取引業務の断絶は、機能不足のせいではない
システムを入れるほど、手入力が増える
要約
この20年、貿易実務のツールは確実に増え、それぞれ性能も上がった。
にもかかわらず継ぎ目は繋がらず、むしろ繋ぐべき相手が増えた。
原因は機能の不足ではない。いま企業間取引を支えているシステムの多くが「点の取引」を前提に設計されている一方、実際の取引は「線」だからである。前提がズレている限り、機能を足しても綻びは移動するだけだ。
前提
前回、国際商取引で起きていることを「取引業務の断絶」と名づけた。ひとつの取引が9つの工程と7つ以上の部門をまたぐたびに情報が手渡され、途切れ、消える。取り交わす書類は平均36種類、コピーは240部、データ項目は約5,000を超える。
https://note.com/noted_pansy3031/n/n1a2e3f8ddb23?app_launch=false
工程それぞれには優れたシステムがある。だが工程と工程のあいだの継ぎ目には、システムがない。
そこにいるのは人であり、メールであり、記憶である。
今回は、なぜその継ぎ目が空いたままなのかを書く。
ツールは、増え続けてきた
まず先に言いたいのは、この20年、誰も手を抜いてきたとか、そうゆう話じゃありません。
貿易書類の電子化ツールは登場した。物流のトラッキングは精緻になった。電子署名は普及した。通関システムは整備された。決済も速くなった。それぞれの工程は、20年前と比べれば劇的に改善している。
にもかかわらず、継ぎ目は繋がっていない。
それどころか、ツールが増えたぶん、繋ぐべき相手が増えた。
別の業界で言うと、昔からあったテレビのリモコンのように、
なんのボタンかはわからないけど、たくさんありましたよね。

ツールは、それぞれ別の会社が別の思想で作っている。だから新しく1つ入れるたびに、既存のすべてと繋ぎ込む作業が発生する。導入は1つでも、繋ぐ手間はそのぶん積み上がっていく。
そして現実には、その連携は自動化されない。仕様が合わない。データ形式が違う。API連携は費用がかかる。だから人が手で埋める。つまり、システムをひとつ入れるたびに、手入力の箇所が増えていく。効率化のために導入したはずのものが、転記を生む。

つまり、それぞれの工程を良くする投資が、継ぎ目の負担を増やしてきた。これは誰かの失敗ではなく、この20年で実際に起きたことです。
「機能が足りない」という診断は、間違っている
この状況に対して、これまで繰り返されてきた診断がある。
「必要な機能が足りていない」
承認機能が足りない。再発注機能が足りない。連携機能が足りない。だから足そう。この診断のもとで、20年間ツールは足されてきた。そして繋がらなかった。
私は、この診断そのものが間違っていると考えている。
疑うべきは機能の数ではなく、
そもそも何を想定、設計してシステムが作られたのかという点である。
私たちが慣れ親しんだ買い物は、「点」である
インターネット上の買い物を思い浮かべてほしい。
・商品ページを見て、その場で買うかどうか決める。
・買うのは一度きりで、次にいつ買うかは決まっていない。
・買うのは棚に並んでいる既製品で、仕様を相談することはない。
・支払いはその場でカード決済する。
・届くのは箱ひとつで、宅配便が個別に運んでくる。
・何を買うかはレコメンドが教えてくれる。
・誰にも相談せず、自分で完結する。
まとめると、こうなる。
即断/単発/既製品/即時払い/個別配送/レコメンド/セルフ。
これが「点の取引」である。
ひとつの購買が、それ自体で始まり、それ自体で終わる。
前の取引とも次の取引とも切れている。だから「点」だ。
そしてこの前提は、非常に良くできている。
消費者向けのeコマースはこの前提の上で世界最大級の産業になった。
企業向けのマーケットプレイスの多くも、この設計思想を土台にして作られている。
だが、企業が買うときは、線である
ところが、企業が何かを買うときに起きていることは、まったく違う。
その場では決められない。
・稟議を通し、複数の部門の承認を取る。
・買うのは一度きりではなく、同じ相手と何年も継続して取引する。
・既製品ではなく、自社の仕様に合わせて作ってもらう。
・その場では払わず、掛売で後から支払う。
・箱ひとつではなく、パレットやコンテナの単位で運ぶ。
・レコメンドではなく、基幹システムの在庫と需要予測に基づいて発注する。
・セルフではなく、専任の担当者が相手側にもこちら側にもつく。
稟議承認/継続関係/カスタム仕様/後払い・掛売/大ロット配送/ERP連携/専任担当者。
これが「線の取引」である。
ひとつの取引が、前の取引から続いていて、次の取引へと続いていく。
だから「線」だ。
なぜ線になるのか。前回書いた通り、扱っているものが直接材だからである。自社の商品として顧客に渡るものである以上、仕様を作り込む必要があり、品質を保証する必要があり、来月も再来月も同じものを確保する必要がある。一度きりの買い物では済まない。関係が続くことが、取引の前提になっている。
7つの項目が、点と線で一対一に対応していることに気づくと思う。
これは偶然ではない。同じ7つの論点について、点の設計と線の実態が、正反対の答えを置いているということである。
だから、7箇所で綻びが出る
設計の前提と実態がズレていると、そのズレは必ずどこかに現れる。実際に現場で起きているのは、次の7つである。

機能を足すと、綻びは移動する
ここが、この記事でいちばん言いたいことである。
7つは、一見すると別々の問題に見える。
だから実際、それぞれ別々に対処されてきた。
承認ワークフローのツールを入れる。
再発注用のテンプレートを作る。仕様書の共有フォルダを整える。
だが、根が同じである以上、一箇所を塞いでも、綻びは別の場所に移動する。
承認をツール化すれば、そのツールと取引システムのあいだに新しい継ぎ目ができる。仕様書を共有フォルダに置けば、フォルダと取引情報の紐付けを人が維持することになる。ERPと繋げば、繋ぎ込みの保守が新しい仕事として増える。
機能をひとつ足すたびに、繋ぐ相手がひとつ増える。
冒頭の算数が、ここで効いてくる。足し算のつもりで導入したものが、掛け算のコストを連れてくる。だから20年間ツールを足し続けても、継ぎ目の総量は減らなかった。むしろ増えた。
これが、「取引業務の断絶は機能不足ではない」と私が考える理由である。機能不足なら、足せば解決する。だが実際には、足すほど遠くなっている。症状ではなく、診断が間違っている。
これは、努力ではなく設計の問題である
誤解のないように書いておくと、既存のプレイヤーが間違っているという話ではありません。
点の設計は、点の取引に対しては完璧に正しい。消費者向けのeコマースがあれほど成功したのは、設計と実態が一致していたからである。企業の購買でも、間接材、文房具、備品、消耗品といった、自社で使って終わるものについては、点の設計はきちんと機能している。仕様を作り込む必要も、品質を保証する必要も、継続して同じものを確保する必要もないからだ。
問題は、企業間取引の根幹が、そこにはないということだ。
企業が動かしている金額の大半は直接材である。
自社の商品として顧客に渡るものであり、だから稟議を通り、継続し、カスタムされ、掛売で、大ロットで、基幹システムに繋がり、担当者がつく。
線の取引になる。
そこに点の設計を当てると、7箇所で綻びが出る。当然のことが、当然に起きているだけだ。
この20年で誰も解けなかったのは、技術が足りなかったからではない。そもそも前提が違うものを、後から足して繋ごうとしてきたからだと、私は考えている。
問うべきは「何が足りないか」ではない
ここまでの話には、ひとつの帰結がある。
断絶を解こうとするとき、多くの人は「どの機能が足りないのか」を考える。だが7つの綻びが同じ前提から出ている以上、機能を足していく限り、綻びは移動し続ける。
問うべきは、何を中心に置いて設計するかである。
商品を中心に置けば、商品カタログのシステムになる。書類を中心に置けば、書類のシステムになる。貨物を中心に置けば、物流のシステムになる。そのどれもが、それぞれの中心の周りでは正しく動き、その中心から外れたところで綻びを残す。中心の置き方が、残る綻びの場所まで決めてしまう。
では、線の取引を扱うには、何を中心に置けばいいのか。この問いには、また別の会で記載しようと思います。
最後まで見ていただき、有難う御座いました。
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