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第四の国|第1章 殺人事件|#異世界ファンタジー小説|全8章


1章 殺人事件


男が、殺されていた。
町の中央にある小さな広場。
そこで、一人の男が倒れていた。
「……殺人?」
誰かが呟く。
私は人垣を抜け、倒れている男を見た。
間違いない。
死んでいる。

私はノアン。
この町で暮らしている。

けれど、町の人々が驚いているのは、死体を見たからだけではなかった。「この町で……?」「あり得ないだろ」
「どうして殺人なんか……」
誰もが、犯人より先に別のことを考えている。

この町で、殺人が起きた。
そのこと自体を、信じられずにいる。

「おい!」
後ろから声がした。
振り返ると、大柄な男が立っていた。
男は死体を見るなり、顔を青ざめさせた。
「……嘘だろ」
ふらつきながら近づき、死体の肩を掴む。
「おい……起きろよ」
返事はない。
「なんでだよ……」
男はその場に膝をついた。
「なんで、あの野郎が殺されなきゃならねぇんだよ!」
私は男を見る。
「知り合いか?」
「ああ……俺様の友達だ」


男の名は、ガルドー。
私は初めて会った。
それでも、本気で悲しんでいることだけは分かった。
「犯人を探す」
ガルドーが立ち上がる。
「俺様が、あいつを殺した奴を見つける」
「帝国軍に任せるべきだ」
「待ってられるか!」
ガルドーが叫んだ。
「俺様は、あいつを殺した奴を絶対に見つける!」


この町には警備兵がいない。
帝国、法国、共和国。
三つの国の間にある中立地帯だからだ。
三国の人間が行き交い、商売をし、困ったときにはそれぞれの国を頼る。
それでも、誰もこの町を自分の国のものとは言わない。
今までは、それで何も問題がなかった。


「……私も協力する」
私は、その真っ直ぐすぎる熱量に、少しだけ動かされていた。
ガルドーが振り返る。
「お前が?」
「ああ」
「なんでだ?」
「犯人を見つける必要がある」
「俺様一人で十分だ」
「そうは思わない」
「……へっ」
ガルドーが鼻を鳴らした。
「なら、勝手についてこい」

私たちは聞き込みを始めた。
ガルドーは町中を走り回る。
「おい! 昨日の夜、こいつを見なかったか!」
「ガルドー、もう少し静かに――」
「そんなことしてられるか!」

だが、悪くない。
被害者と親しかっただけあって、ガルドーは町の人間に顔が広かった。
「昨日の夜なら、あっちの店にいたぞ」
「誰かと一緒だったか?」
「男と話してたって奴がいる」
「その男は誰だ!」
ガルドーはすぐに走り出した。


私は別の場所で、青年と出会った。
「君も事件を調べているのか?」
「ああ。僕はエミール」
彼は手帳を開いた。
「証言を集めている。被害者を見たという人間がいるけど、時間が合わないんだ」
「誰かが嘘をついている?」
「その可能性がある」
エミールは手帳を閉じた。
「犯人を見つけるよ。もう一人も殺されないように」


さらに町を歩いていると、一人の女性が声をかけてきた。
「ノアン?」
「私を知っているのか?」
「うん。ルナちゃん、町の人たちを見てたの」
ルナは周囲を見回す。
「みんな、怖がってる」
「殺人が起きたからな」
「それだけじゃないよ」
ルナは声を落とした。
「次は誰が殺されるんだろうって、考えてる」
私は黙った。
「それに、あの人」
ルナが店の男を指差す。
「昨日まで被害者と仲良く話してたのに、今日は一度も名前を呼んでない」男は私たちを見ると、すぐに目を逸らした。
「……分かった」
「ルナちゃん、こういうの得意だから」
「そうか」

ちなみに彼女は成人だ。


広場へ戻ると、ガルドーが戻ってきた。
「ノアン!」
「何か分かったか?」
「ああ。怪しい男がいる」
ガルドーは息を切らしていた。
「昨日の夜、被害者と一緒にいた男だ。そいつを探す」
「私も行く」


そのときだった。
遠くから、馬の蹄の音が聞こえた。
町の入口を見る。
鎧を身につけた兵士たちが、列を作ってこちらへ向かってくる。
帝国軍だった。
「……来やがったか」
ガルドーが呟く。

帝国軍が来た。
ならば、あとは彼らに任せればいい。
犯人さえ見つかれば、この町の日常も元に戻る。

私は、そう思っていた。
このときまでは。
帝国軍が、この町を「どう扱う」のか。
それを知るまでは。



TALESにてnoteより先に続編を公開。9/12日までに全編公開予定


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