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怖いまんま、流されてみる。〜半径500mの中にいた私が100人の前に立つまでの物語〜

1. 小さな世界と、完璧な笑顔の仮面

かつて、私の世界は「半径500メートル」の中にしかなかった。

自転車で数分で行けるスーパー、お気に入りの静かなカフェ、近所の公園。それが、私の safe zone(安全地帯)のすべて。
そこから一歩でも外へ出ようとすると、身体が拒絶反応を起こした。満員電車、人の多い街中、学校の保護者会。人が大勢集まる場所に行くと息が苦しくなり、胸がギュッと締め付けられる。

パニック障害——そのネーミングすら嫌だったけれど、当時の私はまさに「見えない檻」の中に閉じ込められていた。

どうしても大勢の場に居合わせなければならない時は、完璧な仮面をかぶった。
本当は怖くてたまらないのに、引きつる顔を隠すように「作り笑顔」を貼り付け、その場の盛り上げ役に徹する。何を話したのかも覚えていないくらい必死に喋り倒し、家に帰ると崩れ落ちるように倒れ込む。

「そうでもしていないと、怖さに負けて飲み込まれてしまうから」

それが、当時の私の精一杯の防御策だった。

けれど、心の奥底でずっと聞こえていた小さな声があった。
「私、このままでいいのかな。もっと広い世界を見てみたい」

本当に欲しい答えや自分らしい生き方は、いつだって自分の「枠の外」にある。怖さを抱えたまま、私はそっと一歩を踏み出す決意をした。

10年ぶりに乗った新幹線。ガタゴトと揺れる車内で心臓が鳴り響いていたけれど、私はターミナル駅を抜け、念願だったパニック卒業プログラムへと向かった。

それが、私が自ら「大きな流れ」へと飛び込んだ、最初の瞬間だった。

2. 「今ここ」を生きていないカウンセラー

それから、1年余りの月日が流れた。

心理カウンセラーとなった私は、日頃からクライアントさんたちにこんな言葉を伝えている。

「過去の後悔や未来の不安に囚われず、『今、ここ』のこの瞬間を愛して生きてくださいね♡」

……なんて、ありがたいお説教(?)をしている私なのだが。

いま、猛烈にど緊張している(笑)。

自室のデスクでPCに向かいながら、私は冷たくなった手先を擦りあわせていた。
原因は明後日に迫った、とあるイベント。

「小学校での講演会。参加予定者……およそ100人」

ひ、百人……!?

「今ここ」を生きようね、なんて言っている本人が、完全に「ちょっと先の未来(明後日)」を感じ取っておびえきっているのだ。冷や汗が止まらない。100人もの大人の視線が一斉に自分に注がれる光景を想像しただけで、心臓が口から飛び出そうになる。

「ダメだ、未来を考えると緊張で破裂する……!」

逃避するように、私は自分の過去の記事を開いてみた。
ちょうど1年前、パニック卒業プログラムに通い始めた頃の記事だ。

『ワタシ、人の集まりが苦手なんです。友達とも一対一でしか会えません。自転車で行ける半径500mの生活から脱却したくて、パニック卒業プログラムに参加しようと決めました。再来週かぁ……やっぱりコワイな。アーーーーーコワイ!!!』

画面に踊る1年前の自分の叫びを見て、私は思わず「ふふっ」と吹き出してしまった。

1年前の私は、人の集まりに入ることすら怖くて叫んでいたのだ。
それが今や、100人の集まりに“入る”どころか、その中心に立って“話をする”ことになっている。

「……すごいやん、私!!」

恐怖が消えたわけじゃない。パニックになる怖さがゼロになったわけでもない。
でも、私は着実に変わっていた。あの時、怖いまんま流れに乗ったおかげで、私の世界はこんなにも広くなっていたのだ。

3. 失敗を前提にするという「魔法」

緊張でこわばっていた心が、少しずつ解けていくのを感じた。
その時、講演会が決まった時にプログラムの仲間達からかけられた言葉が蘇ってきた。

「講演会やるって決まったんだ! よし、安心して撃沈してきてねー!!! 恥かいてきてねー!!!」

最初は「なんて愛のある無茶ぶり(笑)」と思ったけれど、今ならその真意が痛いほどよく分かる。

なぜ、人は挑戦するときにこれほどまでに緊張し、怖がるのか?
それは、「成功させること」「素晴らしい成果を出すこと」「みんなの期待に応えること」を前提にしているからだ。

「失敗したらどうしよう」「格好悪いところを見せたらどうしよう」という恐れが、自分の足をすくませる。

だったら、最初から前提を変えてしまえばいい。

「よし、失敗しに行こう!」

最初から失敗前提で挑めば、怖いものなんて何もない。
噛んだっていい。言葉に詰まったっていい。格好悪い自分を晒したっていい。失敗したとしても、それは「撃沈した」という経験と、次の自分を育てる最高の学びになるだけなのだから。

「期待に応えなくていい。上手に話さなくていい。ただ、この流れに身を任せてみよう」

今日からの2日間、私は自分に何度もこう声をかけてあげることにした。

緊張してもいいよ。

失敗してもいいよ。

期待に応えなくたっていいんだよ。

4. 言霊おみくじと、広がっていく空

少し心が軽くなった私は、部屋の隅に置いてあったダンボール箱をのぞき込んだ。
明後日の講演会で、来てくれた皆さんへのお土産として渡そうと準備していた「言霊おみくじ」の束だ。

「……どんなメッセージが入ってるんだっけ?」

ふと気になり、手にとってパラパラと眺めているうちに、つい、引いてはいけない封を「サクッ」と開けてしまった。

「あ……」

あける予定じゃなかったのに、思わず自分で引いてしまったのだ。

「……ま、いっか(笑)」

自分で引いてしまったおみくじを開くと、そこには今の私にあまりにもピッタリな、温かい言霊が書かれていた。思わずくすりと笑いが漏れる。やっぱり、すべては必要なタイミングで起こっているのだ。

おみくじを胸に抱きしめ、私は窓辺に寄って窓を大きく開けた。

爽やかな風が部屋の中に吹き込み、私の頬を撫でていく。
遠くに見える空はどこまでも高く、青く広がっていた。

半径500mの世界から飛び出したあの日から、私の物語はずっと続いている。
明後日、100人の前に立つ私は、きっとやっぱりど緊張しているだろう。声だって震えるかもしれない。

でも、それでいいのだ。
怖いまんま、失敗する前提で、流れに乗ってみる。
どんな結果になろうとも、それを粛々と、そして愛おしく受け止めよう。

「よし。怖いまんま、行ってきます!」

私は深呼吸をして、未来という名の新しい風の中に、そっと自分の身を躍らせた。

(あとがき)

もし今、あなたが何かにチャレンジしようとしていて、怖くて足がすくんでいるなら。
「成功させよう」とするのを、ちょっとだけやめてみませんか?
「失敗してもいい、恥をかいてもいい」と自分を許して、怖いまんま流れに乗ってみる。その枠の外に、きっと新しいあなたが待っていますよ♡


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