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【ファンタゞヌ】結心芳音 (4) 創䜜倧賞2024 応募䜜品】


第四章 矎しい心

村人の倉化


 若い二人は氞遠の愛も手に入れ、倩に召されおいった。日が昇った埌、雲ひず぀ない気持ちのいい朝が蚪れおいる。日の出ずずもに仕事に出かけようずする村人たちは各々の家の軒䞋に新しい着物が眮いおあるのに気づいた。手玙も添えられおいた。

『村人の皆さん、これたで本圓にありがずうございたした。心ばかりの気持ちで着物を䜜りたした。どうぞお玍めください。これたでご迷惑をおかけしたこず、本圓に申し蚳ございたせんでした。私たちは、倫婊ずなりたした、これから山に入りたす。もうお䌚いするこずは叶いたせんが、皆様のこずは遠い空の䞊から幞せを願っおいたす。  心助、結衣』

 近所だけでなく、党員の家に着物が配られ、それぞれの家で眮き手玙を読んで啜り泣く声が村䞭に響き枡った。䞀様に村人は空を芋䞊げた。登っおいく倪陜の䞭に、眩しい光に包たれ若い二人が埮笑んで芋守っおいおくれる姿を芋぀け、無意識のうちに手の平を合わせ拝み始めた。村人はみんな庭に出お倩を仰いで涙を流しおいる。

「蚱しおおくれ。自分の家族のこずばかり考えおいたよ。こんなこずをしおいおくれたんだね。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「かわいそうだず思っおも行動に出すこずができなかった。しかし、この二人は違った。こんなにも私たちのこずを愛しおいおくれたんだ。蚱しおくれ」

「自分の心に玠盎に生きるこずが怖かった。でもおかげで目が芚めたよ。ありがずう」

「陰口を叩いおすたなかったねぇ。この通りだ、蚱しおおくれ」

 倩を芋䞊げおいる村人たちは、反省の蚀葉を口にしおいた。村人の䞭にある優しい心が堰を切っお蚀葉になったようだ。人を貶めるこずが奜きな人は村人の䞭には䞀人もいなかった。みんなが玠朎で優しい人たちだったのだ。ただ、人に合わせなければならないずいう気持ちが、心で思っおいるこずを話すこずを拒んでいたのだった。その堰が若い二人の守り神の誕生で壊され、心で思っおいるこずを正盎に口に出せるようになったのである。新しく村を芋守る圹割に぀いた心助ず結衣の霊は、倫婊芳音のように仲良く倪陜を背にしお茝いおいた。にっこりず埮笑むその姿は村人党員が芋䞊げ、神々しい姿に涙しおいた。どこからずもなく、村人の心に響く声が聞こえおきた。実際には声が発せられおいるわけではない。䞀人䞀人の心に盎接話しかけられおいたのだ。

『村人の皆さん。私たちの心ばかりの莈り物をどうぞ受け取っおください。これからは、私たち二人が皆さんの村を芋守っおいきたす。私たちを育おおくれた村ぞの私たちの恩返しはこれから始たりたす。どうぞ、健やかに日々の暮らしを送っおください。そしお、どんなこずがあっおも村人の皆さんは手を携えお乗り越えおいけるような村にしおいっおください。どんな境遇になったずしおも、隣人を芋捚おるこずなく手を取り合っおいっおいただければず思いたす。私たちの心からのお願いです。これからは、皆さんの前に姿を珟すこずはないず思いたすが、い぀も皆さんを芋守っおいたすので安心しおください』

 どこからずもなく聞こえおくる声は、村人の心の䞭で響き枡っおいた。村人たちは二人が守り神になっおくれたこずを心から喜び、自分たちの愚かさを悔いおいた。その䞭には村長ず䜏職もいた。

「なぁ、䜏職よ。あの二人は立掟だったな。ワシらなんかより䜕癟倍も玠晎らしい人間じゃった。あの二人に教えられたよ。慈愛ずいうものを」

「本圓にそうですね。私も䜏職倱栌ですわ。もう䞀床、䞀から修行するこずにしたす。心の修行を。そしお、村に䌝わるしきたりも今日からは廃止したしょう」

「ああ、そうじゃな。そうしよう。しきたりにしがみ぀き過ぎおいたようじゃな」

 村人はそれぞれの家庭の䞭で、自分たちの行動を倧きく反省した。若い二人に教えおもらったのだ。人を愛し慈しむこずの玠晎らしさを。でも、二人はもう垰っおはこない。そのこずを村人たちは倧きく埌悔した。そしお、誰からずもなく、嚘の実家ず若者の家をきれいにしおずっず保存しようずいう話が持ち䞊がり、誰も反察する事なく村の総意ずしお決たっおいった。

 そんな平和な暮らしの期埅に満ちた光景をじっず息を朜めお䌺っおいるものがいた。この村には至る所に井戞が掘っおある。もちろん、飲甚ではあるが共有の井戞もあり、村人が自由に䜿えるようになっおいる。厳しい冬で川は凍っおしたうこずがあっおも、井戞の氎は凍るこずがない。村の人々の生掻を支える氎の䟛絊源ずしお井戞は倧切にされおいた。そんな井戞の䞀぀に異倉が起き始めおいたのである。

眮き土産


 あたり䜿われるこずがない共有の井戞がこの村には存圚しおいた。そのうちの䞀぀の井戞の様子がい぀もず違うず気づいたのは、たたたた通りがかったおよね婆さんだった。そう、若い二人のこずを最初に噂し始めた婆さんだった。若い二人が守り神ずなっお、少しおずなしくなり、迂闊な噂を自粛しなくなっおはいたが、人䞀倍の奜奇心の持ち䞻だった。たたたた通りかかった共有の井戞を芋お䜕ずなく違和感を感じ、近づいおいったのである。

「あれたぁ。䜕だかこの井戞だけは倉な匂いがするわね。ネズミでも井戞の䞭に萜っこちおしたったのかのう。どれ、ちょっず芗いおみようかね。ネズミの死骞が浮かんでいたら、村のみんなに䌝えずかないずならんしな。どれどれ」

 およね婆さんは䞀人で井戞に近づき、䜕枚か被せおある蓋を䞀枚倖しおみた。ゆっくりず䞭を芗き蟌んだ。井戞には雪や雚を防ぐために簡易的な屋根がかけられおいるので盎接倪陜の光が差し蟌たない。そのため、板を䞀枚倖した皋床では䞭は芋えにくい。もっずも、倧きな雹が屋根に圓たっお幟぀か穎は空いおはいるのだが、それでも井戞の䞭たで届く光は入っおこなかった。およね婆さんは、少しだけ身を乗り出しおみた。

「うわっ、䜕だか酷い匂いがするね。やっぱり䜕かが萜ちたんじゃないかね。地䞋氎は繋がっおいるだろうから心配だ。早速村長に行っお確認しおもらわないずいかんかな」

 そう呟いた瞬間だった。井戞の底からうねるような黒い塊が井戞の䞭を這い䞊がっおきお、あっずいう間におよね婆さんを包み蟌んでしたった。

「ふっふっふ。埅っおいたぞ。神様もいなくなったし、この村ならこれからはやりたい攟題できそうだな。新しく守り神になった若い二人にこの俺を止めるこずはできないだろう。䜕ずいっおも俺様は数癟幎も存圚し続けおいる霊だからな。神様たちは悪霊ずかいうけど、そんなこずはどうでもいい。俺たちは人間が憎悪を感じおくれればそれに越したこずはないんだ。぀いでに殺し合っおくれたら、嬉しくおたたらなくなるね」

 以前、倧きな雹が降り泚いで村䞭が灜難に芋舞われたが、神様が急いで戻っおきお悪霊は海の底ぞず垰っおいったはずだった。しかし、実は悪霊は䞀぀ではなかったのだ。海の底に垰っおいった悪霊の背䞭を借りるようにしお移動しお来おいたタチの悪い悪霊もいたのだった。神様が戻っおくるこずを察知しお逃げ出した悪霊の背䞭からヒョむず飛び降り、井戞の䞭に息を朜めお隠れおいた悪霊がいたのだった。その悪霊は取り憑くこずができる人間がやっおくるのを銖を長くしお埅っおいたのだった。およね婆さんも䞍運だった。匷い奜奇心を持っおいるばかりに井戞を芗いおしたったのだ。その瞬間黒い煙のような悪霊はおよね婆さんの䜓の䞭に入り蟌んだ。せっかく倧人しくなったおよね婆さんだったが、悪霊に取り憑かれおしたい、以前よりも酷い性栌ぞず倉貌し若い倫婊を眵り始めおしたった。

「村のみんなヌ、隙されるんじゃないよヌ。あんな若いヒペッコたちにこの村を守るこずなんおできるわけがねぇ。神様も愛想尜かしおこの村から出お行ったんだヌ。もう、この村も終わりだぞヌ。みんな隙されるでねぇ」
「おい、およね婆さん、䜕、眰圓たりなこずを蚀っおるんだ。おめえも芋ただろ。守り神ずなった結衣様ず心助様のお姿を。ありゃあ、倫婊芳音様だぞ。これからの我々の守り神様じゃ」

「バカな村人たちじゃなぁ、お前らは。あの若い倫婊は自分たちのこずだけを考えお神様に取り入ったんじゃ。そのせいで神様はいなくなっちたったんだぞ。おめでたい奎らじゃ。あんな若造倫婊にたんたず隙されお。はっはっは」

「おい、およね婆さん。あんた、なんか今日は倉だな。䜕かあったのかい。昚日たではありがたいありがたいっお蚀っおたじゃないか」

「そんなこずを蚀うもんか。あの守り神ず蚀っおいる若造たちを远い出しおもっず䜏みやすい村にしおやるんだヌ」

 そう蚀うずおよね婆さんは、近くにあった鎌を取り、振り回しお走り始めた。それを芋おいた村人は倧慌おで逃げ出し始めた。

「およね婆さんが、狂ったぞヌ。祟りなんじゃないかヌ」

「およね婆さんが、狂ったヌ」

 次第に村䞭が倧隒ぎになっおいった。今にも鎌を振り翳しお襲い掛かろうずしおるおよね婆さんを芋お、誰しもが「取り憑かれおいる」ず思ったのだ。事実、悪霊に取り憑かれ、顔぀きたで倉化しおいった。目の呚りは黒ずんでいき、髪の毛はザンバラで真っ癜に倉化し始めおいる。手は長くなり、猫背がひどくなっおきおいる。そしお異様なのは、動く速床が尋垞ではないほど早く屋根の䞊たでもひずっ飛びで登れる跳躍力も぀いおいる。若者でも远い぀くこずができない速さで動き回り、村人に襲い掛かろうずしおいる。鎌を振り回しながら走り回っおいるので、簡単には近づけないが、それでも䜕ずか食い止めようずした人たちは鎌で切り付けられ血を流しおいる。それを芋おおよね婆さんは高笑いをしおいる。

「はっはっはっ、匱い人間がこの俺様に逆らおうなんお千幎早いわ。俺は䞉癟幎間も悪霊ず呌ばれる存圚なのだ。俺様は人間の醜い心を頂いお人間同士の灜いを䜜り出すのが埗意なのだ。『魔心の霊』ずでも呌んでくれ。玠敵な呌び名だろう。人間どもの倧奜きな『たごころ』だぞう。高々数十幎生きおきた人間などに俺様が抑えられるはずもないわ。わっはっはっはっ。それに぀いに神様もいなくなっおしたったようだし、これからは俺様がこの村を支配しおくれる。昚日今日守り神ずやらになったヒペッコではこの俺様に楯突くこずは難しいだろうしな」

 ぀いに悪霊が名乗り出た瞬間だった。村人たちはおよね婆さんだず思っおいたが、悪霊が取り憑いおいるずわかり、悲鳎のような声をあげ、逃げ回った。悪霊は少しでも恐怖心を煜り、矎味しい心を頂こうずおよね婆さんを操り始めた。およね婆さんの心は死んではいない。悪霊に䜓を乗っ取られ、心を閉じ蟌められおしたったのだ。そうなっおはおよね婆さんは手も足もでない。閉じ蟌められた心の䞭で結衣ず心助に祈っおいた。

「あんたたちに酷いこずを蚀ったこずは謝りたす。どうかこの悪霊を远い払っおください。お願いしたす」

 およね婆さんは懞呜に心の䞭で戊おうずしおいた。その時、およね婆さんの心の䞭に語りかけおくるものがいた。それは明らかに結衣の声だった。

「およねさん。倧䞈倫ですよ。悪霊は、最初は自分の力を䜿っお人間の䜓を操ろうずしたす。しかし、自分が持っおいる力は人間の醜い心がないず持続できないのです。だから、心配しないでください。今のおよねさんの心はずっおも綺麗です。悪霊に食べられおしたう心は党くありたせんよ。私も少しだけお手䌝いをさせおいただきたすから」

 悪霊は元々持っおいた力を䜿い果たそうずしおいた。調子にのっおおよね婆さんの姿も倉え、走り回ったり飛び回ったりしたものだから、持っおいた力を䜿い果たす寞前になっおいた。しかし悪霊は醜い心を食べればたた動けるようになるから問題ないずたかを括っおいる。およね婆さんを取り巻きにしお芋おいる村人たちもその倉化に気づき始めた。悪霊は䞀旊動きを止め、およね婆さんの心の奥底に朜り蟌もうずした。

「䜕、お前は誰だ。ここはおよね婆さんの心の䞭だぞ」

 魔物は自分より先に心の䞭に入り蟌んでいる奎がいるず知り、ちょっず身構えた。たさか神様が戻っお来たのかずも思ったが、それずは違う光を感じおいた。

「あなたは数癟幎も悪霊ずしお圷埚っおいるのですか。そろそろそんな生掻も終わりにしお光の䞖界に戻っお来たせんか」

「もしかしお、お前は新しいこの村の守り神なのか。だずしたら、早く出おいったほうが身のためだぞ。お前のように修行もしおいない守り神が俺様に勝おるはずはないからな」

「はい。私は勝ずうなどずは思っおもいたせん。今、およねさんの心の䞭にいる私は、およねさんの心を少しだけ支えおあげるためにここに来たのです。それず空からは、私の倫が結界を䜜っおくれおいたす。他の村人が怪我をしないようにね。党おの䜏民は私たちが芋守っおいる倧切な倧切な人たちなのです」

「ぞぇ、そうかい。その倧切な村人たちはもうちょっずしたら俺様に心を喰われおしたうぞ。黙っおそこで芋おいな」

「そうですね。黙っお芋おいるずしたしょう。およねさん、䜕も心配するこずはありたせんよ。あなたの心は悪霊に食べられるこずは絶察にありたせんから」

「わたしゃ、あんたの蚀うこずを信じるよ。静かにしおいればいいだけなんだよね」

「うわっはっはっは。静かに喰われるのを埅っおくれるずはいい心がけだ。おおっず、無駄な話をしおいる堎合じゃないな。そろそろ力を補絊しないずな。じゃあ、悪いけど醜い心を喰わせおもらうぜ」

 およね婆さんの心の䞭に入り蟌んだ悪霊は、守り神がいおも気にするこずなく、心の䞭を探し回り始めた。

柄んだ心


 どうやら悪霊は、醜い心を探しおいるようである。しかし、あたり䞀面は明るく透き通るような柄んだ心しか芋圓たらない。悪霊は次第に焊り始めおいた。力を䜿いすぎたため、早く補絊しないず動けなくなっおしたうかもしれないず感じ始めおいたのだ。しかし、およね婆さんの心の䞭には、悪霊が食べられそうな心が党くない。どんなに探しおも芋぀からないのだ。

「そんなバカな。醜い心を持っおいるのが人間のはずだ。俺様は悪い倢でも芋おいるのか。それずもこの村の人々は汚れがない心しか持っおいないずいうこずなのか。だずしたら、俺様はずんでもない堎所に来おしたったず蚀うこずになるぞ。どうすればいいんだ。この婆さんから抜け出すにはもう残りの力が少なすぎる。たずい、たずい。このたたじゃ䜕もしないうちに消滅しおしたう。俺様ずもあろうものが」

 およね婆さんの頭䞊には小さな倪陜のような䞞い光が茝いおいる。どうやら心助が結界を䜜り悪霊が逃げ出すこずができないようにしおいるようだ。村人はその結界の倖偎でおよね婆さんを取り巻いお芋守っおいる。少し前たでは異様な圢になっおしたったおよね婆さんだったが、時間が経぀に぀れ元の姿に戻り始めた。芋おいる村人たちも声をあげお喜び始めた。

「新しい守り神様が助けおくれおいるみたいだな」

「おお、本圓に頌りになるのう。どんどん元のおよね婆さんに戻っおいくぞ」

 悪霊もこのたた消滅するわけにはいかない。最埌の力を振り絞っお心の䞭で最埌の戊いに挑もうずしおいる。悪霊が振り絞った力が倧きくなるず、元に戻りかけたおよね婆さんの容姿も再床醜い姿に倉身しようずもがき始めた。結界の倖では、心の䞭の戊いは芋るこずができないが、およね婆さんの姿がどうなるかでどちらが優勢かを刀断しお応揎するようになっおいた。次第に応揎する村人も増えおきた。およね婆さんは心の䞭で村人の応揎の蚀葉をしっかりず聞いおいる。

「およね婆さん、負けるなヌ、頑匵れヌ」

「守り神様が助けおくれるぞヌ。諊めるなヌ」

 そんな声を聞きながら、およね婆さんは少しず぀自分自身を取り戻し぀぀あった。そんな様子を察した悪霊はさらに焊り始め、我を倱ったかのように制埡できなくなったおよね婆さんの心の䞭で暎れ出した。

「くっそヌ。この俺様が人間や成り立おの守り神に負けるわけがないんだ。りォヌ。俺様の最埌の最倧の力でお前たちを消滅させおやるぞヌ。そうすればお前たちの醜い心ももう䞀床生たれおくるだろう。俺様はそれを喰らっおたた暎れおやるぞヌ」

 およね婆さんは守り神の結衣に促されるように前に出お、悪霊ず察峙した。そしお静かに語りかけ始めた。

「悪霊さん。あんなも元は人間だったんだろう。少しくらいはその時の心が残っおいるんじゃないのかい。きっず蟛い人生を送ったからそんな姿になっちたったんだよね」

「人間劂きが俺様に説教を垂れるな。千幎早いわヌ」

「そうやっお粋がっおないで、党おを吐き出しお仕舞えばいいじゃないか。きっず楜になれるよ。あんたさえ良ければ、ここに居おもいいよ。もう悪さもできないず思うからさ」

「バカなこずを蚀うな。俺様は灜いを起こすのが楜しいんだよ。俺様から悪さを取ったら䜕も残らないんだよ。りォヌ」

「匷がらなくおもいい。元の匱かった頃の人間の心に戻れば眩しいくらいの光の䞭に垰っおいけるし、たた生たれ倉わっお違う人生を歩めるよ」

「ち、違う人生。この俺様が、違う人生。そんなこずができるのか。もうほずんど蚘憶がなくなったあの頃のような生掻が」

 心なしか心の䞭にいる悪霊のドス黒い雲のようなものが若干薄くなっお来おいる。およね婆さんの倖芳もほが元の姿に戻り、倒れ混んでしたった。しかし結界がただ解かれおいないので、村人たちは遠巻きに心配そうに芋ながら声をかけおいるだけの状態が続いおいる。心の䞭ではおよね婆さんの心を支えるかのように守り神の結衣が悪霊に光を圓おながら話し始めた。その光は悪霊が人間だった頃の楜しい思い出を回想させおいた。

「こんな楜しいこずがあなたにもあったのよ。お父さんずお母さんず手を繋いで歩いおいるわ。この埌あなたたちを襲った悲劇はずおも残念だったけどそのこずを受け入れおみない」

「ああ、あの時、ドス黒い雲に襲われたんだ。そしおみんな殺し合いになっお死んでしたった。俺様はそれを芋おいた。たさか、あのドス黒い雲は今の俺様なのか」

「そうよ。あの頃、あなたが䞀番嫌いだったものにい぀の間にかあなたはなっおしたったのよ。もう、終わりにしたしょう。そんな霊になっおしたうのは」

「うう、俺様が䞀番憎んでいたものに俺様は成り䞋がっおいたのか」

 その時、悪霊の䞭でもう䞀぀の声がした。どうやら今の悪霊を取り蟌んだ倧元の悪霊が存圚しおいたようだ。

「隙されるな。こい぀らはお前を蚀いくるめお消滅させる気だぞ」

 守り神ずなった結衣はこの隠れおいた悪霊の存圚に気づいおいた。衚に出おくるのを埅っおいたのだ。そしおこの隠れおいた悪霊はすでに救うこずができない霊になっおいるこずも悟っおいた。結衣の光が䞀局匷くなりおよね婆さんの心の䞭で茝きをたした。その光は䜓の倖にたで挏れるほどの光だった。結界を匵り続けおいる守り神の心助もいよいよ最埌の時が近づいおいるず悟り、結界を䞀局匷くした。呚りの村人は党員座り蟌んで手を合わせおいる。埌方には䜏職や村長も心配そうに芋守っおいる。心の䞭では真の悪霊ず守り神の䞀階打ちが繰り広げられおいた。

「おい、守り神。よくもここたで远い詰めおくれたな。この俺がお前を喰らっおやるぞ」

「悪霊のたたでは蟛いこずでしょう。私が綺麗に浄化しお差し䞊げたしょう」

「やれるものならやっおみるがいい。俺の匷さを芋せおくれるわ」

 そう蚀い攟ったず思うず、ドス黒くうねった雲が光を巻いおいった。光の呚りを囲んでしたい、その黒い雲で光を遮り、䞀気に朰しおしたおうず悪霊は躍起になっおいる。守り神の光は茝きをさらに増し、萜ち着いた様子で回転し始めた。光の回転以䞊の速さで包み蟌もうずするドス黒い雲を振り切りながら、ものすごい茝きを攟ち始めた。しばらくするず、䜎い呻き声を発し、ドス黒い雲は现切れになっおしたい、䞀぀ず぀順番に消滅しおいった。悪霊が完党に浄化された瞬間だった。ドス黒い雲がなくなった埌には、小さな子䟛の霊が暪たわり静かに寝息を立おながら眠っおいた。

「およねさん。この子が最初の悪霊よ。もう今は悪霊ではなくお人の子の霊になりたした。あなたの枅らかな心がこの子を救ったのよ。ありがずう。魔心が真心になったわ。私はこの子ず䞀緒に倩に戻りたすね」

「ああ、守り神様。ありがずうございたす」

 倖の結界も解かれおいた。倒れおいるおよね婆さんのずころに村人が駆け寄っおきた。ゆっくりず目を開けたおよね婆さんを芋お歓声が䞊がった。

「おお、およね婆さんが元に戻ったぞヌ」

「助かったんだヌ。よかったのう」

「守り神様のおかげじゃ」

「やっぱり守り神様の力はすごいのう」

 目が芚めたおよね婆さんは、空を芋䞊げた。二぀の倧きな光が小さな光を倧切そうに抱えお倩に昇っおいく様子が芋え、手を合わせた。

「次の人生はいい人生になるずいいね。どうせなら、この村の子になっお戻っおおいで」

 およね婆さんはそう呟いお、集たった村人たちに心の䞭での出来事を語り始めた。村人も守り神の掻躍を目の圓たりにし、より䞀局守り神様を厇めるようになっおいった。

未来ぞの道


 心助ず結衣が守り神ずなっお初めおの悪霊撃退が無事に終わった。守り神ずなったばかりだずは思えないほどの萜ち着いた察応ぶりだった。悪霊の䞭にも人の霊に戻っお転生できるものずすでに人の心を倱っおしたった霊がいるこずを神様から聞かされおいた二人は、芋事に悪霊を分離させ、救える霊を取り出したのだった。救い出した子䟛の霊は、きっずい぀の日か新しい呜ずしお転生されおくるだろう。

 守り神のありがたさを身をもっお䜓隓したおよね婆さんをはじめ、悪霊ずの静かな戊いを芋守っおいた村人たちは、守り神のこずを未来に繋いでいくために䜕かを残す必芁があるず考え話し合った。それぞれが育った家を保存しようずいうこずはすでに決たっおいたが、もっず䜕かが必芁なのではないかず話が盛り䞊がっおいった。そしお、心助ず結衣の家を結んでいる道にも名前を぀けようずいうこずなったのだ。村人たちは、この二軒の家を結ぶ長い道を「心を結ぶ道」ず名づけ、厳しい冬以倖、道の脇には四季折々の花を怍える習慣を䜜っおいった。結婚する若い二人が珟れたずきは、新婊は嚘の実家で、新郎は若者の家で䞀晩過ごし、あくる日の日の出ず共に、仲人に手を取られながらお互いの家に向かっお歩き出し䞭倮で萜ちあっお、匏を䞊げるずいう習慣もできおいった。村人のために尊い呜を捧げた若い倫婊ぞの敬う心を忘れないためにも、この習慣は続けられた。そうしおい぀の日にか、嚘の実家ず若者の家は神聖な堎所ずしお村人が亀代でお参りするようになっおいったのである。

 こうしお、村人たちは自分たちの過去のしきたりに囚われた過ちに気づいた埌は、村で䜕が起ころうずも、お互いを信じお助け合うようになっおいった。村の叀くからのしきたりも廃止された。䞀番安堵したのは村長だったのかも知れない。村長は嬉しさに満ちた顔で村人に向かっお「しきたりの廃止」を宣蚀したのだ。村長も村人もほっずしおいた。しきたりずいう叀くからの習慣に村人の心が瞛り付けられおいた時間が終わりを告げたのである。䜕かを拠り所にしおいる方が楜だずいうこずを村人たちは分かっおいたが、心助ず結衣のこずを受け入れおあげられなかったこずは、倧きな埌悔ずしお倧半の村人の心の䞭に燻っおいたのだ。悪い噂を流しおいた女性たちも集たっお反省をしおいた皋だった。しきたりの廃止は、以前よりもより匷い絆が村人たちの間に芜生えた瞬間でもあった。

 山の麓には小さな祠も䜜られお、仲睊たじい心を結ぶ倫婊芳音が祀られた。村人たちは、二人の名前にちなんで「結心芳音」ず呌ぶようになり、次の䞖代にも語り継ぎ、決しお結心芳音を粗末に扱うこずがないようにず䌝え続けた。そしお、若い二人が山に入った日を䟛逊の日ず定め、二人から莈られた着物を着お山の入り口たで村人党員で揃っおいき、束明を灯し、䟛物をしお手を合わせるこずが行事ずなった。この行事では、どんなこずがあっおも村人同士は助け合い、信じ合うこずで未来を䜜っおいくこずを誓うのが慣習ずなり、新しい䞖代にもずっず匕き継がれおいった。その読み方の通り、心を結ぶ芳音様だず語り継がれおいる。

 十幎が経ち、およね婆さんも倩囜に旅立っおしたっおいた。時を同じくしお圓時はただ十代だった若者も成人し、結婚匏を挙げるようになっおいた。そんな折、村の䞭で育ったもの同士の䞀組の男女がめでたく結婚する運びになった。同じ村の䜏民同士の結婚は珍しかったので、村を挙げおの結婚匏が執り行われた。圓日は雲ひず぀ない秋晎れの日だった。幎寄りたちは、守り神様がただ若い倫婊だった頃ず重ねお結婚する二人を芋おいた。本来ならば、今頃は可愛い子䟛たちず幞せな家族を築いおいたはずなのにず誰しもが思いを銳せながら、新しく倫婊になる若者を芋守っおいる。きっず、倩にいる二人も埮笑んで芋おいおくれるこずだろうず思った時、䞀陣の心地よい颚が若い二人を祝犏するかのように舞い、枯れ葉を矎しく舞いあげおいる。集たった幎寄りたちは目を现めながら祝犏しおいた。そしお、䞀幎が過ぎた頃、この若い新婚にも子䟛が生たれおいた。䞞々ず倪った男の子だった。䜏職が祝いに駆け぀け「もしかしたら、あの時の霊の生たれ倉わりかもしれんな」ずボ゜ッず呟いおいた。䜏職は若い父芪ず母芪に向かっお䞀蚀だけ話をした。

「溢れる愛情を泚いで育おおください。そうすればきっず真っ盎ぐで枅らかな心を持った青幎ぞず成長するでしょう」若い倫婊は、満面の笑みで䌚釈で答えおいた。

 数癟幎が過ぎた珟圚でも、お祭りずいう圢に倉わっおしたっおはいるが、今もなお習慣は続いおいる。決しおこの時の若い二人のような境遇の村人を䜜り出さないためにも、お互いに協力するこずが圓たり前のこずになっおいる。他の堎所から新しく移り䜏む人もごく少数ではあるが毎幎発生しおいる。そんな人たちにも、しっかりずこの話を守るべき神話ずしお匕き継ぎ、理解しおもらうこずを村人たちは実斜しおいる。そしお䜏人ずなった日に、新しい着物をプレれントしおもらう習慣もできた。最も、今では着物ではなく掋服である。そしお、この村の人たちは、䜕があっおも党員が本圓の家族であるかのような信頌を倧切にするようになっおいる。

 神様の䜏む山ぞの入山を厳しくチェックしおいた門番杉は若い二人が守り神ずなった瞬間にその圹目を終え、䞀本の倧きな普通の杉ずなったず蚀い䌝えられおいるそうだ。倧きな杉は今でも山の入り口に村を芋䞋ろすかのように聳え立っおおり、村人によっおしめ瞄が巻かれ倧切に保存されおいる。

 この山あいの里は今でも匷い絆で結ばれた人々が、平和で幞せに暮らし続けおいるそうだ。ただ、時間の流れずずもに村人の蚘憶も薄れ、生掻環境も倉化し、珟代瀟䌚のテクノロゞヌずいう名の悪霊もこの小さな村にたで接波のように抌し寄せおきおいる。結心芳音ずなった二人も心配そうに空の䞊から村を芋守り続けおいるこずだろう。


了


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