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日本代表選手が育った少年団や学校を、もっと地域の物語にできないだろうか

拙著『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』から生まれた問い

ワールドカップを見ていて、ある日本代表選手が気になった。

大会で活躍し、テレビやネットでも頻繁に取り上げられるようになった選手だった。

それまで名前やプレーは知っていても、特別に応援していたわけではない。

ところが、選手について紹介する記事を読んでいて、思いがけないことを知った。

自分が暮らしている地域の、すぐ近くの出身だった。

それだけで、急に距離が縮まった。

さらに調べてみると、自分が以前からよく見に行っていたJリーグクラブのアカデミーで育った選手でもあった。

すると、もっと不思議な感覚になった。

自分が練習場へ行っていたころ、もしかすると同じ場所にいたのかもしれない。

自分は気づかなかっただけで、将来日本代表になる少年が、すぐ近くでボールを蹴っていたのかもしれない。

もちろん、実際に遭遇していたかどうかは分からない。

それでも、そう考えた瞬間、

もう応援せずにはいられなくなった。

プレーが変わったわけではない。

選手の実力が突然上がったわけでもない。

変わったのは、私とその選手の間に、

「場所」という一本の線が引かれたことだった。

スターは、遠い世界の人でなくてもいい

日本代表選手は遠い存在である。

何万人もの観客が入るスタジアムでプレーする。

海外の有名クラブへ移籍する。

ワールドカップで世界のトップ選手と戦う。

テレビに出る。

子どもから見れば、なおさら遠い世界の人だろう。

しかし、

「この選手は、あなたの町で生まれた」

「この小学校に通っていた」

「この少年団でサッカーを始めた」

「このグラウンドで練習していた」

と知ったらどうだろう。

突然、世界との距離が縮まる。

世界で戦っている選手も、最初から世界にいたわけではない。
自分たちと同じ地域の、どこかのグラウンドから始まった。

この事実は、特に子どもにとって大きな意味を持つのではないかと思う。

選手の「所属歴」ではなく「成長の物語」として見る

サッカー選手のプロフィールには、所属歴が掲載されている。

少年団。

ジュニアユース。

高校。

高校年代のクラブユース。

大学。

Jリーグ。

海外クラブ。

年代別代表。

日本代表。

情報そのものは、すでに存在している。

しかし、それを単なるプロフィール欄の情報として終わらせるのは、少しもったいない。

誰もがプロフィール欄を開いたり、名鑑で調べたりするわけではない。

例えば、

○○市で生まれる

地元の少年団でサッカーを始める

○○中学校

Jクラブのアカデミー

Jリーグデビュー

欧州移籍

日本代表

ワールドカップ

と一本につないでみる。

するとこれは「所属歴」ではなくなる。

一人の子どもが世界へ到達するまでの物語になる。

少年団の子どもから見える世界が変わる

例えば、地域の小さな少年団から日本代表選手が出たとする。

現在そこにいる小学4年生に、

「日本代表の○○選手も、昔このグラウンドで練習していたんだよ」

と教える。

それだけで、そのグラウンドの意味は変わるのではないだろうか。

いつもの土のグラウンド。

いつものゴール。

いつもの練習場所。

そこが、

日本代表へつながっている場所

になる。

子どもは、その選手と同じ能力を持っているとは限らない。

プロになれるとも限らない。

もちろん、

「ここから日本代表が出たのだから、君も日本代表になれる」

などと安易に言うべきでもない。

それでも、

世界への道が、自分の日常と地続きであることを知る

意味は大きい。

「あの選手も、ここにいた」

地域にとっても同じである。

有名選手が出れば、

「○○市出身」

と紹介される。

それだけでも誇らしい。

しかし、もう一歩進められるのではないだろうか。

どこでサッカーを始めたのか。

誰に教わったのか。

どの大会に出たのか。

どの学校へ通ったのか。

どのクラブで成長したのか。

どのグラウンドを使っていたのか。

そこまで残していく。

すると、一人の選手の成功が、本人だけの物語ではなくなる。

少年団。

学校。

指導者。

地域クラブ。

保護者。

グラウンド。

大会。

地域のサッカー協会。

さまざまな人や場所が、その選手の成長の背景にあったことが見えてくる。

スターは突然、代表チームに現れたのではない。
地域の中で長い時間をかけて育ってきた。

ということが分かる。

日本代表だけでなく、Jリーガーでもいい

そして、これは日本代表選手だけの話にしない方がいいと思う。

むしろ地域にとっては、Jリーガーでも十分に大きな物語になる。

「この町から初めてJリーガーが生まれた」

「この中学校の卒業生がJ2で初得点を決めた」

「この少年団出身の選手がJ1へ昇格した」

「この高校からプロ契約した選手が出た」

それだけでもいい。

全国的には無名でも、地域ではスターになれる。

そして、その情報を地域の子どもへ返していく。

世界的なスターだけをスターにする必要はない。

地域ごとにスターがいていい。

高校サッカー選手権でも、もっと知りたい

高校サッカー選手権を見ていても、同じことを思う。

注目選手について、

「Jクラブ加入内定」

「年代別代表」

「大会注目のストライカー」

といった紹介はされる。

もちろん、それだけでも十分に興味深い。

しかし、もう少し前までさかのぼっても面白い。

どの町の出身なのか。

小学生のときはどこでプレーしていたのか。

中学生では部活動だったのか、街クラブだったのか、Jクラブのジュニアユースだったのか。

県外の強豪高校へ進学したのであれば、どこから来たのか。

そうした情報が一つ加わるだけで、

全国大会に出ている選手と、日本各地の地域サッカーがつながる。

高校選手権は、全国の地域から選手が集まる大会でもある。

ならば、その背景にある地域まで見せることができれば、もっと多くの人が選手に感情移入できるのではないだろうか。

「自分との接点」を一つ見つけるだけでいい

人が誰かを応援する理由は、必ずしも合理的ではない。

世界最高の選手だから応援する。

所属クラブが好きだから応援する。

プレースタイルが好きだから応援する。

それもある。

しかし、

同じ町の出身だった。

同じ学校だった。

自分の子どもと同じ少年団だった。

近所のグラウンドで練習していた。

自分が応援しているJクラブのアカデミー出身だった。

そんな小さな共通点だけで、急にその選手が気になることもある。

私自身がそうだった。

人は「自分と少し関係がある」と分かった瞬間に、その人の物語へ入りやすくなる。

これは、サッカーにそれほど詳しくない人を巻き込むうえでも重要なのではないだろうか。

地域の企業や店にも物語は広がる

さらに面白いのは、選手と地域の関係をたどると、サッカーだけで終わらないことである。

出身地。

学校。

少年団。

クラブ。

練習場。

そこには地域社会がある。

例えば地元企業が少年団を支援していたかもしれない。

地域の店が大会へ協賛していたかもしれない。

自治体がグラウンドを整備していたかもしれない。

地域の人が大会運営を手伝っていたかもしれない。

一人の選手の育成履歴をたどることは、

その地域がどのようにスポーツを支えてきたのかをたどること

にもなる。

ここは『サッカー地方創生』で考えてきた話ともつながってくる。

出ていった選手も、地域との関係は切れない

優れた選手ほど、地域を離れていく。

強豪高校へ進む。

Jクラブへ入る。

海外へ移籍する。

これは当然である。

世界を目指すなら、より高いレベルの環境へ進む必要がある。

だから地域が、

「地元に残ってほしい」

と囲い込む必要はない。

むしろ送り出せばいい。

そして、

どこまで行っても「この地域から始まった選手」であることを残す。

欧州のビッグクラブへ行っても、

日本代表になっても、

ワールドカップへ出ても、

「この町の、このグラウンドから始まった」

という物語は消えない。

それは地域にとって、大きな資産になる。

記録として残さなければ、やがて分からなくなる

前回の記事では、

「日本サッカーには、なぜ『記録を語る文化』がもっと育たないのだろうか」

という問いを考えた。

選手の育成履歴も、一種の記録である。

現在は検索すれば、かなりの情報を見つけられる。

しかし、少年年代までさかのぼると、情報は途切れやすい。

地域クラブのホームページ。

昔の大会結果。

学校の記録。

保護者が運営していたサイト。

地方紙の記事。

そうした場所に断片的に残っていることもある。

だから、トップ選手になってから慌てて調べるのではなく、

育成年代から選手の歩みを記録しておく

ことにも意味があるのではないだろうか。

スターを「地域へ返す」

日本サッカーが強くなれば、多くの選手が海外へ行く。

すると物理的には、地域からどんどん遠くなる。

しかし物語としては、逆のことができる。

海外で活躍した選手を、

もう一度、育った地域へつなぎ直す。

「日本代表の○○選手」

だけではなく、

「○○市で育った日本代表の○○選手」

として伝える。

「欧州で活躍する○○選手」

だけではなく、

「この少年団から世界へ行った○○選手」

として伝える。

それだけで、スターの活躍が地域の子どもたちへ戻ってくる。

私はこれを、

スターを地域へ返す

という循環として考えてみたい。

2046年の日本代表は、どこかの町ですでにボールを蹴っている

『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』では、2046年のワールドカップ優勝という未来から逆算して考えた。

そのころ日本代表の中心になっている選手は、今はまだ子どもかもしれない。

全国的には誰も知らない。

しかし、

どこかの少年団でボールを蹴っているかもしれない。

公園で遊んでいるかもしれない。

別のスポーツをしているかもしれない。

まだサッカーそのものを始めていないかもしれない。

その子がいつか日本代表になったとき、

「実はこの町の、この場所から始まった」

と分かる。

そして、それを見た次の子どもが、

「自分もやってみたい」

と思う。

そこまでつながれば、一人のスターの物語は一代で終わらない。

地域で子どもが育つ。
世界へ出ていく。
活躍する。
育った地域の物語として伝える。
地域の子どもがそれを見る。
次の子どもがサッカーを選ぶ。

この循環をつくることができる。

詳しくは『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに』で

今回は、

「日本代表選手が育った少年団や学校を、もっと地域の物語にできないだろうか」

という問いから考えてみた。

これは、有名選手の出身地を利用して地域を宣伝しよう、というだけの話ではない。

選手がどこから来たのかを残す。

育てた人や場所を見えるようにする。

世界での活躍を地域へ返す。

そして、その物語を見た次の子どもへつなぐ。

日本代表だけでなく、Jリーガーでもいい。

高校サッカー選手権で活躍する選手でもいい。

地域にとっては、

「自分たちの近くから、ここまで来た選手がいる」

という事実そのものが物語になる。

そして、その小さな接点を知っただけで、今まで知らなかった選手を突然応援したくなる人もいる。

本書では、こうした地域とスターの物語だけでなく、子どもの競技選択、メディア、記録文化、育成、職業としてのサッカーなどをつなげながら、日本でサッカーを選ぶ子どもを増やすための循環を考えている。

『サッカーを日本のナンバーワンスポーツに――子どもの競技選択から2046年ワールドカップ優勝

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世界へ行く選手を育てる。

そして、世界へ行った選手の物語を地域へ戻す。

その選手に憧れた次の子どもが、また同じグラウンドでボールを蹴り始める。

日本サッカーが本当に残すべきものは、スターの名前だけではなく、「ここから世界へ行ける」という地域の記憶なのかもしれない。


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