見出し画像

杭州 西湖と布袋さま

朝、私は書の練習をして、夫は中国語と英語の勉強をするのが日課です。
夫はオンラインでマンツーマン指導を受けているのですが、中国語の先生がお怪我をされて、1週間お休みになってしまいました。

先生は毎回選ぶことができ、固定しているわけではないのですが、夫にとってはその先生がナンバーワンで、他にいい先生がいない、という話をしているとき、
「オレは女の先生しか選ばないから」
と言いました。
「なんで?」

「だって男と話したってつまらないじゃん」

ええっ! そうなの!?

夫「女の人は男の先生を選ぶでしょ?」
私「選ばないよ」

私は女の先生のほうがいいです。
道を尋ねるときは女性に声をかけるし、お店で聞きたいことがあっても、できるだけ女性の従業員を探します。
知らない男の人と話したくなーい。

そうか、夫の先生は女性だったんだ、どうりでうきうき話していると思ってた。

夫「男はみんなそうだよ」

ええっ! みんなそうなの!?

男性諸氏のご意見を伺いたいところです。
オンラインマンツーマン授業で相手を選べるとしたら女性ですか?


という流れから、面白い詩をご紹介したいです。

蘇軾が37歳、杭州でお役人勤めをしていたときに、西湖で詠んだ詩「飲湖上初晴後雨」です。

飲湖上初晴後雨  蘇軾

水光瀲灔晴方好
山色空濛雨亦奇
欲把西湖比西子
淡粧濃抹總相宜

popo訳でどうぞ

水面のさざ波がきらきらして、晴れているときの西湖は素晴らしい。
霧雨がたちこめ山がぼんやりしても、それはそれでまたいい。
この西湖を、伝説の美女「西子」と比べてみよう。
薄化粧も濃い化粧も、どちらも似合うようなものだ。

殿方って、湖を見ても美女を思い浮かべるんだ…。



芥川龍之介が杭州へ行ったとき、西湖を見て、

私は何時の間にか、西湖に反感を持ち出してゐた。西湖は思つた程美しくはない。

出典:芥川龍之介著『江南游記』

と感じたそうです。
思ったほど美しくなかったんですね。

さらには蘇軾のこの詩を引き合いに出して、西湖の風景に対して辛口の批判を残しています。

支那美人の觀だけはある筈である。處がその支那美人は、湖岸至る所に建てられた、赤と鼠と二色の、俗惡恐るべき煉瓦建の爲に、垂死の病根を與へられた。


松尾芭蕉は松島を訪れたときに、

松島は扶桑第一の好風にして、凡洞庭・西湖を恥ず

出典:松尾芭蕉『奥の細道』

と書いています。
松島は日本一の風光であり、洞庭・西湖に劣らない、という意味ですね。

松尾芭蕉は中国へ行ったことがないそうなので、蘇軾や白居易らの詩などから想像を膨らませていたのでしょう。


これほど人口に膾炙する西湖、はたして美しいのでしょうか、それほど美しくないのでしょうか。

確かめに行きたくなりますよね?


2026年1月17日(土)

上海から杭州へ1泊2日の旅。
新幹線で45分くらいで行くことができます。
2等車がいっぱいだったので、はじめて1等車に乗りました。
席が広くて、お菓子とドリンクがついていました。

夕方の西湖に到着。
巷間伝え聞くところによると、日没寸前が一番美しいとのことで、合わせてきたのですが、生憎の曇天で、薄化粧の西子バージョンです。

遊覧船に乗りました。

日が暮れていきます。

ライティングアップ。
文豪にはこういうところが俗的で頂けないのでしょうね。
スパンコールのドレスを着た西子でしょうか。

西湖は、普通にきれいでした。



1月18日(日)

今回の旅のいちばんの目的は飛来峰。
「飛んできた峰」という名前は、インドから飛んできたという伝説によってつけられました。
そんな伝説が生まれたのもむべなるかな、奇岩怪石がみっちり。
そして峰の至る所に仏像が彫られています。

まずはその光景をお楽しみください。
宋・元代を中心に、五代から明代までの石像が338体(形が比較的はっきりしているもの)。

観音菩薩さまはきれいなお顔。


飛来峰のシンボルはこちら、南宋時代(1127年 - 1279年)に作られた布袋弥勒仏。
仏龕は飛来峰の最大級。
片手で布袋を抱え、片手で数珠を持って破顔しています。
モデルになったのは、五代の契此大師かいしだいし。額が大きく、お腹ぽっこり。常に頭陀ずた袋を持っていたことから、布袋さまと呼ばれるようになりました。
そう、七福神の布袋様の原型です。七福神の中で唯一、現存したのがこの布袋様。

中国では「弥勒さま」と言えば、契此大師さまのことなのだそうです。

周囲を取り巻いているのは十八羅漢



渓流をはさんだお隣の霊隠寺へ。
326年に創建されたとされ、その歴史は1,700年という中国最古レベル。
「霊隠」は、その名のとおり「霊魂の隠れ家」という意味で、山々に囲まれています。

壁がすごかった。
仏教の物語になっているらしい。


弥勒仏
中国では弥勒仏と言えば、お腹がぽっこり。
日本と違いすぎる。


しかし日本でも、京都の萬福寺にいらっしゃる弥勒様は布袋様です。
<参考画像>

出典:京都萬福寺公式HP


布袋様は絵の題材としても好まれました。

布袋図 伊藤若冲(1716~1800)

出典:本間美術館


あくび布袋図 仙厓義梵(1750-1837)

出典:福岡市美術館

布袋図 雪村(1492-1589)

出典:板橋区立美術館

布袋図を挙げれば枚挙に暇がないほどですが、中でも個人的にお気に入りなのはこちら。

なんてご機嫌な構図。

列子・布袋図 森川 許六(1656-1715)
列子といえば、風になびているイメージです。
『荘子』に「列子は風に乗って15日間さわやかに楽しく旅をした」と書いてあるせいでしょうか。

出典:文化遺産オンライン


森川許六は、松尾芭蕉の弟子で、芭蕉十哲のひとり。
芭蕉が許六への餞におくった『紫門の辞』には、

「畫はとつて予が師とし、風雅はをしへて予が弟子とす」

と書いてあり、俳諧においては芭蕉が許六の師であるが、画に関しては許六が芭蕉の師であると思っていたらしいのです。

これがその『紫門の辞』

出典:住友財団



【ちょっと豆知識】

中国で一番生産されているお茶は何でしょうか?
烏龍茶?

圧倒的1位は、6割を占める緑茶です。

出典:中国茶ライフスタイル文化協会



そして緑茶の最高峰と言われる「龍井茶」の主生産地が、ここ杭州です。

出典:wikipedia


最後までお読み頂きありがとうございました。



<お知らせ>

2月16日から4月半ばまで日本に帰国します。

仕事、家事、通院、嫁としての任務遂行などのため、みなさまの記事へお邪魔する回数が減るかと、申し訳なく思いますが、変わらぬお付き合いをどうぞよろしくお願いします。




いいなと思ったら応援しよう!