君の残り香が薄くなる
離してはいけない心 傷つけてはいけない心
この世のなによりも美しい心を
俺は言いたくない言葉で泣かせた
受話口から漏れる
すすり泣く声と長い静寂に
耳を強く押しあてていた
やっといつもの声に戻ったのがわかって
涙がひとしずく とめどなく
気づかれないように
声を押しころす じっと
絶対に失いたくない恋を
思い出なんかにしたくない愛を
抱きしめた温もりを
忘れることない繋いだ手を
どうしてと心に問いかけながら 手放す
「ごめん」と ひとことが言えずに
震える声を 吐息で薄めて闇に溶かした
最後の恋だったのに
最後の幸せだったのに
この手を離せば
ただ深い闇が広がるだけなのに
また ひとりに
贈ったピンクのチューリップ
黄色いバラの花束
とても似合った白いリュック
安物の薬指のリング
二人で作ったカレーも生姜焼きも 二人で淹れた珈琲も
君のために買ったイスも
お揃いの寝間着も
この部屋から薄くなっていく君の残り香も
そうじゃない
君が本当に欲しかったもの
俺が本当に贈りたかったもの
それは『永遠』だったのに
大好きな真っすぐであたたかい君の心に
感謝だけがいつまでも淡く灯るから
一万回の ありがとう
あの虹を一緒に渡りたかったね
