-ウィーン旅行記- シェーンブルンの珍獣
夏の風物詩である「シェーンブルン夏の夜のコンサート」。
いつもは空いている地下鉄が激混みですが、心なしか皆さん品が良い。
ところが、誘導される先は柵の中。
……ここは動物園か。
そういえば、シェーンブルンには動物園が併設されています。
このコンサートの魅力といえば、夕方に始まり、日が暮れ、空の色が黄昏から漆黒へと移り変わるのに合わせて、煌びやかなライトアップが映えること。
夜空に星が瞬き、「あぁ、シェーンブルンに来た」と感じながら、ふと見ると、周りで光っているのは「スマホの嵐」。
どいつもこいつも動画ばかり撮りやがって。ろくなもんじゃない。民度が低下している。
昔はグロリエッテへと続く穏やかな斜面で、皆が思い思いに過ごしつつ、ウィーンフィルの上質な音楽に包まれて暮れてゆく黄昏時を共有する……そんな上質な時間だったと聞きました。
それがどうでしょう。
今やシュトラウスのシュの字も知らないような連中が、音楽などそっちのけで、人垣をかき分けながら位置高くスマホを掲げるのです。
あの素敵なウィーンの人々はどこへ行った。
この周りにいる珍獣共は何だ。低レベルな民衆は何だ。
そう私が憤った矢先、頭上に張られたケーブルを、撮影用のドローンが移動していきます。
民衆共は嬉々として、それをスマホで追います。
その時、ハッとしました。
これは撮っているのではない、撮られているのだ。
世界へ配信されるマヌケ顔。
本当のウィーン市民はここにはいない。ここにいるのは珍獣だ。
この珍獣共はカメラを追っている。
ウィーン市民はそれを、動物園の動物のように高みの見物で眺めているのだ。
そしてここはシェーンブルン。
かつてマリア・テレジアが世界中から集めた珍獣を眺めて朝食を摂ったように、ウィーン市民は世界中から集まったスマホ珍獣を眺めながら、夕食を摂っているのだ。
迂闊にも、私は世界中に配信される珍獣として派遣されてしまいました。
皆さんもよろしければ、世界中に配信される珍獣イベントに行ってみてください。
そうそう、演奏は素晴らしかったです。
ただ、無料というものには、何事にも理由があるのだと思いました。
