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【海のデジタルツイン】第1回:海を「測る」から「わかる」へ——海洋デジタルツインの入口

2026年6月、東京・日本橋で開かれた「里海をブルーカーボンと環境DNAで考える勉強会」(ANEMONE.BIZ.BLUE ECONOMY)に参加しました。環境省、東北大学、JBE(Japan Blue Economy)、BIOMEなど、海の保全と利活用に取り組む人たちが集まり、藻場の再生、ブルーカーボンクレジット、環境DNAによる生物多様性評価について議論を重ねた場です。

そこで聞いた話が、とても面白かったのです。水産資源の激減、東京湾の底生生物の消滅、磯焼けの拡大——長年にわたって対策が続けられてきたのに、なぜ海は回復しないのか。そして、その問いに答えるためのデータは揃いつつあるものの、これからさらに頑張らねば、という感じを持つとともに、いつのタイミングでも、データが必要十分ということなないので、今できることを始めるべきだとも思いました。

この経験がきっかけで、「海のデジタルツイン」というテーマでシリーズを書き始めることにしました。皆様、ぜひお付き合いください。

海はまだ、よくわかっていない

夏になると、東京湾の底では毎年のように「貧酸素水塊」が発生し、底生生物が死滅します。水質改善のために汚濁負荷量を数十年かけて6〜7割削減してきたにもかかわらず、低層の溶存酸素濃度はいまだ改善されていません。魚介類の漁獲量は大幅に減り、のりの色落ちが続く海域があることを知りました。

海は広く、深く、絶えず動いています。陸上のインフラや土地利用と違い、「今どうなっているか」を面として把握することが根本的に難しい。衛星で地表を見るように海底を観測することはできませんし、水中の生き物の数を人が数えて回ることも現実的ではありません。問題はわかっている。でも、何がどこでどう起きているのかを、データで示すことがまだできていません。

デジタルツインとは何か

「デジタルツイン」という言葉は、もともと工場や都市のインフラ管理で使われてきた概念です。現実の物理的な対象をデータで再現し、そのデジタルコピーを使って状態の監視や意思決定に役立てる、という考え方です。

これを海に応用したのが「海洋デジタルツイン」です。衛星データ、水温・塩分のセンサー、生物調査の記録、流況モデルなど、さまざまな観測を統合して「いま海がどういう状態にあるか」を継続的に把握し、漁業管理、防災、環境保全、ブルーカーボンの評価といった意思決定に活用しようとする取り組みです。

重要なのは、デジタルツインは「地図を作ること」で終わりではないという点です。データが集まり、整理され、社会の意思決定につながって初めて意味を持ちます。

世界はいま、どこにいるか

この分野の国際的な議論の場として注目されているのが、2026年11月に横浜で開催される「DITTO Summit 2026」(海洋デジタルツイン国際サミット)です。JAMSTECが主催し、国連「海洋科学の10年」のもとで進む「Digital Twins of the Ocean(DITTO)」プログラムの旗艦イベントです。

テーマは「Building Ocean Intelligence Together」(海の知性を、ともに築く)。リアルタイム観測、AIによる予測モデル、クラウド基盤、相互運用性の標準化を組み合わせた次世代の海洋デジタルツインへの移行を世界の研究者・実践者が議論します。漁業・沿岸インフラ・気候変動対策・ブルーエコノミーまで、対象は幅広い分野に及びます。

「断片的なデータから、統合された地球システムのデジタルツインへ」——このサミットが示すロードマップは、海洋データの活用がいよいよ実用段階に入りつつあることを示しています。

このシリーズで考えること

海洋デジタルツインを機能させるには、いくつかの問いに答える必要があります。そもそも海のデータはどこから来るのか。衛星、センサー、環境DNA、市民科学——データの供給源は急速に多様化しています。集まったデータをどう整理し、意味ある空間単位で集計するか。そしてデータを評価で終わらせず、どうやって実際の意思決定や事業につなげるか。

このシリーズでは、これらの問いを順に辿りながら、海洋デジタルツインが「データのプラットフォーム」を超えて「社会を動かす仕組み」になる道筋を考えていきます。次回は、海のデータが実際にどこから来るのか——観測の最前線を見ていきます。


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