見出し画像

夜風【風まかせ文芸部】

こちらの企画に参加させてもらいました。
800字ぐらいのお話です。
よろしくお願いします☆彡

陶芸家のリリーは、夕飯を食べ終わると、窓を開けて煙草を吸い始めた。

煙草の煙が静かに揺らいで消えていく様をぼんやりと眺めているようだ。

大木がリリーにコーヒーを淹れて持ってきた時、窓から夜風が入り、たばこの煙が一瞬にして霧散した。

それが合図かのように、リリーはおもむろにスケッチブックを持ち、なにやらブツブツ言いながら、鉛筆を走らせ始めた。

リリーの創作スイッチが入った瞬間だった。

こうなると、リリーは寝食忘れて没頭する。

大木は少しため息をついて

「コーヒー、冷めてまうで」

と声をかけてみた。

「……うん」

スケッチブックに書く手を止めることなく、マグカップを受け取り、少しだけコーヒーを飲む。

時計の針の音だけが鳴り響く。

大木はリリーから少し離れたところで、書類整理をする。

するとリリーが突然しゃべりだす。

「夜風が変わってん。
 昨日はぶわってまとわりついてきたのに、今日はもうカラッとしたもんやで。
 昨日までは、あれもこれもって騒がしかってん。
 でも、今日の夜風は、もうそういうのもたずに、ただ通り過ぎたわ」

リリーはちょっと笑いながらさらに続ける。

「ツンデレな風やで」

大木も少しだけ笑って、チラッと時計を見た。

「リリー。
 そろそろ寝たほうがええぞ」

「せやな」

「……返事はええねんけどな。
 今日はもうおしまい」

「でも、今、ええとこやねん」

「ほな、明日もええまんま続くわ」

リリーはピタリと鉛筆を走らせる手を止めて、ノロノロと動き出す。

2人はベッドに入ると、リリーは大木にギュッと抱きついて言う。

「もし、ええとこ逃げたら、大木くんのせいな」

「うん、わかった」

「今日は、ギュッとして寝るからな」

「うん、わかった」

リリーは大木の胸元に顔をうずめてしばらくするとスースーと寝息を立てはじめ、ごろんと寝返りをうった。

明日には、頭か足が大木の上に乗っているのであろう。

大木は、たばこの香りが残るリリーの髪の毛を優しく撫でると、静かに目を閉じた。

(新作、楽しみやな……おやすみ、リリー)

おしまい。


いいなと思ったら応援しよう!