ワンランク上のトリミングサロンを目指さないともう生き残れない
さあ今日も現実をあまり見ないまま「独立しちゃおっかなー」と考えているトリマーさんたちに、少し嫌な話をします。
まずこのタイトルを見て「ワンランク上のトリミングサロン」と聞いたとき、何を思い浮かべましたか。
おそらく9割以上の方が、
「もっと技術力の高い店」
「もっと高価格帯の店」
このどちらかを想像したと思います。
今日の森山斬りはそこです。
その発想のままでは、これからのトリミングサロン経営はかなり厳しいです。
私はトリマーという仕事に対して、単に「リスペクトしています」という言葉では足りないくらい敬意を持っています。
犬を預かりその子の状態を見ながら、数時間立ちっぱなしで身体を使い、ハサミを使い、飼い主さんが喜ぶ形に仕上げる。簡単な仕事ではありません。
だからこそ、技術を磨くこと自体を否定するつもりは一切ありません。
むしろ技術者である以上、技術の向上をやめた時点で私はプロとして止まったと思っています。
流行もあります。
少し前とはカットの形も違いますし、最近ならハムクリップのようなスタイルも出てくる。そういう変化を追い続けるのも仕事のうちです。
ただ、私はトリマーさんを見ていて一つ気になることがあります。
自分たちの技術力に、少し価値を置きすぎている。
トリマーは驚くほど他店の技術を見ている
トリマーさん同士の会話を聞いていると、本当に他店の話がよく出ます。
「あそこの店うまいよね」
「あそこ、ちょっと雑じゃない?」
「あ、この子こっちの店に変えたんだ」
Instagramを見ながら、他店の仕上がりについて話している。
私はこれ自体を悪いことだとは思っていません。技術者なら他人の仕事を見るのは当然です。
上手な人を見て、自分には何が足りないのかを考える。自分より若いトリマーが上手ければ悔しいでしょうしそれが練習するきっかけにもなる。
ある意味こういう噂話まで含めて向上心なのだと思っています。
ただ、ここで一度、経営者の頭に切り替えて考えてみてください。
飼い主さんは、本当にそこまで見ていますか。
トリマーに見えているものと、飼い主に見えているものは違う
トリマーなら分かると思います。
毛質によってカットの難易度はまったく違います。
毛立ちのいい子なら綺麗にラインが出る。
同じマルプーでも、プードル寄りなのかマルチーズ寄りなのかで全然違う。
マルチーズのような毛質は、揃えて見せるだけでも難しい。
ところが飼い主さんには、その苦労は見えません。
Instagramで見た、ものすごく毛質のいいマルプーの写真を持ってきて、
「うちの子も同じマルプーだから、こんな感じにできますよね?」
となる。
これは飼い主さんが悪いという話ではありません。
知らないからです。
逆に仕上がりを見て毛が少し揃っていなければ、
「ここ切れてないな」
「ちょっと下手なのかな」
と思うことだってある。
その部分を揃えるのがどれほど難しい毛質だったのかなんて、普通のお客様には分かりません。
これはどれだけ説明しても完全には埋まりません。
私は、トリマー側と飼い主側には絶対に埋まらない溝があると思っています。
ここを理解しておかないと、経営を始めたときにかなり苦しみます。
「技術が分かる客だけ来ればいい」は、経営では通用しない
現場に立っていると、自分の技術に価値を付けたくなるのは当然です。
何年も勉強した。セミナーにも行った。道具にもお金を使った。コンテストにも出た。
それだけ努力しているのだから、
「この技術の価値を分かってくれるお客様だけ来てもらえればいい」
という考えになる気持ちは分かります。
私はトリマーではありません。だからこそ技術者とは少し違うところを見ています。
トリマーさんが「この技術ならこの価格をもらって当然」と考えるのも分かります。何年も練習して道具にも勉強にもお金を使っている。
でも経営側から見ると、それと「お客様がその金額を払いたいと思うか」は別の話です。
お客様からすればこちらが何年勉強したかは本質ではありません。
払った金額に対して自分が満足したか。
結局ここです。
私たちが「この仕上がりには1万円の価値がある」と思っていても、お客様が「私は8,000円までかな」と感じれば、その人にとっての価値は8,000円です。
ここで「この技術の価値が分からない客が悪い」となった瞬間、経営者としては少し危ないと思っています。
お客様はものすごくワガママです
一度SNSで、「あなたはどんなトリミングサロンを選びますか?」と聞いてみれば分かります。
安い方がいい人もいる。多少高くても上手な方がいい人もいる。家から近い方がいい。駐車場が欲しい。LINEの返信が早い方がいい。犬に優しいところがいい。写真をたくさん撮ってほしい。余計な商品を勧めてほしくない。
でも必要なことは教えてほしい。予約は取りやすくしてほしい。でも混んでいる人気店にも惹かれる。
全部を満たすのは無理です。
だから私はずっと「100点を目指すな。総合80点を目指せ」と言っています。
一部分だけ120点でも、他が40点なら普通に離れます。
カットがものすごく上手でも、LINEの返信が遅い。
高級感はあるけれど、予約が全然取れない。
接客は素晴らしいけれど、毎回物販を強く勧められる。
お客様はトータルで見ています。
「あなたじゃなきゃダメ」の時代を前提にしない
少し厳しい言い方をすると、私はもうトリミングサロンを「ここじゃなきゃダメ」だけで経営する時代ではないと思っています。
もちろん、本当にその人にしかできない技術を持つトリマーさんもいます。
強いファンを持っている人もいる。
それは否定しません。
ただ普通のトリミングサロン経営で再現性を持たせるなら、そこを前提にはしない方がいい。
私が考える強い店は「まあ、ここがいいよね」と自然に選ばれ続ける店です。
家から近い。料金も許容範囲。仕上がりも可愛い。犬の扱いも悪くない。スタッフも感じがいい。LINEも面倒じゃない。予約もそれなりに取れる。そして何となく居心地がいい。
一つ一つは80点でも、この積み重ねはかなり強いです。
では「ワンランク上」とは何なのか
ここで本題に戻ります。
私が言っている「ワンランク上のトリミングサロン」は、高級店になることではありません。
値上げすることでもない。コンテストで賞を取ることでもない。技術を極限まで高めることでもありません。
もちろん全部やってもいい。でも、それが私の言うワンランク上ではない。
私が考えるワンランク上とは、
消費者の深層心理を読み、それを自分の店の仕組みの中へ自然に組み込めている店です。
少し分かりにくいと思います。
例えば私は、オプションをグイグイ勧める接客をあまり推奨していません。
物販も同じです。
「このシャンプー絶対いいですよ」
「今日はこのパック付けませんか?」
「このフードおすすめですよ」
とスタッフ側が主導権を握る接客は、基本的に減らした方がいいと考えています。
接客でも、オーナーやスタッフがずっと喋って主導権を握る必要はありません。
ここは、よくあるコンサルとはかなり考え方が違うと思います。
よくある話なら、
「オプション提案率を上げましょう」
「店販を強化して客単価を上げましょう」
「スタッフから積極的に声掛けしましょう」
となるでしょう。私はむしろ逆です。
主導権は全部お客様に渡していい
今後強くなる店は、お客様自身が選んだと思える店だと私は考えています。
ここがものすごく重要です。
売られたものと、自分で選んだものでは、同じ5,000円でも満足度が違います。
店員から「これ絶対必要ですよ」と言われて買った5,000円の商品は、少しでも期待を下回れば不満になります。
でも自分で見つけて「これ良さそう」と思って買った5,000円の商品は、多少期待を下回っても納得しやすい。
人間は自分の意思決定を肯定したがるからです。
だから私は、売るのではなく、選びたくなる環境を作る。ここをかなり重視します。
単価は「上げる」のではなく「上がる」ようにする
私は「客単価を上げましょう」という言葉もあまり好きではありません。
店側が上げようとすると、どうしても押し売りになります。
私が作りたいのは、気が付いたら単価が上がっている店です。
お客様が自分でオプションを選ぶ。自分から商品を見る。必要だと思ったら買う。次回も自分から同じものを選ぶ。スタッフは無理に売っていない。
それなのに数字を見ると客単価が上がっている。
これが理想です。
経営者側が作った歯車に、お客様が無理やり巻き込まれているのではありません。
回っている歯車を見て、お客様自身が「そこに入りたい」と思って入ってくる。
私が言う「消費者の深層心理を読み、自分の展開する歯車にどう絡めるか」とは、そういう意味です。
強いオーナーには強いオーナーの弱点もある
話が上手い。
営業力がある。
キャラクターが強い。
お客様を引っ張る力がある。
こういうオーナーには大きなメリットがあります。
ファンが付きやすい。もっと言えば、信者ができやすい。
これは商売としてかなり強いです。
ただし私は、同時にかなり危険だと思っています。
人を中心に集まったお客様は、その人への感情が変わったとき、一気に反転することがあります。
強いファンは、場合によっては強いアンチにもなる。
これはまた別の記事で書きます。
だから私は、自分自身への依存だけで店を作るより、店そのものの仕組みを好きになってもらう方が強いと考えています。
技術を磨くな、という話ではない
ここまで読むと「森山は技術なんてどうでもいいと言っている」と思う人もいるかもしれません。
まったく逆です。下手なら話になりません。
技術者なのだから、技術は磨き続けるべきです。
ただ、私は技術を差別化要因ではなく、参加資格に近いものとして考えています。
一定以上できるのは当たり前。
そのうえで、
お客様が何を面倒だと感じるのか。
どこで不安になるのか。
何をされると嫌なのか。
どんなときに自分からお金を使いたくなるのか。
なぜまた来ようと思うのか。
なぜ何となく別の店へ行ってしまうのか。
ここまで考えられるトリミングサロンが、私の言う「ワンランク上」です。
ハサミの技術だけでワンランク上を目指す時代ではありません。
技術は磨きながら、店そのものの設計を磨く。
これから必要なのはこちらです。
そして、その設計を突き詰めていくと、店側から売らなくても、お客様自身が選び、結果として単価が上がり、リピートし、紹介までしてくれる状態を作ることができます。
どうやって作るのか。
ここから先は、かなり具体的な話になります。
私も商売ですから、さすがに全部を無料では書けません。
すみません。これ以上は顧客様以外には言えません。
ただ、一つだけ言えるとすれば、
これからトリミングサロンを開業する人が考えるべき「ワンランク上」は、技術でも価格でもありません。
お客様が自分の意思であなたの店を選び、自分の意思でお金を使い、自分の意思でまた来る。
そこまで店を設計できるかどうかです。
これができる店とできない店の差は、これからもっと大きくなると私は思っています。
