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日本サッカーには、なぜ「記録を語る文化」がもっと育たないのだろうか

拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い

大谷翔平選手の活躍をきっかけに、以前よりメジャーリーグの中継を見るようになった人は多いのではないだろうか。

私も見ていて、改めて気づいたことがある。

とにかく、記録がよく出てくる。

ホームランを打つ。

記録が出る。

ヒットを打つ。

記録が出る。

三振する。

連続出塁する。

盗塁する。

実況や解説者が、その数字の意味を説明する。

シーズン何本目、何試合連続という分かりやすいものだけではない。

「そんな記録まで取っていたのか」

と思うような、かなり細かな数字まで出てくる。

特定の条件を組み合わせた記録。

ある年齢までに達成した記録。

球団史上何人目。

メジャー史上何人目。

そして、ときには、

「80年ぶりの記録更新」

のような話まで出てくる。

80年前の選手が残した数字が保存されている。

それを現在の選手が更新する。

すると80年前の選手の名前が、もう一度画面に登場する。

現在のスターと、何十年も前のスターが、一本の数字でつながる。

これはすごいことだと思う。

もちろん、野球という競技そのものが記録と相性がいい面はある。

一球ごと、一打席ごとにプレーが区切られ、安打、本塁打、打点、三振、四球、盗塁などを数えやすい。

サッカーと単純に比較することはできない。

それでもメジャーリーグを見ていると、

記録を残す。
記録を蓄積する。
記録を公開する。
過去と比較する。
更新したらみんなで祝福する。

という文化そのものが、とても強いように感じる。

記録は単なるデータではない。

選手のすごさを説明し、現在と過去をつなぎ、スポーツの歴史を物語にするために使われている。

そこで、サッカーについて考えてみた。

日本サッカーにも、もちろん記録はある。

Jリーグにもさまざまな記録が蓄積されている。

高校年代にも得点記録や大会記録がある。

日本代表にも出場数、得点数、年齢などの記録がある。

最近ではデータを収集し、可視化しようという動きも広がっている。

だから、

「日本サッカーは記録を取っていない」

と言いたいわけではない。

むしろ逆である。

これだけ記録があるのなら、

もっともっと、その記録を「物語を語るため」に使ってもいいのではないだろうか。

DAZNでJリーグを見るときも。

高校サッカー選手権を見るときも。

日本代表戦を見るときも。

選手を紹介するときも。

記録を単なる数字として表示するのではなく、

「なぜ、この選手に注目すべきなのか」

を伝える材料として、もっと使えないだろうか。

野球を見ていると、そんなことを考える。

数字は、知らない選手への入口になる

例えば、野球では、

高校通算何本塁打。

甲子園通算何勝。

プロ通算何本塁打。

史上最年少。

球団史上初。

何試合連続。

歴代何位。

といった数字が頻繁に登場する。

私は野球の記録にそれほど詳しいわけではない。

それでも、ニュースや中継を見ていると自然に数字が入ってくる。

そして不思議なことに、その数字を知ると、知らなかった選手にも少し興味が湧く。

「高校通算60本塁打」

と言われれば、

そんなに打っている選手なのか。

と思う。

「甲子園で歴代○位」

と言われれば、

過去の名選手と比べてもすごいのか。

と分かる。

数字そのものが面白いというより、

数字によって、その選手がどんな選手なのかが一瞬で見える。

これはスポーツを見るうえで、とても大きなことなのではないかと思う。

では、サッカーはどうだろう。

サッカーに記録がないわけではない

最初に、ここははっきりさせておきたい。

日本サッカーが記録を取っていない、という話ではない。

むしろ、さまざまな記録が蓄積されている。

Jリーグでは、出場数、得点数、最年少・最年長記録などが記録され、記録更新時には公式に発表される。例えば2025年には北原槙選手が15歳7か月22日でJ1最年少出場記録を更新し、Jリーグ公式でも歴代記録とともに紹介された。(Jリーグ公式サイト)

育成年代でも同じである。

高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグでは、EAST、WESTそれぞれについて得点ランキングが公開されている。2026年シーズンも、選手名、所属チーム、得点数を確認できる。(JFA|公益財団法人日本サッカー協会)

つまり、

サッカーは記録を取っていない。

ではない。

私が考えたいのは、

これだけ記録があるのなら、それをもっと「物語を語るため」に使えないだろうか。

ということである。

DAZNを見ながら、もっと数字が出てもいいと思う

私はJリーグの試合をDAZNで見る。

もちろん、試合中にはさまざまなデータが出てくる。

順位。

得点数。

シュート数。

ボール支配率。

走行距離。

対戦成績。

選手のシーズン成績。

かなり情報は充実している。

そして、Jリーグがデータを持っていないわけでもない。

Jリーグ公式サイトの個人スタッツを見ると、得点やアシストだけではなく、シュート、パス、クロス、ドリブル、タックル、クリア、インターセプト、走行距離、スプリントなど、選手のプレーをさまざまな数字から見ることができる。

Jリーグ公式「J1 個人スタッツ」

だから私は、こうした数字を試合を見る側にも、もっと積極的に見せてもいいのではないかと思う。

例えば、ボランチの選手が紹介されたとき、

「今季全試合に出場しています」

だけではなく、

「この選手、実は今季の走行距離がJ1でトップです」

と実況が教えてくれる。

サイドの選手が猛烈な勢いで駆け上がったら、

「今日すでにスプリント○回。両チーム最多です」

と画面に出る。

フィジカルの強い選手が相手からボールを奪ったら、

「今季のデュエルではリーグ2位」

と紹介する。

快速FWなら、

「今季記録したトップスピードは時速35キロ」

と出す。

もちろん、実際に表示するなら、それぞれの数字について定義や比較条件をそろえる必要がある。

しかし、こうした数字があるだけで、選手の見え方はかなり変わると思う。

例えば初めて見る選手について、

「守備的なボランチです」

と説明されるより、

「90分平均の走行距離がリーグトップクラスのボランチです」

と言われた方が、その後どこを見ればいいのか分かる。

「足の速い選手です」ではなく、

「今季トップスピードは時速35キロです」

と出れば、次にその選手が走り出した瞬間を見たくなる。

「球際に強い選手です」だけでなく、

「デュエル数リーグ2位」

と示されれば、その選手が相手と競り合うたびに少し注目するようになる。

数字は、選手を評価するためだけのものではない。

観客に「この選手のどこを見れば面白いのか」を教えてくれるものでもある。

そして、そこに歴史的な記録を重ねてもいい。

例えば、若い選手が途中出場してきたとする。

実況が、

「17歳の○○選手です」

と紹介する。

それだけでも若いことは分かる。

しかし、

「このクラブでは歴代3番目に若いリーグ戦出場です」

と言われたらどうだろう。

急に見方が変わる。

あるFWが今日10得点目を決めた。

「今季10点目です」

だけでも十分である。

しかし、

「このクラブで日本人選手が二桁得点するのは○年ぶりです」

「23歳以下ではクラブ史上○人目です」

となれば、

そのゴールがクラブの歴史の中に置かれる。

単なる1点ではなくなる。

私は、毎回大量の数字を画面いっぱいに表示してほしいわけではない。

試合の邪魔になってしまえば本末転倒である。

そうではなく、

今この選手を見るのが少し面白くなる数字を、一つ出す。

それだけでもいい。

Jリーグには、すでにさまざまなスタッツが蓄積されている。

ならば次に考えたいのは、そのデータを「記録するもの」から「選手を語るもの」へ変えることではないだろうか。

得点ランキングだけでは、得点を取る選手に注目が集まりやすい。

しかしサッカーには、走る選手もいる。奪う選手もいる。競り合う選手もいる。パスをつなぐ選手もいる。

記録の見せ方を増やすことは、スターになれる選手の種類を増やすことでもある。

数字は、試合を過去とつなぐ

サッカーは、その瞬間を見るだけでも面白い。

ゴール。

ドリブル。

パス。

セーブ。

サポーターの歓声。

しかし記録が加わると、目の前の試合が過去とつながる。

例えば、

この選手は現在19歳。
19歳までのJ1得点数では、歴代○位。

と表示されたとする。

すると、

「では1位は誰だったのだろう」

と思う。

過去の選手を調べる。

そこから昔のJリーグを知る。

現在の選手と過去の選手が一本の線でつながる。

記録とは、スポーツの時間をつなぐものなのだと思う。

高校サッカーでも、もっと見てみたい

これは高校サッカー選手権を見ているときにも感じる。

高校サッカーには、すでに長い歴史がある。

名門校がある。

何度も出場している学校がある。

名将がいる。

日本代表選手を何人も送り出した学校がある。

歴代得点者がいる。

一年生から活躍する選手がいる。

高校選手権の放送でも、こうした過去の物語は紹介されている。

それでも、

もっともっと数字で語っても面白いのではないか

と思う。

例えば、

「この学校は○年連続出場」

だけではなく、

「選手権通算○勝」

「この10年間で○度ベスト8以上」

「この監督は選手権通算○勝」

「この選手は今大会○得点、プレミアリーグでは今季○得点」

「1年生での選手権得点は大会史上○人目」

「この学校から日本代表まで進んだ選手は○人」

といった数字が出てきたらどうだろう。

知らない学校同士の試合でも、

見るための入口

ができる。

「高校通算○得点」は簡単ではない

ただし、野球の「高校通算本塁打」をそのままサッカーへ持ってくればいい、という話でもない。

サッカーにはサッカーの難しさがある。

高校サッカーだけでも、

高円宮杯のリーグ戦。

高校選手権。

インターハイ。

地域大会。

県大会。

新人戦。

さまざまな大会がある。

さらにJクラブユースもある。

高校とクラブユースでは大会体系も違う。

練習試合まで含めるのか。

公式戦だけにするのか。

地域リーグの数字を全国で比較してよいのか。

基準をそろえなければ、数字だけが独り歩きする危険もある。

だから、

とにかく数字を増やせばいい

という話ではない。

全国共通で比較できる数字は何か。

どの大会まで含めるのか。

誰が記録を管理するのか。

そこから設計する必要がある。

プレミアリーグには、すでに数字がある

だからこそ、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグは面白い。

全国トップレベルの高校チームとJクラブユースが、同じリーグの中で戦っている。

そしてJFA公式サイトには得点ランキングもある。(JFA|公益財団法人日本サッカー協会)

つまり、数字はすでに存在している。

例えば高校選手権にプレミアリーグ所属校の選手が出てきたとき、

「プレミアリーグEASTで今季○得点」

と紹介できる。

あるいは、

「昨季プレミアリーグ得点ランキング○位」

でもいい。

そうすると、初めてその選手を見る人でも、

「全国トップレベルのリーグで点を取ってきた選手なんだ」

と分かる。

数字が、選手の背景を説明してくれる。

年代別代表歴も「履歴」になる

サッカーには、野球とは違う面白い記録もある。

年代別代表である。

U-15。

U-16。

U-17。

U-18。

U-20。

そしてA代表。

例えば日本代表戦で初めて見る若い選手について、

「○○クラブ所属、21歳」

だけではなく、

U-17ワールドカップ出場
U-20代表○試合
Jリーグデビュー17歳
20歳で欧州移籍
21歳でA代表初出場

と並べたらどうだろう。

その選手のキャリアが一瞬で見える。

これは単なるプロフィールではない。

一人の選手が、どの道を通って日本代表まで来たのかという物語

である。

「どこで育ったのか」も記録にできる

さらに私が面白いと思うのは、育成履歴である。

少年団。

街クラブ。

中学校。

Jクラブジュニアユース。

高校。

高校年代のクラブユース。

大学。

Jリーグ。

海外。

日本代表。

選手によって道はまったく違う。

この履歴そのものが、日本サッカーの面白さだと思う。

例えば日本代表戦で、

○○県○○市出身
○○少年団
○○中学校
○○高校
大学サッカー
J2
J1
欧州
日本代表

という経歴が紹介されたら、その地域の子どもにとってはどうだろう。

「この選手も、自分たちと同じところから始まったんだ」

と思える。

スターが急に遠い存在ではなくなる。

記録は、スターを「発見」する道具にもなる

有名になった選手の記録を見るだけではない。

まだ有名ではない選手を見つけるためにも数字は使える。

高円宮杯プレミアリーグで得点ランキング上位にいる。

高校一年生なのに主力として出場している。

年代別代表で継続して選ばれている。

J3で若くして出場している。

J2で最年少記録に迫っている。

そうした数字が日常的に紹介されれば、

「この選手、もしかしてすごいのでは」

と、プロになる前から知ることができる。

スターになってから物語をつくるのではない。

スターになる過程から物語を追いかける。

これは大きな違いだと思う。

野球から学びたいのは「記録の多さ」だけではない

ここで野球とサッカーの優劣を論じたいわけではない。

競技の性質が違う。

野球は一つ一つのプレーが区切られ、打席、安打、本塁打、投球回、奪三振などを数値化しやすい。

サッカーは連続した競技である。

得点だけでは選手の価値を測れない。

守備。

ポジショニング。

スペースをつくる動き。

パスを受ける前の判断。

数字だけでは表現できない重要なプレーがたくさんある。

だから、サッカーを野球のように数字だけで評価すべきではない。

私が参考にしたいのは別の部分である。

記録を、物語を伝えるために使う文化である。

数字は、知らない人への翻訳装置になる

サッカーファンなら、

「あの選手はすごい」

と言われれば分かる。

普段から試合を見ているからである。

しかし、サッカーをあまり知らない人には分からない。

そこで数字が役に立つ。

「17歳です」

より、

「17歳でのJ1出場はクラブ史上2番目の若さです」

の方が伝わる。

「高校生ながら注目されています」

より、

「プレミアリーグで現在得点ランキング2位です」

の方が伝わる。

数字は、サッカーに詳しくない人にも、

「なぜこの選手に注目すべきなのか」

を翻訳してくれる。

ここが重要なのだと思う。

DAZNでも、代表戦でも、高校選手権でも

だから私は、試合中にもっと記録を見てみたい。

DAZNでJリーグを見る。

高校選手権を見る。

日本代表戦を見る。

その中で、

「クラブ史上○人目」

「歴代○位」

「この年代では○年ぶり」

「育成年代から代表まで○試合」

「プレミアリーグ時代は○得点」

「この少年団出身では初の日本代表」

といった情報が自然に出てくる。

すべてのプレーに数字を付ける必要はない。

試合を邪魔するほどデータを出す必要もない。

しかし、

一人の選手の背景を知るための数字

は、もっとあっていい。

それによって、知らなかった選手が「気になる選手」になる。

記録を取ることと、記録を語ることは違う

今回、このテーマを考えていて一番重要だと思ったのはここである。

日本サッカーには、すでに多くの記録がある。

Jリーグは最年少記録などを公式に蓄積し、記録更新を発表している。例えばJ2では2024年に神代慶人選手が16歳5か月5日で最年少得点記録を更新した際、J1、J3など他大会の最年少記録も併せて紹介された。(Jリーグ公式サイト)

JFAも育成年代の得点ランキングなどを公開している。

だから、次の段階として考えたい。

記録を取る。
そして、その記録を物語として使う。

この二つは同じではない。

データベースの中に数字が存在していても、それだけでは一般の人には届かない。

実況が語る。

テロップに出す。

試合前番組で紹介する。

SNSで過去の選手と比較する。

育成年代から現在までの履歴をつなげる。

そこで初めて、数字が物語になる。

2046年の日本代表を、今から追えるかもしれない

『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』では、2046年のワールドカップ優勝という未来から逆算して考えた。

そのとき代表の中心になっている選手は、今はまだ子どもかもしれない。

まだ有名ではない。

当然、名前も知られていない。

しかし、その選手がサッカーを始める。

地域のクラブへ入る。

大会に出る。

育成年代の全国リーグへ進む。

年代別代表へ選ばれる。

Jリーグでデビューする。

海外へ行く。

A代表へ入る。

その一つ一つが記録として残っていれば、

私たちはスターが完成してから知るのではなく、スターが生まれる過程を一緒に見ることができる。

それは日本サッカーにとって、とても大きな財産になるのではないだろうか。

詳しくは『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』で

今回は、

「日本サッカーには、なぜ『記録を語る文化』がもっと育たないのだろうか」

という問いから考えてみた。

これは、

「日本サッカーは記録を取っていない」

という批判ではない。

実際には、多くの記録が残され、データを活用する動きも進んでいる。

だからこそ、次に考えたい。

その数字を、もっと人の心を動かす物語へ変えられないだろうか。

数字によって知らない選手を知る。

過去の選手と現在の選手がつながる。

少年団から日本代表までが一本の道になる。

そして子どもが、

「この選手みたいになりたい」

と思う。

本書では、こうした記録文化だけでなく、子どもの競技選択、スター、メディア、育成、地域との物語などを一つの循環として考えている。

『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに――子どもの競技選択から2046年ワールドカップ優勝まで』

Kindle Unlimited対象です。Kindle Unlimited会員の方は追加料金なしでお読みいただけます。

記録は、過去を保存するためだけにあるのではない。

まだ知られていない選手を、私たちが知るきっかけにもなる。

そして、その記録を見ている子どもの中に、さらに次の記録をつくる選手がいるかもしれない。


日本サッカーについて、こんな本を書いています

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