見た目はそっくり、動作はもっさり。1,000円の互換リモコンが教えてくれた「安さのカラクリ」
リビングのテレビリモコンの調子が悪くなり、買い替えることにした。
メーカーの純正品を探してみると、思いのほか高い。たかがリモコンひとつに3,000円も4,000円も払うのは、なんだか負けた気がしてしまう。そこでAmazonを開き、検索窓に型番を打ち込んでみた。
すると、検索結果のトップに出てきたのは、そっくりな形をした「サードパーティ製」の互換リモコンだった。お値段なんと1,000円ちょっと。純正品の半額以下である。
商品画像を見る限り、ボタンの配置も形も純正品と瓜二つだ。これなら何の問題もないだろうと、軽い気持ちでポチった。
しかし、数日後に届いたその小さなプラスチックの塊は、僕にデジタル社会の「目に見えない裏事情」を嫌というほど教えてくれることになる。
期待と裏切り
届いた箱を開けてみると、見た目は本当に純正品そっくりだった。手に持った質感も、ボタンの押し心地も悪くない。「これで1,000円なら大勝利だな」と、満足気になりながらテレビに向けてボタンを押した。
電源ON、チャンネル変更、音量調整。ここまでは完璧だった。
異変が起きたのは、番組表を開いてお目当ての番組を探そうとした時だ。
カーソルキーを「カカカカッ」とテンポよく連打した瞬間、画面のカーソルがピタリと止まった。
「ん?」と思ってさらに連打すると、今度はリモコンの反応が完全に途絶えた。
……バッファオーバーフローだ。
専門用語っぽく言えば「送信キューの溢れ」。要するに、リモコン内部の小さなICチップが、僕の連打スピードに処理が追いつかず、パニックを起こしてフリーズしていたのだ。
純正品では、どんなにボタンを連打しようがこんな現象は起きない。連打してもスムーズに追従するか、あるいは「押しすぎ」を上手に間引いて処理してくれる。
だが、この1,000円のリモコンは違った。入力されたデータを溜めておく「バッファ(メモリ)」の領域が極限まで小さく、連打された瞬間にデータが溢れてパンクしてしまうのだ。
「安物買いの銭失い」という言葉が、頭をよぎった。
安さの正体
なぜ、こんなことが起きるのか?
調べていくと、ガジェット界隈では非常に有名な「コストカットのカラクリ」が見えてきた。
リモコンの外見(プラスチックの金型やゴムボタン)を真似るのは、今の製造技術なら安価にできる。しかし、問題はその「中身」だ。
純正品のリモコンには、連打耐性やチャタリング(誤作動)防止、複雑な信号処理をこなすための、そこそこ優秀なマイコン(制御IC)とメモリが積まれている。
一方で、格安のサードパーティ製品は、機能を極限まで削ぎ落とした数円レベルの激安ICを採用している。
「普通に1回ボタンを押せば、1回信号が出る」
機能としてはこれで十分成立している。だから製品としては出荷される。しかし、「高速で連打される」という負荷がかかった瞬間に、そのメッキが剥がれるのだ。
まさに「見えない場所のパーツを徹底的に削る」ことで、あの圧倒的な安さを実現していたというわけだ。
画像の違和感
もうひとつ、購入時に気になっていたことがあった。
商品ページにあったリモコンの画像だ。全体的には純正そっくりなのに、なぜか「Netflix」や「Prime Video」といった動画配信サービスのボタン部分だけ、妙な加工でロゴが消されていた。
届いた実物を見て納得した。実物にも、そのロゴは印字されていない。ただの「無地のボタン」になっている。
これは消費者への優しさではなく、単なる商標権侵害を回避するための対策だ。
許可なく他社のロゴを印刷して販売すると、知的財産権の侵害でプラットフォームから追放されてしまう。そのため、業者側は画像加工でロゴを隠し、実物も無地にして「これはただの汎用ボタンです」という顔をして売っているのだ。
ひどいケースになると、その無地ボタンを押してもアプリが起動せず、全く関係ない動作をするものすらあるらしい。
「純正そっくりの見た目」で安心させ、「格安の価格」で誘惑し、「見えない部分の性能」を極限まで落とす。商品ページの怪しげな画像加工の裏には、そうした販売業者たちの凄まじいイタチごっこの歴史が透けて見えた。
1,000円の授業料が残したもの
結局、僕はそのリモコンをどうしたかというと……実は、今もそのまま使っている。
ただし、使い方は少し変わった。
カーソルを移動させるときは、心の中でゆっくりとカウントしながら、お淑やかに1回ずつボタンを押すようになった。連打は厳禁。リモコンの「小さな脳みそ」が処理を終えるのを、一歩引いて待ってあげるのだ。
人間、1,000円の節約と引き換えに「リモコンの処理速度に合わせた丁寧な暮らし」を手に入れたと思えば、まあ悪くない……かもしれない。
デジタル製品における「安さ」には、必ず理由がある。
外見はどれだけ精巧に真似できても、中に組み込まれたICチップの処理能力や、ファームウェアに注がれた技術者のこだわりまで真似することはできないのだ。
次にテレビのリモコンが壊れたときは、迷わず純正品を買おうと思う。
あの「ボタンを連打しても何事もなかったかのようにサクサク動く快感」には、数千円を払う価値が十分にあると、身をもって知ったのだから。
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