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センス・オブ・ワンダー vol.1「五感を研ぎ澄ませることによって育まれる感性」

The Sense of Wonder

大人の世界では、精神的にタフであることが求められる。
そのためには、何事にも動じず、いつも平静でいなければならない。
そうであるならば、社会で生きていくうえで感受性の強さは欠点でしかない。


でも本当に?


わたしは生まれつき五感が敏感なため、外界から受ける刺激で1日の終わりには疲れ果ててしまうことが多い。
社会で求められているのとは真逆の性質だ。
なんてポンコツなんだろうと自分を責めていた。


それで、過去には良い意味での鈍感さを身に着けようと努力したこともあった。
でも、もって生まれた自分の特性を否定して生きると、内面の泉は少しずつ枯れていく。


ならば、世間一般に正しいとされている型に自分を無理やり押し込めることは、必ずしも最善の生き方ではないのかもしれない。
そう気づいてからは、固定観念を捨て、逆の方向に舵を切ることにした。


そのために大切にしたいのは、感受性を生きる力に変えていくこと。
感性を研ぎ澄まして、毎日の生活の中でささやかな幸せをたくさん感じ取ること。
それはとりもなおさずセンス・オブ・ワンダーを磨くことにつながる。




センス・オブ・ワンダーって何?


センス・オブ・ワンダー。
それは、美しいものや未知のもの、人知を超えたものに対して抱く、感動や驚き、畏怖の念のこと。


これは、環境保護活動に大きな影響を与えたアメリカの海洋生物学者レイチェル・カーソンが提唱した概念である。
彼女の著作は、現在でも多くの人々に読み継がれ、環境問題への意識を高める上で重要な役割を果たしている。


とりわけ「センス・オブ・ワンダー」は、彼女が56歳の生涯を終える前に執筆した最後の作品で、わたしたちへの遺言となっている。
わずか60ページほどの薄い本だが、内容は深い。


彼女によると、この感性はやがて大人になるとやってくる、倦怠や幻滅、意に満たない人工的なものに夢中になることなどに対する、不変の解毒剤になると云う。


美しいものを美しいと感じる感覚や、未知なものに出会ったときの感激は、思いやりや、愛情、新鮮な驚き、畏怖の念など、さまざまな感情を呼び起こす。


地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生涯の終わりの瞬間まで、みずみずしい精神力を保ちつづけることができると彼女は綴っている。


そうであれば、センス・オブ・ワンダーを磨くために五感で感じ取ったことをときどき記録しておこうと思う。
せわしない日々の中で、内面が干からびないように──


冬の終わりを告げる沈丁花の香り
陽の光を独り占めしたかのような黄色いレンギョウ
やわらかな銀緑色のコナラの新芽


通る人すべてを祝福する桜吹雪
風でくるくる回る花塵



梅雨

雨が降り出す前の懐かしい匂い
水たまりの波紋
窓ガラスをつたう雨粒
優しい雨だれの音



太陽がまぶしくて目を細めた瞬間、光の回折でまつ毛が虹色になること
夕方の湿った潮の香り
素足の下の砂をさらっていく波
ペールブルーとアプリコットピンクの波の綾



金銀の鈴を鳴り響かせる秋の虫
風が運んでくるキンモクセイの香り
木の根元をぐるりと囲んでオレンジ色の輪を描く散り花
落ち葉をザクザクと踏む小気味良い感触


凛とした空気に吐き出す白い息
フューシャピンクのさざんかとモスグリーンの苔の上に降り積もる粉雪
雪の日の森閑とした静けさ
湯気がたつ、お気に入りのマグカップに注がれているのは、焼きマシュマロを浮かべたココア。

なにげない日常にひそむ驚き


センス・オブ・ワンダーを感じるために、時には少し遠くへ足をのばすことがある。
とはいえ、日常の中にも発見がある。
例えば、わたしはある日の昼休みに、サワガニを見つけた。
人工の滝つぼから流れ出る小川に、それはいた。


都心にカニが生息しているとは思ってもみなかったので、最初は目を疑った。
けれど、何度見ても、それはまぎれもないカニだった。
体のほとんどが透き通るような白で、甲羅の一部は、ほんのりブルーグレーに染まっている。


仲良く並んで歩くその小さな二匹のカニたちを見て、心がほっこりした。
真珠のような光沢を帯びる、その美しい姿に魅せられ、少しの間、息を殺して眺めていた。


普段、気づかずに通り過ぎていた街の一角に、思いがけなく心和む光景がひそんでいる。
そのことに驚いた。


そこは、日本初のランドスケープデザイナーと称される造園家、長岡安平ながおかやすへいの庭だということを後になって知った。


別の日には、ビルの谷間をゆうゆうと飛んでいく白いサギを見た。
朝日を浴びて輝くその優美な姿を見て、心がまっさらにされるような、すがすがしい思いがした。


おわりに


思えば、清少納言の「枕草子」をはじめ、ルイ・アームストロングが歌う「この素晴らしき世界」、そして映画「サウンド・オブ・ミュージック」の劇中歌「わたしのお気に入り」にも、センス・オブ・ワンダーが詰まっている。


美しいものを美しいと感じる心は、時代や場所や、人種を超越する。
それは、人間に授けられた普遍的な感覚だ。


ところで、アインシュタインはこのような言葉を残している。


人生には二つの生き方しかない。
一つは、奇跡などまったく存在しないかのように生きること。

もう一つは、すべてが奇跡であるかのように生きることだ。


この世に生まれてきたこと自体が奇跡だとすれば、当たり前のことのように感じがちな日常の小さなことに、感謝の気持ちが湧き起こる。


世界にはまだまだ沢山の美しいものがある。
これからも、身近な幸せの一つ一つに目を向ける時間を大切にしていきたい。



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