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【身䜓のもうひず぀の地図⑊】息は、自分で觊れられる唯䞀の堎所——叀代の人が芋おいたもの

はじめに

斜術䞭に「力を抜いおくださいね」ずお䌝えするず、そのたた息たで止めおしたう方がいらっしゃいたす。

肩や銖に觊れおいるあいだ、胞のあたりが動かない。しばらくしお「呌吞しおいいですよ」ずお声をかけるず、「あ、止めおたした」ず蚀っお、たた息をし始める。

力を抜こうずしお、息を止めおいる。考えおみるず䞍思議な話です。力を抜くために、いちばん抜けおいない堎所を䜜っおしたっおいるわけですから。

でも、これができおしたうこず自䜓が、よく考えるず倉なんです。私たちは心臓に「止たっお」ず呜じるこずはできたせんし、胃に「消化を埅っお」ずお願いするこずもできたせん。それなのに息だけは、止めようず思えば止められるし、攟っおおけば勝手に動いおいる。

息は、自分で觊れられる唯䞀の堎所なんです。

叀代の䞭囜の人たちも、そこに早くから気づいおいたした。ただ、私たちが想像するのずは少し違う圢で。

なお、この蚘事に呌吞の手順は出おきたせん。䜕秒吞っお䜕秒吐く、ずいったやり方は曞かない぀もりです。そのかわりに、叀代の人が息をどう芋おいたのかずいう、もうひず぀の芋方をお枡ししたす。

倕方の斜術宀。ゆら院長が、う぀䌏せになった患者さんの肩ず銖に手を圓おおいる。窓から柔らかい光が入っおいる

第1章 吐いお、玍める

叀代䞭囜に、息にた぀わる有名な蚀葉がありたす。「吐故玍新ずこのうしん」ずいいたす。

叀い息を吐いお、新しい息を玍める。道教の修行法のひず぀ずしお䌝わっおきたもので、略しお「吐玍ずのう」ずも呌ばれたす。

よく芋るず、この蚀葉、吐くほうが先に来おいたす。玍めるのは、そのあずです。

私たちは深呌吞ずいうず、たず倧きく吞うずころから始めたすよね。胞を広げお、たっぷり吞っお。ずころが二千幎以䞊前の蚀葉は、順番が逆なんです。吐くのが先で、吞うのは結果ずしお぀いおくる。

チビキャラのゆら院長が、「吐」ず「玍」の朚札を䞡手に持っおいる。「吐」の札が前に、「玍」の札が埌ろに眮かれおいる。「吐いおから、玍める順番が、逆だった」の文字。

■荘子は、それを掚しおいなかった

この吐故玍新ずいう蚀葉が最初に出おくるのは、『荘子』の刻意篇です。

ずころが、原文を読むず少し様子が違いたす。息を吐いお新しい気を玍め、熊が朚にぶら䞋がるように、鳥が矜を䌞ばすように身䜓を動かす——そうしたこずは「長生きをしたい人たちが奜むずころである」ず、少し離れたずころから曞かれおいるんです。

そしお、そのすぐあずにこう続きたす。導匕をしなくおも長生きし、あれこれ意図しなくおも高みにいる。それこそが倩地の道であり、聖人の埳である、ず。

぀たり『荘子』は、吐故玍新を「これをやれば長生きできる技」ずしおは勧めおいないんですね。呌吞法の出どころずしお語られるこずの倚い曞物が、呌吞法そのものにはやや冷たい。

初めお原文に圓たったずき、私は少し戞惑いたした。ここを匕甚しおいる文章はたくさんあるのに、この盎埌の䞀節たで玹介しおいるものが芋圓たらなかったからです。

■それでも、技は磚かれおいった

面癜いのは、そのあずの二千幎です。

䞉䞖玀の嵇康けいこうは『逊生論』で呌吞ず吐玍を説きたした。四䞖玀の葛措は『抱朎子』で、気をめぐらせるのは生気のずきにすべきで、死気のずきに行っおはならないず曞いおいたす。六䞖玀の陶匘景『逊性延呜録』には、六皮類の吐き方が䞊びたした。䞃䞖玀の孫思邈は、それを四季の逊生ず結び぀けおいたす。

荘子が突き攟したはずのものが、埌の時代にどんどん粟密になっおいく。そしお二千数癟幎埌の私たちは、いた、スマホの画面を芋ながら秒数を数えおいたす。

暪䞀盎線の幎衚。巊から荘子玀元前4䞖玀、嵇康3䞖玀、葛措4䞖玀、陶匘景6䞖玀、孫思邈7䞖玀ず䞊び、右端に珟代ずスマヌトフォンのアむコン。「技は、磚かれおいった」の文字。

この流れ自䜓を、私は悪いこずだずは思っおいたせん。ただ、いちばん叀い時代の人が息に向けおいた県差しは、技を磚くのずは別の方向を向いおいた。そこは抌さえおおきたいずころです。

では荘子は、息の䜕を芋おいたのか。

第2章 螵ず、喉

『荘子』には、もうひず぀息に぀いおの有名な䞀節がありたす。倧宗垫篇にある蚀葉です。

真人の息は螵きびすをもっおし、衆人の息は喉のどをもっおす

真人ずいうのは、荘子が理想ずしお描いた人のこずです。その人の息は螵でされおいお、普通の人の息は喉でされおいる。

もちろん、螵に肺があるわけではありたせん。螵たで届くほど深く静かな息、ずいう意味に読たれおきたした。

ここだけを取り出すず、「だから深い呌吞をしたしょう」ずいう話に聞こえたす。実際、そう玹介されるこずがほずんどです。

でも、第1章を螏たえるずどうでしょうか。荘子は技ずしおの呌吞法を掚しおいたせんでした。その同じ曞物が、深い息を目暙ずしお掲げるでしょうか。

■求めた結果ではなく、珟れおいた状態

この䞀節の前埌を読むず、真人の描写が䞊んでいたす。眠っおも倢を芋ず、目芚めおも憂いがなく、食べおも味にこだわらない。そしお、その息は深く静かである、ず。

深い息は、努力しお手に入れたものずしおは曞かれおいたせん。その人がそういう状態にあるから、息もそうなっおいる。順番が逆なんです。

息を深くしたから真人になったのではなく、真人だから息が深い。

そう読むず、荘子が息に向けおいた県差しがはっきりしたす。息は、目暙ではなかった。その人の状態が、そのたた珟れおしたう堎所だったわけです。

■息だけが、倖から芋えおしたう

そもそも、なぜ叀代の人は他人の息を語れたのでしょうか。

考えおみるず、身䜓の䞭で勝手に動いおいるもののうち、倖から芋えるのは息だけなんですよね。心臓の動きも、胃の動きも、他人からは芋えたせん。ずころが息は、肩の䞊䞋や、声の途切れ方や、話す速さに出おしたう。

私も斜術のずき、そこを芋おいたす。肩や銖に觊れおいるのに、肩が䞊がったたたで胞のあたりが動かない。そういうずき、この方はいた緊匵しおいるんだな、ず分かる。狙っお芳察しおいるずいうより、目に入っおくる感じに近いです。

倕方の䜏宅街。信号埅ちで肩をすくめおいる人、ベンチで肩の力が抜けおいる人、少し前かがみで急いで歩く人。䞉人の肩のあたりに、うっすらず金色の茪郭が芋えおいる。

二千数癟幎前に、誰かが同じものを芋おいた。螵ず喉ずいうのは、深い浅いの優劣ずいうより、そこに珟れおいた違いを蚀い圓おた蚀葉なのだず思いたす。

では、なぜ息にだけ、そんなこずが起こるのでしょうか。

第3章 ふた぀の運転垭

息が止められるのに、攟っおおいおも動いおいる。この䞍思議さには、身䜓の偎にちゃんず理由がありたす。

呌吞を動かしおいるのは、脳幹にある仕組みです。ここが芏則正しく信号を出し続けおいお、私たちが眠っおいおも、意識を倱っおいおも、息は続きたす。血液䞭の二酞化炭玠が増えれば換気を増やし、枛れば抑える。この自動的な働きを自動調節ず呌びたす。

䞀方で、私たちは息を止めるこずも、深く吞うこずも、歌うこずも、話すこずもできたす。これは倧脳から呌吞筋ぞ届く別の経路によるもので、随意調節ず呌ばれたす。

぀たり息には、運転垭がふた぀あるんですね。

車の運転垭をうしろから芋た図。巊の垭は空なのにハンドルが勢いよく回っおいる。右の垭にはチビキャラのゆら院長が座り、ハンドルを握っおいる。䞋に心臓・胃・肺のアむコン。「自動調節随意調節手を離しおも、止たらない心臓ず胃には、運転垭がひず぀しかない」の文字。

ふだんは自動運転が走らせおいる。でも運転したくなれば、い぀でもハンドルを握れる。しかも握るのをやめおも、車は止たらない。これが、心臓や胃ずの決定的な違いです。

■螵ず喉を、もう䞀床

ここで第2章に戻っおみたす。

真人の息ず衆人の息。あれを深さの優劣ではなく、どちらの運転垭で動いおいるかの違いずしお読むず、景色が倉わっおきたす。

緊匵しおいるずき、私たちの息は速く浅くなりたす。これは自動調節が状況に応じお起こしおいる倉化で、本人が遞んでいるわけではありたせん。荘子が「衆人の息は喉」ず曞いたのは、そういう状態のこずだったのかもしれない。

そしお真人のほうは、そもそも運転垭に座る必芁がなかった。萜ち着いおいるから、自動運転のたたで息が深い。

ただし、ここで気を぀けたいこずがありたす。螵で息をするずいう蚀葉ず、脳幹や倧脳の話は、同じものを指しおいるわけではありたせん。片方は二千数癟幎前の身䜓感芚の衚珟で、もう片方は珟代の解剖の蚘述です。重なるずころがある、ず蚀えるだけで、むコヌルで結んでしたうず䞡方に倱瀌になりたす。

私が敎圢倖科にいた䞉幎間で身に぀いたのは、この線匕きの感芚でした。分かっおいるこずず、ただ蚀えないこずを混ぜない。それは東掋医孊を扱うようになった今も倉わりたせん。

■量の問題ではない

もうひず぀、斜術の珟堎でよく感じるこずがありたす。

息が苊しいずき、私たちは「足りない」ず思うんですよね。だからもっず吞おうずする。

ずころが、たくさん吞えば楜になるかずいうず、そうでもないんです。過換気ずいっお呌吞が過剰になっおいる状態では、血液䞭の酞玠はむしろ十分に足りおいたす。苊しさの原因は酞玠の䞍足ではなく、二酞化炭玠が枛りすぎるこずによる血液の倉化のほうにあるずされおいたす。

吞っおいるのに、苊しい。量の問題ではないわけです。

䞊に肺のアむコンがあり、「吞っおいる量は、同じ」の文字。その䞋に同じ圢の容噚がふた぀䞊び、巊の「酞玠」はほが満タンで「足りおいる」、右の「二酞化炭玠」は少なく「枛りすぎおいる」。「吞っおいるのに、苊しい」の文字。

もうひず぀、぀いでのような話を。

深呌吞は身䜓に良い、ずいう感芚は、私たちにずっお圓たり前になっおいたす。でもこれ、それほど叀い垞識ではないんです。日本で呌吞法が広く流行したのは明治から倧正にかけおで、背景には結栞の予防ずしお深呌吞が奚励されたずいう事情があったず指摘されおいたす。よく耳にする「䞹田」を䜿った呌吞法も、この時期に敎えられた比范的新しいものです。

二千幎前の知恵だず思っおいたものが、癟幎ほど前のものだった。逊生の䞖界には、こういうこずがわりずありたす。

第4章 敎えなくおいい

ここたで読んでいただいお、こう思われた方もいるかもしれたせん。じゃあ、結局どうすればいいのか、ず。

私の答えは、敎えるのではなく、気づくです。

呌吞法を詊しおみたけれど続かなかった、ずいう話をよく䌺いたす。秒数を数えるのが面倒になった、途䞭で分からなくなった、そもそも息苊しくなっおやめた。

続かなかったのは、意志が匱いからではないず思うんですよ。息にはもずもず自動運転が぀いおいるわけですから、ずっず手動で走らせようずすれば疲れたす。圓たり前のこずです。

■枬ろうずした瞬間に、倉わっおしたう

それに、息には少し厄介な性質がありたす。

いた自分の息が深いか浅いか、確かめようずしおみおください。おそらく、確かめた時点でもう倉わっおいるはずです。

息は、意識を向けるず動いおしたう。運転垭がふた぀あるずいうのは、そういうこずでもありたす。だから「自分の息を正しく枬る」こずは、原理的にちょっず難しい。

でも、これは困ったこずではありたせん。荘子が芋おいたのも、たさにそこだったはずですから。真人の息は、求めお手に入れたものではなく、その人の状態ずしお珟れおいたものでした。息は枬るものではなくお、聞くものなんです。

肩が䞊がっおいる。息が浅い。気づいたら、それでもう十分です。そのあず深く吞い盎す必芁も、秒数を数える必芁もありたせん。気づいた時点で、身䜓はもう䜕かを受け取っおいたす。

冒頭の方も、そうでした。「あ、止めおたした」ず蚀った瞬間に、息はもう戻っおいたんです。

チビキャラのゆら院長が、片方の肩だけが䞊がっおいるこずに気づいた衚情で立っおいる。もう片方の肩は䞋がっおいる。䞊がった肩の䞊に小さな金色の光。「気づいたら、それで十分」の文字。

結びに ずっず、そこにあった

斜術を続けおいるず、途䞭でふっず倧きく息が挏れる瞬間がありたす。

こちらは䜕も蚀っおいたせん。呌吞のこずも、力の抜き方のこずも。それでも、止たっおいたものが勝手にほどけおいく。あのずき、私は䜕もしおいないんですよね。ただ、その方の身䜓が自分で運転垭を降りただけです。

このシリヌズでは、身䜓の巡りをめぐる知恵をひず぀ず぀蟿っおきたした。枩めるこず、動くこず、食べるこず、眠るこず。どれも叀代の人が積み䞊げおきた、巡らせるための手立おでした。

そこに、巡らせる手段の地図に、もう䞀手加わりたす。息です。

ただ、息はほかの四぀ずは少し立ち䜍眮が違いたす。枩めるのも、動くのも、食べるのも、眠るのも、自分でやるこずでした。息は、やらなくおも勝手に続いおいる。それなのに、やろうず思えば手が届く。

二千数癟幎前の人たちは、そこに気づいおいたした。そしお技ずしお磚き䞊げる道もあった䞭で、いちばん叀い局の人は、息を目暙にはしなかった。その人がどうあるかが、そのたた珟れる堎所ずしお芋おいた。

私たちは今日も、無数の呌吞法に囲たれおいたす。䜕秒吞っお、䜕秒吐いお。それが悪いずは思いたせん。ただ、その手前に、もっず静かな芋方がずっずあったずいうこずは、知っおおいおもいいのかなず思うんです。

気づいおもらうのを、ただ埅っおいる堎所が、身䜓にひず぀だけありたす。

倕方の静かな郚屋。少し開いた窓から入る颚で、癜いレヌスのカヌテンがゆっくり膚らんでいる。テヌブルには飲みかけのお茶ず䌏せられた本。光の䞭に现かい埃が舞っおいる。

▌マガゞン

このシリヌズは、東掋医孊が積み䞊げおきた逊生の知恵を、ひず぀ず぀掘り起こしお珟代に぀なぎ盎す連茉です。枩めるこず、動くこず、食べるこず、眠るこず。身䜓の巡りをめぐる地図を、少しず぀描いおいたす。

▌あわせお読みたい

もう少し肩の力を抜いた話も、月に䞀床曞いおいたす。季節ごずの身䜓のこずや、東掋医孊のツボの話など。今回のような深い朜り方ではなく、ふだんの暮らしの隣にある話です。

▌次回予告

次回は「湯ゆ」の話をしたす。息は、自分で觊れられる唯䞀の堎所でした。では、自分では動かせないものに、叀代の人はどう手を䌞ばしたのか。湯に浞かるずいう、日本人にずっおあたりに身近な習慣の話です。


※この蚘事は身䜓に぀いおの䞀般的な理解を助けるためのもので、蚺断や治療に代わるものではありたせん。息苊しさが続く堎合や、動悞・胞の痛みをずもなう堎合は、自己刀断せず 医療機関にご盞談ください。


▌参考・出兞

■ 『荘子』刻意篇・倧宗垫篇原文
■ 日本呌吞噚孊䌚「過換気症候矀」
■ 倧森正矩「文化ずしおの呌吞法——健康法ずしおの呌吞法の捉え方」城西倧孊


#呌吞 #息 #逊生 #東掋医孊 #鍌灞 #鍌灞垫 #身䜓のもうひず぀の地図 #健康 #セルフケア #柔道敎埩垫

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