【無料】アホな自治体にならないための処方箋〜コンサルとの正しい関係のあり方〜
https://www.mext.go.jp/content/20230606-mxt_sisetuki-000008003_4.pdf
文部科学省のウェブサイトに、120ページのPDFが置かれております。「文教施設における多様なPPP/PFIの先導的開発事業 成果報告書」、令和5年3月、岩手県紫波町。検索すれば誰でもダウンロードできる公開資料であります。
まず、この業務の発注構造を説明させてください。
発注者は文部科学省であります。受注者は紫波町であります。そして、その紫波町から調査業務の一部を再委託されたのが、私の会社である株式会社オガールであります。
つまり私は、町から見れば下請けであります。いつもの構図でいけば、私が調査をして、私が報告書を書いて、私が納品して、町がそれを文科省に提出して、めでたく業務完了、ということになります。日本中の役所で、毎年何万件と繰り返されている流れであります。
ところが、あの120ページはそうなっておりません。
120ページのうち、株式会社オガールが書いたのは70ページであります
目次を開くと、こうなっております。
01はじめに。
02紫波町学校給食センターの現状。
03給食センターの建て替え。
04庁内検討体制。
05有識者会議。
06先進地視察実施報告。
07紫波町学校給食センターPPP/PFI導入可能性調査業務。
08調査報告書に対する紫波町の見解(評価)。
09自治体経営の視点から(おわりに)。
私たちが書いたのは、07だけであります。ページでいうと41ページから109ページ、約70ページ分。残りの50ページは、紫波町企画課公民連携係が自分たちで書いております。
そして注目していただきたいのは、08の章題であります。「調査報告書に対する紫波町の見解(評価)」。
発注した側が、下請けが出してきた成果物を、評価しているのであります。しかもその評価を、同じ報告書に綴じ込んで、文科省に出しているのであります。
さらに、私たちの報告書が始まる直前の40ページに、町はこう書き添えております。報告書の内容は株式会社オガールが持つ知見と調査により得られた成果をもって記載しており、報告書の内容により事業計画が決定しているものではないことを申し添える、と。
これを最初に読んだとき、私はしびれました。
下請けが書いたことは、あくまで下請けが書いたことであって、町の決定ではない。町の考えは次の章に書く。役場が自分の立ち位置を、これほど明確に線引きした文書を、私はほとんど見たことがありません。
あえて厳しい言葉を使いますが、丸投げは発注者の怠慢であります
ここから少し厳しいことを書きますので、先に断っておきます。
日本の行政業務の大半は、コンサルタント会社が書いた報告書が、そのまま成果物として納品されて終わります。表紙に自治体名が入り、中身は業者が書いている。それが議会に説明され、翌年度の実施計画になり、その次の年には予算になっていきます。
書いた人間は、その町に住んでおりません。3年後にその施設が動き出すころには、担当も変わっているか、そもそも別の自治体の案件を回しております。
これは、怠慢であります。
しかも恐ろしいのは、丸投げした側にほとんど痛みがないことであります。報告書は分厚いほど立派に見えます。カラーの図表が入っていれば、なんとなく検討した気になります。決裁は通ります。誰も困りません。困るのは、15年後にその施設を運営している人と、その負担を払う住民だけであります。
今回の調査で、私たちは民間事業者へのヒアリングを回りました。その中で、ある事業者からこういう指摘がありました。
従来のPFIは民間への丸投げになるので、役所が自分のアタマで考える力が無くなり、15年後には骨抜きになる。だから15年後には行政の内部に知識も経験も残っておらず、業者の言いなりで再契約するケースが多い、と。
この言葉は、そのまま私たちの報告書に書きました。書いた以上、それを読む町がどう受け止めるかは、町の仕事であります。
私の会社では、発注者が一行も書いていない報告書は納めません
これが、私の会社の運用ルールであります。
正確に言えば、報告書に「決定」を書かないということであります。私たちが書けるのは、調べたこと、比べたこと、そこから導いた提案までであります。決めるのは発注者であって、その決定の理由を発注者自身の言葉で書き残してもらうところまでを、業務の範囲だと考えております。
なぜかというと、書かないと、身につかないからであります。
紫波町がこの1年でやったことを並べてみます。
庁内に5つの部会をつくりました。土地活用・建設部会は3回開かれ、候補地5か所を3か所に絞り、現地視察を行い、養鯉場跡地に埋め立てられた池の構築物について、当時の決裁文書を全員で読み合わせております。それでも埋設物の有無がわからないので、補正予算を組んでボーリング調査を発注しました。1月に入札、2月に契約であります。
先進地視察は4か所。北上市、宮古市、見附市、大河原町。半分は私たちも同行しました。給食設備の展示会にも一緒に行きました。給食は毎回試食しました。
そして、この視察で方針がひとつ変わっております。
紫波町のごはんは、隣の花巻市の会社に炊飯を委託しております。調査を始めた時点では、新しいセンターでも委託炊飯のままでいく方向でありました。ところが視察先で他所の給食を食べてみたら、味がはっきり違ったのであります。有識者会議でも、栄養教諭を30年以上務めてこられた委員から、作りたてが一番のごちそうだという指摘がありました。
結果、センターで米を炊く方向へ変わりました。
これは、私が提案して変わったのではありません。町の職員が自分の舌で確かめて、自分たちで変えたのであります。報告書にはこう書かれております。センター炊飯は調査前の段階では構想として盛り込まれておらず、現状通り委託炊飯の方向であったが、実際に試食すると食味の差を感じた、と。
もっと痺れたのは、この一節であります。
この調査の前年、町の職員だけで構成された研究会が、PFI(BTO)方式が望ましいという報告をまとめておりました。庁内の正式な結論であります。ところが町は、その自分たちの結論について、報告書の中でこう書いております。
財政負担に関する点を除くと、PFIに関する一般論にとどまっており、紫波町の課題解決につながる点までには及んでいない。よって、本事業においては研究会で出された結論によらず、幅広く手法を検討していく、と。
自分たちが去年出した結論を、自分たちで一般論だと切ったのであります。役所という組織で、これがどれだけ勇気の要ることか。ここを読んだ瞬間に、私はこの業務は成立すると確信いたしました。
決定まで書き切ってしまうコンサルも、同じくらい無責任であります
丸投げする側だけを責めて終わるのは、フェアではありません。書く側にも同じ病があります。
決定まで書いてしまうのであります。
「よって、本事業は◯◯方式を採用するものとする」。この一文を、業者が書いてしまう。書かれた側は楽であります。あとは決裁に回せばいい。しかし、その瞬間に、その事業は誰のものでもなくなります。
私たちが提案したのは、エージェント型PFIという手法であります。調理業務をPFIの枠から切り離し、3年から5年ごとに町と代理人が一緒に評価して選び直す。調理設備は1社に縛らず、工程ごとに得意なメーカーを入れる。そういう組み立てであります。
この提案が生まれたきっかけは、私の思いつきではありません。いま紫波町の給食を作っている調理会社に聞き取りをしたときに、こう言われたのであります。
自分たちは調理会社であって、給食センターを建設し、維持し、運営する会社ではない。だから、新しいセンターがPFIで運営されるのなら、うちは絶対に参入しない、と。
有識者会議の議事録に、私の発言がそのまま残っております。「非常に明確なことを言われまして、ハッと気づかされました」。あれは私の敗北宣言であります。
さて、この提案に対して、町は第8章でどう書いたか。賛成したうえで、こう釘を刺しております。
エージェント型PFIが機能するか否かは、エージェントの存在による。エージェントが選定できない、あるいは選定後にエージェントの離脱が生じる場合には、事業の中断や中止のリスクを含んでいる。エージェントは事業の心臓であり、アキレス腱である、と。
心臓でありアキレス腱である。
この一文を書いたのは、提案した私ではなく、提案を受け取った町の職員であります。褒め言葉ではありません。お前が抜けたらこの事業は死ぬぞ、それを分かって提案しているのかという、名指しの警告であります。
さらに町は、私たちが提案した考え方が国際的なPPPの調達思想に照らして妥当かどうかを、エドワード・イエスコムらの『インフラPPPの理論と実務』を自分で引いて検証しております。加えて、施設の空き時間を民間に貸すことが補助制度上どう扱われるのかについて、文部科学省の施設助成課に自分たちで照会をかけ、2つの見解を文書で引き出しております。
下請けの言うことを、鵜呑みにしていないのであります。裏を取り、条件を確かめ、そのうえで自分の名前で評価を書いている。
これが、業務であります。
コーチは、選手の代わりにコートへ入ることができません
私は、自分をコンサルタントだと名乗っておりません。コーチだと思っております。
コーチの仕事で、いちばん最初に覚えなければならないことは何かと言えば、自分はコートに入れないという一点であります。どれだけ完璧な戦術を描いても、笛を吹くのは自分でも、ボールに触るのは選手であります。
そして、練習メニューを紙に書いて渡し、「はい、これやっといて」で帰るコーチは、コーチではありません。選手が自分の言葉で、なぜこの練習をするのかを説明できるようになって、初めてその練習は身につきます。逆に言えば、選手が説明できないメニューは、どれだけ理論的に正しくても、試合では一度も出てこないのであります。
行政とコンサルの関係も、まったく同じであります。
報告書は、練習メニューであります。渡した時点では、まだ何も起きておりません。それを受け取った職員が、自分の言葉で書き返して、庁内で説明して、議会に説明して、住民に説明できるようになった瞬間に、初めて計画になります。
だから私は、報告書の完成度で仕事の質を測らないことにしております。測るのは、その報告書を読んだ職員が、半年後に自分の言葉で語れているかどうかであります。
紫波町の職員は、最終章にこう書いております。
エージェント型PFIは、調理設備の選定、調理会社の定期的な選定など、通常のPFI以上の業務量と意思決定が求められ、行政側も説明責任を負うこととなる。このスキームの選択と責任は、学校給食経営、引いては自治体経営の本旨である。1自治体1センターであれば、多少の労務コストが伴っても、自分たちの手で運営していく心持ちが持続性につながる、と。
自分たちの手で運営していく心持ち。
このフレーズを、業者は絶対に書けません。書いたら嘘になります。これは、コートに立つ人間しか書けない言葉であります。
「このような形の報告書は見たことがないので、受理できません」
さて、後日談があります。
この報告書を文部科学省に提出しに行った際、担当の職員はこう言われたそうであります。
このような形の報告書は見たことがないので、受理できない。
私はこの話を聞いたとき、思わず笑ってしまいました。そして、笑ったあとで、少し悲しくなりました。
だってそうではありませんか。発注者が自分の頭で考え、下請けの提案に自分の名前で評価を書き、自分たちの過去の結論すら訂正し、制度の解釈は自分で役所に問い合わせて確かめた。そういう報告書が、前例がないと言われるのであります。
裏を返せば、この国の成果報告書の標準形が、いかに固定されているかということであります。業者が書いた本文があり、表紙に自治体名が入っている。それ以外の形を、誰も見たことがない。
なお、名誉のために書き添えますと、最終的にはきちんと受理されております。文科省の担当の方も、中身を読んで判断してくださったのだと思います。ありがたい話であります。それに、前例がないと言われた形式が受理されたということは、これから同じ形で出す自治体にとっては、もう前例があるということになります。
前例のなさは、一度でも通れば前例になります。そういうものであります。
あなたの町の報告書に、あなたの名前で書かれた章はありますか
私は、報告書という言葉の定義を、いま一度考え直したほうがいいと思っております。
報告書とは、業者が調べたことをまとめた文書ではありません。発注した側が、それを読んで、考えて、引き受けるか引き受けないかを決めて、その理由を自分の言葉で書き残した文書のことであります。
だから、コンサルが書き終えた時点では、それはまだ報告書ではありません。半分であります。残りの半分を発注者が書いて、初めて報告書になるのであります。
そしてこの残り半分こそが、その町に残る唯一の資産であります。建物は50年で古くなります。制度は10年で変わります。しかし、あのとき自分たちで比べて、自分たちで迷って、自分たちで決めたという経験だけは、職員の中に残ります。人事異動があっても、書いた文章は残ります。それが、次にその町が何かを決めるときの基礎体力になります。
外から人を呼ぶこと自体は、少しも悪いことではありません。私自身がその外から呼ばれる側であります。ただし、呼ぶ目的は、代わりに考えてもらうことではなく、自分たちが考えるために呼ぶのだという、この一点だけは間違えてはいけません。
コーチを雇っても、走るのは選手であります。コーチが速く走れても、試合では1点にもなりません。
紫波町の職員が最終章の最後に引いたのは、地方自治法第2条であります。地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。そして、こう書き添えました。
ここで指す最少の経費とは、単に安価なものを発注することではない。
安く発注して、丸ごと書いてもらって、そのまま出す。それは経費の節約ではなく、能力の放棄であります。
自分の町のことを、自分の言葉で書ける職員が一人でも増えること。それが、あらゆる公民連携事業の前提であり、地方における最大の投資であると、私は確信しております。
そして、今、新しい給食センターはこの報告書とは違う形で進められています。なぜなら、美味しい給食を提供できる給食センターを最小のコストで最大の成果を出すことを追求したからです。
私は、紫波町役場職員のこういうスタイルに心からの敬意を払います!!
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