桃チャレンジ

桃チャレンジの季節である。この季節おいしい桃が出回っている。わたしの七月は桃チャレンジの月だ。夏の始まりを告げるのは桃チャレンジだ。わたしにとって桃チャレンジはハラハラドキドキの大博打。八百屋さんの桃が安くなってきたのを見かけたら、家族の笑顔を見たいあまり思い切って賭けてみる。桃は見た目で判断するしかない。桃に触れずに見極めるしかない。見た目に騙されないように、桃チャレンジにわたしは挑む。
買ってきた桃を手にとって確かめる。表面にびっしりと小動物のような毛が生えている。ひとつひとつ真剣に丁寧に匂いをかいで確かめる。桃の甘い香りが強いモノから順番に、そっと指の腹であたまをさわる。押すか押さないかのあいだほど、優しく優しく触れてみる。指の腹を桃が跳ね返すのか、軽く沈み込むのか。それ次第で、食べ頃をみわける。
今回の桃は七つのうち三つが、今日。残りの四つは、明日。わたしはそう審判を下した。夕食のあとに食べるから、その二時間ほど前に冷蔵庫にいれる。大きさはそれほどないが、重みはあるから、タネが小さいかもしれない。たぶん甘いんじゃないかな。
八百屋さんの果物は、その日に食べてちょうどいいことが多い。明日に回した桃のことを考えると、わたしの心はザワザワする。熟しすぎもまた甘くなくなるからだ。さあ桃チャレンジのこのザワザワが夏の始まり。期待と不安と、ええい!いこう!ええい!まだだ!という桃チャレンジは、シャインマスカットが出回るまで、あと何度か繰り返す。
桃チャレンジは楽しいチャレンジだ。私が愛する主婦の暮らしはスリルに満ちている。桃チャレンジには勝っても、すももチャレンジには負けることがある。すももはほんとうにわからない。すももは桃より難しい。酸っぱくて酸っぱくて家族で、わあわあ笑いながら口をすぼめることもある。難しいからわたしはよく失敗もする。しかし失敗のあとまた立ち上がったわたしは、再び果物チャレンジに果敢に挑む。ついに賭けに勝ったときは、ほんとに嬉しい。失敗のあとの勝利の上書きは、ほんとに嬉しい。わたしの判断に満足する。賭けてみてよかったと満足する。しみじみホッとする。
甘い香りを確かめて、三百六十度から桃の様子を審査する。物言わぬ桃の声に耳を澄ませる。これだという三つの桃を選り分けたわたしは、さあさあ今夜、勝つか負けるか。なんとしても、勝ちたいなあ!暑き熱き戦いの夏が始まったのだ。わたしの桃チャレンジという夏は、まだ始まったばかりだ。
