第3章 ニューヨークで傘をなくした日
——世界の中心で、少しだけ立ち止まった話。
初めてニューヨークに降り立ったのは、劇的に寒い一月だった。
空気が刺すように冷たくて、吐く息が真っ白。
空港のドアが開いた瞬間、世界が“凍った金属音”でできているように感じた。
5番街のホテルに向かうため、黄色いタクシーに乗り込む。
そのとたん、耳に飛び込んできたのは懐かしいイントネーション。
そう、インド訛りの英語だ。
「あ、そうだった。ニューヨークのタクシードライバーって、インド人とターキッシュが多いんだった!」
彼の話すスピードとリズムが妙に心地よくて、
私はまるで久しぶりに旧友に再会したような気分になっていた。
“Which bridge you want? Queensboro or Midtown?”
と聞かれて、私は一瞬考える。
……正直、どっちでもいい。
むしろ遠回りしてもいいくらい、この空気を味わっていたかった。
でも現実的な私は微笑んで言った。
“Faster one, please. But don’t worry — tip is yours.”
ドライバーが「You smart lady!」と笑った瞬間、
私の中の緊張が少しだけほどけた。
遠くの街明かりが雪の粒に滲んで、
ニューヨークという名のステージが、静かに幕を上げた。
次回ニューヨークエピソード🗽のつぶやきつづく
