人間の光と陰・長崎キリシタン巡礼
死ぬはずのこの身にイエスの命が現れるために。(2コリント4:11)
日本人クリスチャンの私が、この国でイエス・キリストへの信仰のため生き、また死んだ先達―キリシタンや宣教師の歩みを聖書や祈りを交えつつ辿る巡礼の旅の記録です―
大村湾の青
人は何故、死なねばならないのだろう。
死の先に、人は何を見るのだろう。
眼の前には真っ青な大村湾。
長崎空港からバスに乗り、海にかかる橋を渡る。初夏の風景が、車窓いっぱいに広がっている。

しかし、ここ大村は、かつてキリシタン大名・大村純忠が治め、多くのキリシタンが暮らした土地。多くが処刑されたことでも知られる。その足跡を訪ねて「松並公園前」というバス停で降りた。
強い日差しが眩しい。
道なりに商店や民家が並ぶ長崎街道を歩く。しばらくすると、道脇に白い聖母子像が立っていた。

両手を広げた幼子イエス。
その後ろからマリアが手をそっと添えている。
ここは「獄門所跡」。
かつて、処刑されたキリシタンの首が、見せしめのために並べられていた場所だという。1657年、この近くで「郡崩れ」と呼ばれる出来事が起きた。禁教令のもとで信仰を守り続けていたキリシタンが発覚し、400人を超える人々が処刑され、そのうち131人がこの場所で打首になったと伝えられている。
けれど今は、鳥が鳴いている。
彼らはこの穏やかな場所で、その命と引き換えに何を見たのだろうか?

「わたしはあなたがたを遣わす。それは、狼の群れに羊を送り込むようなものだ。」
キリストはこう弟子たちに語った。
さらに「最後まで耐え忍ぶ者は救われる」と続く。
ここ長崎で実際に起こったことを知ると、さらに厳しく重苦しく響く。ただ、もう一つ行かなければならないと思っていた場所がある。そのために再びバスに乗った。
麦畑の向こうの墓
「発電所前」というバス停で降りると、すぐ前にある麦畑があった。
その横の道をさらに歩いていく。人通りはない。やがて、木々の生い茂った一角が見えてきた。

かつては大日堂という建物があった場所。今は木々の中で墓と碑だけが残されている。
その寺の住職が、ここでキリシタンによって殺されたと伝えられている。禁教になる前、殿様がキリシタンになったこの地では、キリスト教が急速に広まった。その陰で、神社や寺が壊され、改宗しない人々は追われたという。
名は峯阿乗(みねあじょう)というこの寺の住職もその一人だった。逃げようとしたところを捕らえられ、殺され、遺体は便所に捨てられたのだという。


多くのキリシタンが殺されたこの地で、片やキリシタンによって殺された人がいる。長崎の歴史には、二つの死の記憶が残っている。
この地で想う。
キリストの言われた「狼の群れ」とは、何のことなのだろう。

木々の向こうの麦畑は、何も知らないように午後の日差しを受けている。
その上を風が抜けていった。
『沈黙』の海
翌日、東シナ海に面した外海へ向かった。
山と海が近い。斜面に家々があり、その間に教会が見える。ここにも、長いキリシタンの歴史がある。


禁教の時代、人々は信仰を隠しながら暮らした。やがて、長い迫害の時代を越えて、いくつもの教会が建てられた。それらの教会を訪ねながら、海の見える道を歩き、海辺へ降りた。

雲ひとつない青空。
目の前には、太陽の光を受けてきらきらと輝く青い海が広がっている。
遠藤周作の『沈黙』の舞台にもなった海。
神が沈黙する海。
祈っても答えがない。
苦しむ人がいる。
死んでいく人がいる。
それでも、海は青い。波が寄せては返している。
けれど、その海を見て、想う。
「狼の群れに羊を送り込む」と語ったキリストは続けてこう弟子に語った。「蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい」と。
そして、独り人間のために十字架へ向かわれた。
死の先に何があるかは誰も知らない。
ただ死から復活された方が、再び会いに来られる他には。

神が沈黙する海。
そこに映る人間の光と陰。
目の前には、先達がキリストと共に生きた海が広がっていた。
新約聖書・マタイによる福音書10章16〜23節
「わたしはあなたがたを遣わす。それは、狼の群れに羊を送り込むようなものだ。だから、蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい。人々を警戒しなさい。あなたがたは地方法院に引き渡され、会堂で鞭打たれるからである。また、わたしのために総督や王の前に引き出されて、彼らや異邦人に証しをすることになる。引き渡されたときは、何をどう言おうかと心配してはならない。そのときには、言うべきことは教えられる。実は、話すのはあなたがたではなく、あなたがたの中で語ってくださる、父の霊である。兄弟は兄弟を、父は子を死に追いやり、子は親に反抗して殺すだろう。また、わたしの名のために、あなたがたはすべての人に憎まれる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。一つの町で迫害されたときは、他の町へ逃げて行きなさい。はっきり言っておく。あなたがたがイスラエルの町を回り終わらないうちに、人の子は来る。


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(執筆:旅人K)
