No.2077 2年後の大きな楽しみ
大学生時代に知己となった寿司屋の御主人は、ある時、お客さんから
「この店は開店して何年に?」
と訊かれたそうです。ご主人は、
「10年目です。」
と答えました。
「それはすごい事ですよ。『飲食店で10年続いたのは偉大なり』という言葉があるくらいですから。」
と言い、さらに続けて、
「20年続くのは畏敬なり、30年は伝説なり、40年は奇跡なり、50年は神になると言うんですよ。どうぞ神になるまでお店を続けて下さい。」
と言われたそうです。
上京して久しぶりにその寿司屋さんを訪問した際に、私も初めて聞いたお話だったので、大変興味深く、心に強く刻まれていました。
何十年も経ったある日、そのすし屋のご主人からこんな手紙が来ました。
「(略)7月に70歳になりました。70歳になりますと健康保険組合から高齢者健康保険証が送られてきます。その序文は『あなたはこの度高齢者になられました。』で始まります。あなたは高齢者?随分失礼な言い方じゃないか?と少し憤りましたが、その後は何となく死亡記事の年齢が気になるようになり、とうとう先日は、エンディングノートを買い求めました。
8月26日で、すし屋のだんらんは、40周年となります。初めてだんらんに来ていただいてから40年が過ぎようとしています。(略)」
ともありました。お店は「奇跡」の称号をいただき、ご主人は心を込めて寿司を握り続けているようです。
今や、ファンクラブまであるお寿司屋さんですが、何一つ昔と変わらぬご夫婦でいてくれ、上京の折には、個人としても家族としても、訪れるのがとても楽しみなおすし屋さんです。
42年前、ご主人は、わざわざ立派なちゃぶ台をお客さんから借りて下さり、その店の二階で我々夫婦は無事に結納を交わすことが出来ました。私たちは、今もそのご利益を頂いています。桜上水にある「すし屋のだんらん」は、2028年8月26日に50周年を迎えます。
10年で「偉大」、20年で「畏敬」、30年で「伝説」、40年で「奇跡」、50年で「神になる」とは、飲食店経営の難しさを言ったものでしょう。あのコロナ禍の苦境も乗り越えました。
30歳にして夫婦二人三脚で始めたお寿司屋さんですが、御主人は、数年前、九死に一生を得るような大病を患いました。しかし、高度医療が功を奏して、生還しました。そして、今も変わらず板場に立ち、お客さんの舌を唸らせる美味い寿司を握り続けています。
2年後、神がかったその手で握った寿司を口に運ぶことができる日の来ることを、老後の大きな楽しみにしています。
その時に、ご主人は傘寿を迎えておられることでしょう。人との出逢いとは、まことに不思議な縁だなと思います。
※画像は、クリエイター・麻生かおりさんの「にぎり寿司」の1葉をかたじけなくしました。美しくて旨そうな、にぎり寿司ですね。お礼を申し上げます。
