 しかし、猫の足に適うはずもなく父はお手䞊げ状態だった。ロヌが倖に出おしたった原因は、父がロヌの姿を確認もせず玄関のドアを開けたからだ。生たれた時から家で暮らしおいるロヌは倖の䞖界をたったく知らない。そしおマリはリリヌにロヌのこずを頌たれたばかりだ。
「倧䞈倫だよ。猫には垰巣本胜があるんだ。すぐに垰っおくるさ」
「あなたはリリヌにも同じこずが蚀えるの」
「君は猫ず嚘を䞀緒にするのか」
 どんな蚀葉も諍いになっお嚘がそっちのけになっおしたうふたりに察し、マリママは厳しい目を向けた。

 リリヌぱリずふたりでたくさんのお店を芋お回った。マリママが着る蝶の矜根のような矎しい生地のドレスはやはり高䟡なので手が出ず、内心ため息を぀いた。途䞭でカフェに寄っおミルクティヌを飲み、おしゃべりをしおたたドレス探しに出た。なかなかピンず来るドレスが芋぀からず、先に決めおしたっおいた゚リが䞀緒に探しおくれた。その゚リがリリヌの肩を叩く。
「ドレスもいいけどこれどう リリヌに䌌合うよ」
 ゚リがリリヌに薊めお来たそれはずおも繊现な䜜りのショヌルだった。薄い緑色をしおいおたるでマリママの深く柄んだ瞳のようだった。生地にはきらきらず茝く糞が織りこたれおいおずおも矎しい。
「きれい  」
 ため息のような声でリリヌはそのショヌルにそっず觊れた。少し倀段が匵ったけれど運呜だず思い、芋぀けおくれた゚リに感謝をしおそのショヌルを賌入した。その分ドレスの条件は少しだけ䞋げたけれど満足だった。ふたりは買ったばかりのドレスを纏っお少し倖を歩いた。少し高いヒヌルのストラップシュヌズにもよく䌌合っおる。リリヌは久しぶりに心が軜くなるのを感じた。

 その時、ロヌに良く䌌たグレヌの猫が小走りに向かいの道路を駆けお行った。たさか、こんなずころにいるはずがない。そう思ったが胞隒ぎがしお゚リに電話を借りお家に電話をした。
「リリヌ ゚リちゃんの電話よね。どうしたの」
「うん、気になるこずがあっお。ねえ、ロヌは家にいるよね」
 母芪は驚く。
「  えっ、どうしお 虫の知らせかしら。あのね、倖に出ちゃったの。倧䞈倫よ、きっずすぐに怖くなっお戻るず思うわ。それよりあなたこそきちんず早い時間に」
 リリヌは途䞭で電話を切った。゚リに事情を話すず䞀緒に探すず蚀っおくれたが、倕闇が迫り蟺りは暗くなっおきた。リリヌは笑顔を䜜っお母の台詞をそのたた゚リに䌝えお安心させ、今日はずりあえず垰ろう、ず蚀い、゚リずは別れおひずりで探すこずに決めた。
「ロヌ、わたしを眮いお行かないで」
 リリヌはロヌに䌌た猫が姿を消した狭い路地ぞ入っおいった。

 家では母ずマリママふたりになっおいた。父は自分に非があるのでそそくさず散歩がおらロヌを芋おくる、ず蚀っお家を出おいた。ふたりは窓にぞばり぀くようにしおロヌの姿を探しおいた。先ほども家の倖にロヌの倧奜きなおや぀を持っお名前を呌んだが、これだけ車や人の埀来が激しい時間垯だず怖がっお出おこないだろう。ふず時蚈を芋るず二十時を回っおいた。リリヌが倖出するには遅すぎる時間だ。リリヌは携垯電話を持っおいない。
「マリ。リリヌがよく行くカフェに連絡しなさい。いなければ仲良しのお友達のずころにも」
 マリママはきっぱりずした口調で蚀う。カフェは既にリリヌたちが垰ったあずだった。すぐに孊校の連絡垳を出しお片っ端からリリヌの友達の家に電話をかけた。

 リリヌはひずりきり、路地裏でしゃがみ蟌んでいた。
 最近満足に食事を摂っおいなかったせいだろうか。突然貧血を起こし、気持ちが悪くなったせいだ。誰もいないアパヌトの゚ントランスを芋぀け、その䞭に入り、具合の悪さには勝おず叀い朚の床に暪になった。ショヌルだけは胞に抱いお床にくっ぀けずに。そのたた仰向けになるず小さな倩窓が開いおいお、いく぀か星が芋えた。
「ロヌ、どこにいるの。ひずりにしないで。わたしも䞀緒に連れお行っお」
 リリヌは぀ぶやきながら意識を倱った。冬の颚が冷たい。

 リリヌの倢の䞭で、マリママによく䌌たおばあさんず、その埌ろをロヌのような猫が埓うように歩いおいた。
「マリママ ロヌ」
 リリヌは蚊ねる。マリママらしき人が振り返っお埮笑んだ。
「そのドレスずショヌル、玠敵ね。ずおも䌌合っおいるわ」
「ありがずう マリママ、ロヌず䞀緒だったんだね」
「そうよ。早くおうちに垰らなくちゃ」
 リリヌはマリママに抱き぀いた。
「わたし、マリママず䞀緒にいたい。垰りたくない。ううん。どこにも行きたくない。これからも人生が続いお行くこずが怖いよ」
「リリヌ、本気なの」
「本気だよ」
「それじゃあ、たずはあなたがおうちに垰るずころから始めたしょうか。倧䞈倫、私も䞀緒に行くから」
「ありがず、マリママ」
 マリママが手を差し延べる。なぜだろう、マリママの手が透けおいた。がんやりず手を芋おいるず、あっずいう間にリリヌは自分の郚屋のベッドの䞭にいた。すぐに䞊䜓を起こすず目眩がしおベッドから萜ちそうになり、マリママが支えおくれた。

「  これは倢」
「さあ、どちらでしょうね。倧䞈倫」
「少し目眩がする」
「リリヌ、私ず䞀緒に暮らす」
 リリヌは顔を䞊げお瞋り぀くようにマリママを芋た。
「マリママ、嬉しい。ずおも嬉しいよ。ロヌも連れお行っおいいでしょ」
「残念だけどそれはできないわ」
「どうしお」
「詳しくは蚀えないけれど、ロヌは無理なのよ」
 リリヌは目を䌏せ、しばらく考え蟌んだがやがおマリママをたっすぐ芋぀めた。
「わたし、ロヌだけは幞せにしたいの。この子をわたしず同じ寂しい目に遭わせたくない。だからマリママず暮らすのを諊める  」
 リリヌにずっお、あたりにも耇雑な感情だったので語尟を話す声がすがんでしたった。
「いい子ね」
 そう蚀っおマリママはい぀ものように優しく髪を撫でおくれた。
「リリヌ、あなたの考え方が奜きよ。人生は遞択の連続なの。時折考えすぎお疲れおしたうかも知れないけれど、その時は党おを投げ出しおでもいいから䜓を䌑めお。その間は自分の掗濯の時間よ。掗濯を終えおたっさらになったらたた遞択の繰り返し。でもそんな人生の真っ只䞭で少しでも寛げる堎所があったらどんなにか安らぐず思うの。だからあなたの心を安堵させおくれるものを倧切にしおね。ロヌや友達を思いやるあなたは玠晎らしい遞択をしおいるわ」
 リリヌはマリママの蚀葉を祈りのように胞に受け止めた。髪を撫でるその手はやはりあちら偎の景色が透けお芋えたのでリリヌが疑問を投げかけようずした時、芖界が遮られた。

 やはり家にいるのは倢だった。
 リリヌは先ほどず同じ床の䞊にいた。䜓がすっかり冷えお寒気がする。けれど少し眠ったおかげで目眩は治たり䜓が動くようになった。ずにかく家に戻ろう。路地裏は灯りが少なく、よく芋えなくお怖い。おたけにどうやっお垰ったらいいのかわからない。リリヌの党身に鳥肌が立぀。途䞭䜕床も靎の裏が滑っお転びそうになった。少しでも明るい堎所を目指さなければ。
 するず、䞍安なリリヌの目にロヌのしっぜのような茝きが映り、招くようにゆらりず動いた。リリヌは蚳がわからなかったがそれでもそのしっぜのような光を远いかけた。するず芋慣れた街角が珟れ、そこを折れるずリリヌの家があった。玄関先にはお父さんもお母さんも揃っお立っおいた。今日いちばんの倢だず思った。
「リリヌ 䞀䜓どこに行っおいたの」
 䞀瞬、怒られるかず思い、リリヌは身を竊めた。しかしふたりずもリリヌをしっかりず抱きしめた。
「  お母さん、お父さん、これは倢」
「バカね、倢じゃないわよ」
「そうだよ、ずおも心配したよ」
 リリヌの耳に、ふたりの声が優しく確かに聞こえた。

 埌日、熱があったず刀り、しばらくベッドに暪になる日々が続いた。あの日、リリヌを家に導いおくれた幻のような光の正䜓は結局わからずじたいだった。ロヌはリリヌの垰宅埌、間もなく垰っおきた。色んな堎所をさ迷ったのか蜘蛛の巣を䜓䞭に匕っかけおいた。リリヌはそんなロヌを腕の䞭に抱きしめお、えらい子ね。垰っおきおくれおありがずう、ず䜕床も蚀った。ロヌはリリヌの腕の䞭で震えおいた。

 リリヌの容態が萜ち着いおから、お母さんに話を聞くず、駆けおきたリリヌのドレス姿を芋おお父さんもお母さんもずおも驚いたそうだ。マリママの若い頃にそっくりだったずいう。そしおい぀もリリヌを可愛がっおくれたマリママは、おじいちゃんが死んでから間もなく埌を远うように亡くなっおいた。もう数幎前になる。マリママは䞍安定な母の前にしか姿を珟さなかった。けれどい぀の間にかリリヌにたで自分の姿が芋えるようになり、おたけにマリママが死んだこずも忘华しおいるずいう事実を知り危険だず考えた。だから自分の嚘であり、リリヌの母芪であるマリに譊告ずしお䌝えた。その譊告は父芪にもわからせる必芁があった。父芪の前に突劂亡くなった矩母が姿を珟したので仰倩しおいたが「しっかりなさい。もしもリリヌを倱ったらあなたたちは浮気の喧嘩なんかじゃ枈たないような倧きな埌悔をするのよ」この蚀葉を聞き、父芪はマリママが珟れた恐怖が瞬時に吹き飛んだ。本来いないはずのマリママだからこそ信憑性があった。マリママの厳しい愛情が䞡芪を束の間結束させた。

 思えば、ずっず食欲がなく抵抗力が萜ちおいたため貧血や熱たで出しおしたったリリヌだが、今回のこずで栄逊を摂るようになるずマリママが既にこの䞖の人ではないこずを自然に思い出した。だからこそマリママず䞀緒にいた時間は今考えるず䞍思議だ。けれどたったく怖くなかったし幻の䞭をがんやり過ごしおいた蚳じゃない。だからマリママずの茝く日々を『真実の倢』ず名づけた。それから皋なくしお䞡芪の離婚が決たり、リリヌは自らの意志で母の元で暮らすこずを遞択した。そしおリリヌはふず思い出す。マリママが『真実の倢』の䞭で心に刻んでくれた蚀葉を。人生は遞択の連続。それを思っただけでグッず䜓が重くなるけれど、マリママの蚀ったように、少しず぀䌑みながら生きようず思った。

 逃げ出したあの日からロヌにも少しだけ倉化があった。い぀ものようにお気に入りの堎所ですやすやず眠っおいるが、うっかりいきなり䜓に觊れおしたうず驚いお瞬時に機敏な反応をする。ただ盞手がリリヌずわかるずすぐに安心した顔になり眠りの続きに戻った。もういちど柔らかく觊れるず今床はおずなしく撫でさせおくれた。それがリリヌにはせ぀なく映る。
「怖かったんだね。わたしも怖かった」
 リリヌの目に涙が溢れ、もはや衚面匵力だけで保っおいお今にも流れる星のように震えおいる。
「ロヌ、あなたが垰っお来おくれお嬉しい」

 ―― リリヌ、それはあなたにも同じこずが蚀えるのよ。
 あなたがあたりにも儚げに芋えお、本圓にあなたを連れお行こうかず思った。けれどあなたはロヌのこずを決しお芋攟したりしなかった。もちろん寂しかったけれど嬉しさの方が倧きかった。私の手を取るようなこずが若いあなたに二床ず蚪れたせんように。

 遠くから空気が揺れるようにマリママの声が聞こえた気がしお瞳を動かすず、その拍子に涙がこがれた。枩かなリリヌの涙で郚屋の湿床がほんの少し䞊昇し、銙氎が蒞発する。リリヌに䌌合うずマリママが蚀っおくれた銙り。顔が火照り出したので、ロヌが出られないくらいに现く窓を開けお星を眺めた。リリヌの息が癜くかすんで消えおいった。その隣にもうひず぀、癜い吐息が溶けお行くのが芋えた。




《  了  》

初出 2016-11-22
掚敲 2024-12-20

あずがき

登堎人物にラ行が重なったため、刀りやすいよう珍しく登堎人物を曞き出しおみたした。2016幎に曞いた䜜品ですが、どうしようもない珟実はあるけれどそれでも優しい物語を読みたいず思い、掘り起こしお来たした。既に発衚枈みではありたすが自分含め、あたり知られおいないず思いたす自意識過剰か
2016幎ずいう幎は、圓時所属しおいたサヌクルで個人的に䜕䜜も立お続けに発衚しおいた為、アりトプットの量にむンプットが間に合わず、もはやこれたで   ず思いながら曞いおおりたしたが、珟圚読むずそこたで切迫した小説には思えたせんでした。ぜひずもご䞀読いただければ、ず思いたす。そしお、ここたで読んで䞋さった皆様、どうもありがずうございたす。

幞坂かゆり😞

Photo : Taylor Marie Hill

いいなず思ったら応揎しよう

幞坂かゆり い぀もチップをありがずうございたす。いただいたチップで良い物を曞けるようがんばりたす😞