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大犬空港物語(34)「広がりゆく波紋」

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俺の名前は、大谷浩平。
 
あきたいぬ空港長任命式から、2週間が過ぎた。
 
犬が空港長になったという話題は、
海の水が満ちるように、
ひたひたと、俺たちの周囲を満たし始めていた。


お祝いの言葉や、喜んでくれる声が、たくさん届いた。


一方で。


 
非通知の電話。
 
「今日は犬、いますか?」
「お出迎えは、8のつく日だけなんです。」
「え~、つまんないの~。毎日やってくれたらいいのに」


 
インターネットの書き込み。
 
「大型犬と子どもを近づかせるなんて危機感がないです。」
「誇り高い狩猟犬を『かわいい』扱いするのってどうなんでしょう。」


 
匿名のメール。
 
「8のつく日だけじゃなく、土日もやったほうがいいと思います。」 
「犬がかわいそうです。もうやめてあげて。」

 
スタッフたちは、電話に出て、メールを返信し、
関係各所へ情報を共有する。
 
 
みんな少しずつ、疲れてきていた。
 
 
 
また電話が鳴った。
俺は真っ先に受話器を持ち上げ、社員たちに「いいから」と目で合図した。
 
「竹野内さんいう方、おられますやろか。」
 
関西弁の男性の声。
かなり高齢のように聞こえる。
なぜ竹野内さんの名前を知っている?俺は少し身構えた。
 

「竹野内は弊社の社員ですが、なんの御用ですか?」

 
「大阪のな、ひまわりベーカリーの政井申します。
犬のぬいぐるみこうたことある言うたら、
竹野内さん覚えてはる思うねんけどな。」
 
 
首をかしげて電話に出た竹野内さんの表情が輝いた。
 
 
「政井様、お懐かしい。お元気でしたか?」
 
 
電話の主は、大阪にあるパン屋のおやじさんらしい。
 
少しかすれた大きな声が受話器から漏れて、俺のところまで聞こえてくる。
 
空港長任命式のニュースを見て連絡をくれたようだ。
 


「もう一回、ぬいぐるみ売ってくれへんかな。
前にこうたん、娘に取られてしもてな。
あんたが作ったあの犬な。
あの犬おらんと、さみしいんや。」
 
 
「かわいがっていただいて、ありがとうございます。すぐに送ります。」
 
 
竹野内さんは、男性の住所氏名と連絡先を書き留めて、
「それでは、商品が到着しましたら、
お振込みをお願いします。1,650円です。
いえ、小切手ではなく。振込で。はい、すみません。ありがとうございます。」
と言って電話を切った。
 
 
「あれっ、わが社、通販もやっている?」
 
 
「今はもうしていないんですけど、コロナのとき、けっこう頑張って通販をやっていたので、仕組みはあるんです。
政井様はインターネットができないおじいちゃんなので、特別に電話でお受けすることにしました。」
 
 
竹野内さんは、梱包しながらぬいぐるみに話しかけている。
 
「元気でね。かわいがってもらうんだよ。」
 

秋田犬ぬいぐるみ1,650円(税込)


 
1週間後。
 
事務机に座った竹野内さんが、預金通帳を何度も見返している。
顔がこわばって、なにか困ったことが起きているように見えた。
 
「どうかしましたか?」
 
「大谷取締役、これ」
 
ひまわりベーカリーからの振込があった。
 
金額は、1,650,000円。
 
えっ?
 
ひゃ、ひゃく、ろくじゅう、ごまんえん!?
 
ぬいぐるみは、1個1,650円だぞ。
 
0が3つも多い。
 
どうなってるんだ。


※この物語はフィクションです。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港です。東北の小さな空港をヒントにしていますが、登場人物やエピソードは、その言動や心情を含め、すべてフィクションです。

この物語の著者の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。

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