党議拘束に抗った江藤秀之県議――自民で唯一、採決を消さなかった
福岡県議会で、藏内勇夫議長への辞職勧告決議案は採決されませんでした。
自民党県議団が党議拘束をかけ、採決を止める動議に37人を起立させたからです。
その中で、ただ一人、起立しなかった自民県議がいました。
江藤秀之県議です。
私は、この判断を高く評価します。
江藤県議は2020年の副議長就任をめぐり、現金を支払ったと実名で証言している当事者です。会派内の問題を外へ出し、音声も公開し、今度は党議拘束に逆らって採決を残そうとした。
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口で「議会改革」を唱える議員はいます。
江藤県議は、会派内で孤立する可能性を引き受けて行動しました。
福岡県議会でこの日、県民の側を向いた判断をした自民県議は一人だけでした。
江藤秀之県議はどんな議員か
江藤秀之県議は、飯塚市・嘉穂郡選出の自民党県議です。
福岡県議会の公式プロフィールでは、当選6回。1960年6月28日生まれで、建築都市委員会と再生可能エネルギー等調査特別委員会に所属しています。
2020年6月から約1年間、第82代福岡県議会副議長を務めました。
新人ではありません。
議会の慣行も、会派内の力関係も知るベテランです。
その江藤県議が、今回の党議拘束について、県議生活24年で経験がなかったという趣旨をテレビ西日本の取材に語りました。
長く会派にいるからこそ、逆らった場合に何が起きるかも分かっていたはずです。
それでも江藤県議は、会派の都合より公開の採決を選びました。
自民党県議団はなぜ採決を止めたのか
2026年8月17日の臨時会では、吉松源昭県議が藏内議長への議長職辞職勧告決議案を提出しました。
自民党県議団の内部では、当初、若手県議を中心に決議案へ賛成する動きがあったと報じられています。
江藤県議の説明では、賛成者は10人以上、感覚としては14~15人以上いた可能性もあったといいます。これは江藤県議の証言であり、記名投票で確認された人数ではありません。
臨時会の直前、藏内議長が会派総会に出席し、第三者委員会の設置や政治倫理条例案の制定にめどが立った段階で辞任する意向を示しました。
その後、自民党県議団は、林泰輔県議が提出する採決中止動議に賛成するよう党議拘束をかけました。
結果は賛成49、反対35。
自民党県議団では、採決に参加した38人のうち37人が動議に賛成しました。反対したのは江藤県議だけです。
江藤県議が反対したのは、藏内議長への辞職勧告決議案ではありません。その採決を中止する動議です。
辞職勧告決議案そのものは採決されていないため、江藤県議を含む各議員が最終的に賛成する予定だったのか、反対する予定だったのかは、公式の投票記録には残っていません。
だからこそ、採決を止めた政治的な意味が問われます。
自民党県議団が党議拘束でそろえたのは、政策への賛否ではありません。
藏内議長を信任するかどうかを、各議員が県民の前で表明しないための行動です。
これは会派の結束ではありません。
議員一人ひとりの判断を、党の都合で見えなくしたということです。
藏内議長の「条件付き辞任」で責任は果たされない
自民党県議団の渡辺勝将会長は、会派をまとめるために採決中止という形を取らざるを得なかったという趣旨を説明しました。
若手県議からは、藏内議長の辞任意向を引き出したことで「実利」を取ったとの説明も報じられています。
自民党県議団にとっては、分裂を避けながら議長の辞任意向を引き出した、という説明なのでしょう。
しかし、藏内議長が示したのは、第三者委員会や政治倫理条例に「めど」が立った段階で辞任するという条件付きの意向です。
辞任日は示されていません。
テレビ西日本の取材に対し、江藤県議は、会派総会で藏内議長から謝罪は聞いていないと述べています。
疑惑を解消できる説明も、明確な辞任時期も、県民への謝罪もない。
それでも自民党県議団は、藏内議長の発言を理由に公開の採決を止めました。
県民が確認したかったのは、会派内で話がまとまったかどうかではありません。
各議員が、現時点で藏内議長を県議会の代表として信任するのか。
その判断です。
辞任の時期も確定しないまま、辞職勧告決議案の採決だけが消えました。
会派が守ったのは、県民の知る権利ではなく、自民党県議団の内部秩序です。
「実利」という言葉で、この損失を小さく見せることはできません。
県民は、各議員の判断を記録で確認する機会を失いました。
江藤県議は、議会より先に県民を見た
江藤県議は、採決中止後の取材で、議会がしていることと県民が考えていることの間には大きな隔たりがあり、失われた信頼を回復しなければならないという趣旨を述べました。
この指摘は、そのまま福岡県議会の現在地を表しています。
手続きが会議規則に沿っていたとしても、なぜ採決を止めたのかという問いは残ります。
調査結果を待つべきだと考えた議員は、辞職勧告決議案に反対票を投じ、その理由を説明することができました。
藏内議長の辞任意向を評価する議員も、そのうえで決議案に反対することができました。
実際に選ばれたのは、賛成か反対かを記録に残さない方法です。
自民党県議団の37人は、党議拘束に従って起立しました。
江藤県議は起立しませんでした。
この差は大きい。
政治家の評価は、都合のよい言葉ではなく、圧力がかかった場面で何を選んだかで決まります。
江藤県議は、会派の統一より県民が判断できる記録を残すことを選びました。
それは、議会人として筋の通った判断です。
県民が見たかったのは、全員が同じ方向を向く会派の姿ではありません。一人ひとりの議員が、自分の名前で判断する姿です。
その最低限の役割を、自民党県議団の中で果たしたのは江藤県議だけでした。
江藤県議の行動を支持する
江藤県議は、副議長就任をめぐって現金を支払ったと証言しています。名指しされた側は受領を否定しています。
現時点で、第三者委員会や捜査機関が金銭授受の全容を認定したわけではありません。
江藤県議には、現金の原資、支払った時期と場所、相手、会計上の処理、録音の前後関係を、第三者が検証できる形で示し続ける責任があります。
反対票を投じたから、証言が自動的に事実になるわけではありません。
その責任を残したうえで、今回の行動は明確に支持できます。
江藤県議は、疑惑を実名で証言しました。
会派内のやり取りを音声で県民の検証に開きました。
そして、24年間で初めてだという異例の党議拘束にも従いませんでした。
ここまで実際の行動を重ねた議員を、「当事者だから」で片づけるべきではありません。
福岡県議会の自浄作用が完全に失われていないとすれば、その根拠は多数派の説明ではなく、江藤県議が残した一票です。
自民党県議団と藏内議長に残った責任
8月17日に起きたことは単純です。
藏内議長への辞職勧告決議案が提出された
林泰輔県議が採決中止動議を提出した
自民党県議団は動議への賛成を求める党議拘束をかけた
動議は賛成49、反対35で可決された
自民党県議団で反対したのは江藤秀之県議だけだった
辞職勧告決議案そのものは採決されなかった
会派の事情は、県民からは見えません。
見えるのは、議場で誰が起立し、誰が起立しなかったかです。
江藤県議は、会派でただ一人、採決を消さない側に立ちました。
この記録は残ります。
同じように、採決中止に賛成した37人の自民県議と、10対10に割れた民主県政県議団の判断も残ります。
自民党県議団は、なぜ政策や予算ではなく、議長の進退を採決させないために党議拘束をかけたのか。
藏内議長は、なぜ明確な辞任日を示さず、県民への謝罪もないまま、会派内部への条件付き辞任表明で済ませたのか。
この二つは、第三者委員会に預けて終わる話ではありません。
自民党県議団と藏内議長自身が答えるべき政治責任です。
次の選挙で有権者が見るべきなのは、肩書きや会派名だけではありません。
誰が、どの場面で、自分の名前で判断したのか。
福岡県議会の信頼を戻す出発点は、その記録を曖昧にしないことです。
江藤県議が示したのは、会派に所属していても、最後は自分の名前で判断できるということでした。
私は、その姿勢を支持します。
福岡県議会に必要なのは、江藤県議を処分したり孤立させたりすることではありません。
37人が江藤県議と同じように、自分の言葉で県民へ説明することです。
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