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脊椎術後血腫、日本の9病院・1万例のリアルデータ。「胸椎手術は要注意」が数字で証明された


日本の9施設・10,680症例を分析した多施設研究です。

脊椎手術後の血腫について、これだけ大規模なデータは
なかなかありません。

信頼性が高い。だから読む価値がある。


全体の発生率は0.4%

45例が血腫除去のための再手術を要しました。

「少ない」と思いますか?

1,000人手術したら4人。大きな病院なら年間に何人も経験する合併症です。

そして、発症したら麻痺になる。だから知っておかないといけない。


衝撃のデータ:胸椎手術の発生率は腰椎の3倍超

これが今回の研究の一番重要な発見です。

| 手術部位 | 発生率 |

| 胸椎 | 1.0%(有意に高い:p=0.004)|
| 頸椎 | 0.5% |
| 腰椎 | 0.3% |

胸椎が突出して高い。

なぜか?理由は2つあります。

① 胸椎の後弯(背中が丸い)
後弯姿勢だと、脊髄周囲のスペースが狭い。血腫が少量でも脊髄を圧迫しやすい。

② 胸椎脊髄の血流が少ない
頸椎や腰椎と比べて、胸椎の脊髄への血流は乏しい。血腫による虚血ダメージが出やすい環境です。

胸椎手術を担当するときは、特に注意が必要です。


発症は「術後2.6日」が平均

注目すべき数字があります。

平均発症:術後2.6日(範囲:0〜14日)

これ、何を意味するか。

術直後だけでなく、退院後も含めた数日間がリスクゾーン
だということです。

さらに重要なのが——

遅発例(術後4日以降)が22%(10例) もいました。

平均で8.4日後。最長は術後14日後に発症しています。

「術後2〜3日問題なければ安心」ではありません。


どんな症状が出るのか

| 症状 | 例数 |

| 麻痺(四肢麻痺・対麻痺)| 30例 |
| 片麻痺 | 8例 |
| 難治性疼痛 | 5例 |
| 気道機能障害(呼吸困難)| 2例 |

麻痺が圧倒的に多い。

頸椎・胸椎手術後は四肢麻痺・対麻痺のリスクがある。
腰椎術後は筋力低下、疼痛、膀胱・直腸障害。

一点、見落としやすいのが片側性の神経症状

本研究でも12例(28%)が片側性の神経学的欠損を示しました。

「片側だから血腫じゃないだろう」という思い込みは危険です。
脳梗塞と間違えやすい症状パターンもあります。


術後転帰:81%が回復、でも9%は回復なし

除去手術後の転帰。

  • 35例(81%):少なくとも1グレード改善

  • 4例(9.3%):完全麻痺が残存

早く手術した人は回復している。診断が遅れた1例は、
麻痺から12日後に除去手術を受けましたが、それでは遅すぎた。

時間がすべてです。


ドレーンを入れれば防げるのか?

一見そう思えますが——答えは「わからない」です。

本研究では45例全員にドレーンが入っていました。

そのうち25例(56%)はドレーンが機能している最中に
血腫が発症しています。

ドレーンがあっても血腫は起きる。これが現実のデータです。

ただし、「ドレーン排液量の急激な変化」は発症サインになり得ます。


遅発性血腫のリスクは何か?

術後3日以上経ってから発症する「遅発性血腫」。本研究では0.1%に発生。

想定されるリスクファクター:

  • 多椎間手術

  • 高齢

  • 抗凝固療法

  • 身体活動の増加(起き上がり・歩行開始後)

  • 一時的な高血圧

ただし、この研究では早期発症群と遅発発症群で
年齢・抗凝固療法・手術部位に有意差はなかった。

つまり「この患者は大丈夫」と予測する因子は、
現時点では明確ではありません。

「誰でも起こりうる」という前提で観察することが大切です。


臨床への応用

リハビリ・病棟スタッフへ

① 胸椎手術後の患者は特別な注意を

発生率が腰椎の3倍。胸椎手術後の患者が術後数日で
「背中が痛い」「足が動かない」と言ったら即対応です。

② 「術後2〜3日経過して安心」は禁物

遅発例が22%います。退院後も含めた観察が必要です。
患者・家族への退院指導に「術後2週間以内に急な
麻痺・尿閉・激しい痛みが出たら即受診」を必ず入れてください。

③ 片側性の症状も見逃さない

「脳梗塞かも」と思った場合でも、脊椎手術後なら血腫も
鑑別に入れること。MRIで確認できます。

④ 「排便時の怒責」に注意

本研究の1例は排便時の怒責で遅発性血腫を発症しています。
術後の排便管理も神経学的観点から重要です。

⑤ 気道症状は前方頸椎手術後に特有

前方頸椎手術後に「息苦しい・飲み込みにくい」という訴えがあれば、
血腫による気道圧迫を第一に疑ってください。
本研究でも2例が気道機能障害を呈していました。


まとめ

  • 日本9施設の実際のデータ:発生率は0.4%

  • 胸椎手術が最もリスク高い(1.0%)

  • 平均発症は術後2.6日。でも最長14日後まで起こりうる

  • 81%は除去手術後に改善。でも9%は完全麻痺が残る

  • ドレーンがあっても防げない

  • 早期発見・早期手術が唯一の対策

脊椎手術後の患者を担当するなら、これは知っておかなければ
いけないデータです。

「まれな合併症」で済ませず、常にアンテナを張ることが大切です。ここまで読んでいただきありがとうございます。

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引用文献

Masuda S, Fujibayashi S, Takemoto M, et al.
"Incidence and Clinical Features of Postoperative Symptomatic Hematoma after Spine Surgery: A Multicenter Study of 45 Patients."
Spine Surg Relat Res 2020; 4(2): 130-134.
DOI: dx.doi.org/10.22603/ssrr.2019-0080

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