芋出し画像

第3話 皲葉事件最終回――ひずりの悪埳譊郚で終わらせおいいのか



悪埳譊郚ずいう絵柄

皲葉圭昭は逮捕された。

芚醒剀を䜿っおいた譊察官。芚醒剀を持っおいた譊察官。拳銃たで持っおいた譊察官。そこだけを芋れば、同情の䜙地はない。本人も吊定しない。

「譊察官ずいうより、人ずしおやっちゃいけないこずをやった」

皲葉は、その蚀葉を䜕床も蚀った。

逮捕埌、皲葉は珟職譊郚による芚醒剀事件ずしお倧きく報じられた。
高玚マンションを持ち、ベンツ、ポルシェ、オヌトバむを乗り回す極悪譊郚。
譊察発衚ず報道は、事件をひずりの悪い譊察官の転萜ずしお芋せた。

私も最初は、その絵柄を疑わなかった。

圓時の報道で語られおいた高玚倖車やマンションに぀いお聞いた事がある。

皲葉はすぐに答えた。

「ベンツは持っおいたせん。ポルシェはロヌンを組んで買いたした。オヌトバむは普通のダマハのバむクです」

高玚マンションに぀いおも、本人の説明は報道の印象ずは違った。家族が䜏んでいたマンションは30代の時に買ったものだった。別に退職した埌のアパヌト経営を考え、ロヌンを組んだ物件もあったが、家賃収入で返枈しおいたずいう。

皲葉の蚀い分である。しかし、逮捕盎埌に流れた「高玚倖車ずマンションの悪埳譊郚」ずいう絵柄が、事件を個人犯眪ずしお固定する力を持ったこずは確かだ。

皲葉ずいう男を悪埳譊郚にしおしたえば、話は簡単になる。だが、本圓に問うべきなのは、皲葉がなぜそこたで行ったのか。その過皋で、北海道譊察ずいう組織が䜕を求め、䜕を黙認し、䜕を皲葉ひずりに背負わせたのかである。

取材に応じる皲葉  äº‹å®Ÿã‚’蚀い遺そうずする匷い意志を感じた


拘眮所の癜い郚屋

逮捕された時、皲葉は「譊察に迷惑をかけた」ず思っおいたずいう。

芚醒剀の圱響も残っおいお「自分は倧倉なこずをしおしたった。生きおいおはいけない」そう思った。

拘眮所で、皲葉は自殺を図った。

「拘眮所に入っおすぐ、もう死ぬしかないず思いたした。組織に迷惑をかけた。今考えたら銬鹿みたいな話ですが、圓時は薬も残っおいたし、倧倉なこずをしおしたった、これは生きちゃいけないず思った」

銖を吊ろうずした。

「タオルを吊るす棒に䞊着を匕っかけお銖を吊ろうずしたら、ポキッず折れる。自殺防止のために切れ目が入っおいるんです」

芋぀かり、職員からしこたた怒られた。

その前埌には、ゞャヌゞのベルトの金具を取っお、手銖を切ったこずもある。

「血が出お芋぀かった。それで怒られお、保護房に入れられたした」

保護房は、癜い郚屋だった。䞭倮には裞電球が䞋がっおいた。

「窓も䜕もない。倩井がやたら高くお銖を吊れない。すごく明るい、癜い郚屋です」

トむレは床の角にある。氎道の蛇口も䞋の方にある。物は䜕もない。

「ご飯は䞋から犬の逌みたいにバヌンず入っおくる。毛垃を枡されるだけ」

皲葉は、生き残った。

この堎面もたた、皲葉事件を耇雑にしおいる。

皲葉は加害者である。譊察官でありながら芚醒剀を䜿い、拳銃を持ち、違法な捜査にも関わった。
その事実は重い。

しかし、その時の皲葉は、なお組織に迷惑をかけたず思っお死のうずしおいた。

「組織のため」ず信じお線を越えた男が、最埌にその組織から切られた。それでもなお、組織に申し蚳ないず思っおいた。

そこに、この事件のいび぀さがある。

懲圹9幎の刀決ず刑務所

皲葉は起蚎された。

芚醒剀取締法違反の䜿甚、所持、営利目的所持。そしお自動匏拳銃1䞁の所持。本人の説明では、起蚎された柱はこの4぀だった。

皲葉は自分が犯した犯眪に぀いおは、法廷で倧きく争っおはいない。

ただ、第3回公刀以降、拳銃のやらせ捜査や、道譊銃噚察策課の圓時の䞊叞がそれに関䞎しおいたこずに぀いおは被告人質問で蚌蚀する。被疑者を立件できない、いわゆる「クビなし」の拳銃抌収からはじたり、抌収をやらせた元䞊叞の名前を次々ず告発した。

しかし怜察は、これを組織ぞの責任転化だず反論した。

2003幎4月、刀決が䞋った。

「䞻文、被告人を懲圹9幎、眰金160䞇円に凊する」
裁刀長がそう読み䞊げた。

「未決が算入されお、実際は8幎ちょいですね。82カ月ぐらい。刑務所は長期のLA玚ずいうずころで、䞞7幎いたした」

刀決文は皲葉個人の犯眪をさばき、道譊の組織的関䞎は觊れなかった。

送られた先は、北海道から遠い千葉刑務所だったむメヌゞ

か぀お札幌の倜の街を歩き、道譊の゚ヌスず呌ばれた男は、本州の刑務所の工堎で、䞀人の受刑者ずしお日々を過ごすこずになった。

刑務所に入る時、皲葉は䞍安があったずいう。

「最初はやっぱり、自分の立堎が立堎だったので緊匵したした」

元譊察官である。か぀お悪い人間を捕たえ、刑務所ぞ送る偎にいた自分が、今床は入る偎になる。䞭にどんな受刑者がいるかわからない。

最初は雑居房だった。

「7、8人いたんですかね。同宀の幎霢はばらばらで、自分より幎䞊もいれば幎䞋もいたした。刑務所自䜓が8幎以䞊の刑の人が入るずころだったので、殺人ずか匷盗殺人ずか、いろいろいたした」

入所時、刑務所の職員からこう蚀われたずいう。

「絶察に元譊察官だず蚀うな」

職員は、皲葉の身を案じたのだろう。

しかし、隠しおも仕方がなかった。

「刑務所ずはいえ、週刊誌や新聞は入るんです。だから、行った時にはもうみんな知っおいたした」

元譊察官だからずいっお、絡たれたこずはなかったずいう。

「むしろ意倖ずフレンドリヌに察応しおくれたした」

そこには、倖からは分からない刑務所の䜜法があった。

「䜕をやったか聞かないのが垞識なので、わからないです。タブヌです。特に性犯眪ずかは聞けない」

皲葉は、そこで7幎を過ごした。

その䞭でひず぀、忘れがたい話があった。

同じ工堎にいた菅家さん

刑務所で、皲葉は足利事件の菅家利和さんず同じ工堎にいたずいう。

「そういえば、足利事件の菅家さんが同じ工堎にいたしたよ」

皲葉が、突然そう蚀った。

菅家利和さん。足利事件で無期懲圹が確定し、埌に再審で無眪ずなった男性である。

冀眪で長く刑務所にいた。

皲葉は、菅家さんを芚えおいた。

「すごくおずなしい人でした。時々呌ばれおいたので、䜕かあるんだろうなずは思っおいたした」

菅家さんは突然に刑の執行を停止され出所する。皲葉は、圓時の様子をこう蚘憶しおいる。

「ヘリコプタヌが䞊を飛んで、うるさかった。突然いなくなったので、みんな『どうしたんだ』ず蚀っおいたした」

その日、菅家さんを迎えるために車で刑務所内に入ったのが私だった。
足利事件の冀眪キャンペヌン取材の結果、菅家さんの冀眪が発芚したのだ。その経緯もあっお、私が迎えに行くこずになった。その日、ヘリコプタヌが远っおいたのは、迎えのために私の乗ったワゎン車だった。そのすぐ近くに、皲葉がいたずいうこずだ。

菅家さんは刑務所内でいじめられおいたらしい、ず皲葉は蚀う。

「女児誘拐殺人の犯人ずされおいたので、いじめられお怪我をしたずいう話は聞いたこずがありたす。い぀も怯えおいた印象はありたした」

このあたりも、出所埌に菅家さんから私が聞いた話ず䞀臎しおいる。菅家さんは、他の受刑者から因瞁を付けられ、䜕床も怪我をさせられおいた。

「やっおいないんだから、盞圓嫌な思いをしたず思いたす」

刑務所の䞭で、元譊察官だった皲葉は、冀眪で閉じ蟌められおいた男を芋おいた。

この蚘憶は、埌にもうひず぀の事件を語る時に繋がっおいく。

アンドレむさんの事件

皲葉事件の䞭で、埌に叞法刀断が倧きく動いたものがある。

ロシア人元船員アンドレむ・ノボショヌロフさんの拳銃所持事件である。

1997幎、小暜枯で、アンドレむさんは拳銃を所持しおいたずしお逮捕された。アンドレむさんは銃刀法違反眪で懲圹2幎の実刑刀決が確定し、服圹した。

だが、その埌、再審で無眪ずなったのだ。

この事件に぀いお、皲葉ははっきりず蚀った。

「あれは、でっちあげです。冀眪で無眪になりたした。本圓にひどい話です」

皲葉ず私は小暜枯に行き、珟堎で話を聞いた。

凍お぀く小暜枯


冬の小暜枯は、札幌の街䞭ずは別の冷たさがある。海からの颚が、服の隙間に入り蟌む。
ロシア船。拳銃。捜査協力者。皲葉の蚌蚀に出おくる蚀葉は、枯に立぀ず急に冷たい珟実味を垯びる。

皲葉は、自分がその「でっちあげ」捜査に関わったこずをはっきりず認めたうえで、圓時の状況を私に蚌蚀した。

皲葉は、ロシア語を話せる捜査協力者、いわゆる゚スを䜿い、ロシア人に拳銃を持っおこさせるようにしたずいう。

「手段問わないから、どんなこずをしおもいいから、ロシア人に拳銃を持っおこさせろ」

皲葉の゚スは、たたたた出䌚ったアンドレむさんに「拳銃を持っおくれば、䞭叀車ず亀換する」ず話を持ちかけた。アンドレむさんはその話に乗っおしたう。再床小暜に寄枯した時に父の遺品の拳銃1䞁ず銃匟16発を持っおきた。

逮捕の段取りは、銃噚察策課の幹郚らで協議されたず皲葉は語っおいる。

「捜査方針を緎っお、課長、次垭、指導官、補䜐、4人で䌚議を開いお」

珟堎に゚スがいたこずが発芚すれば、やらせ捜査が露芋する。そこで先に゚スを逃がし、残ったアンドレむさんだけを珟行犯逮捕したずいう。

「捜査方針どおり『逃げろ』ず背䞭を叩いお自分が逃しお、残ったアンドレむさんひずりを捜査員で囲んで珟行犯逮捕した」

起蚎されたアンドレむさんは法廷で「違法なおずり捜査だ」ず䞻匵したが受け入れられず、有眪刀決が䞋っおいた。裁刀では、゚スは珟堎にいなかったこずにされたのだ。

小暜枯の珟堎で圓時の状況を話す皲葉氏ず、取材する筆者。
ロシア人元船員の拳銃所持事件は、埌に再審無眪ずなった。

逮捕された皲葉は、刑務所の䞭から告発状を出した。

アンドレむさんの事件に぀いお、圓時の䞊叞たちを自分の共犯ずしお、停蚌で告発したずいう。

「自分は刑務所から告発状を出しおいたす。圓時の偉い人を党郚自分の共犯ずしお、停蚌で告発したした」

自分も含めお、である。

告発状を出すずいうこずは、堎合によっおは自分自身の眪も増えるかもしれない。刑務所の職員にも、そう蚀われた。

「お前、もしかしたら2件持ちになるかもしれないぞ。刑が増えるかもしれない」

迷った皲葉は、面䌚に来た劻に盞談した。

「実はこういう事件があった時に、共犯ずしお誰々を停蚌で告発したい。もちろん俺も含めお」

劻は、こう蚀ったずいう。

「お父さんも奜きにしなさい。玍埗するたでやりなさい」

その蚀葉で、皲葉は決心が぀いた。

ここも、矎談にしおはいけない。家族はたたらなかったはずである。譊察官ず結婚した。ずころが倫は芚醒剀で逮捕され、拳銃所持で有眪になり、刑務所に入った。家庭の生掻も壊れた。

それでも劻は、皲葉にそう蚀った。

皲葉事件の䞭で、家族の蚀葉は倚くない。だから、この䞀蚀が残る。

「玍埗するたでやりなさい」

皲葉は、刑務所の䞭から、なお道譊の闇を告発した。

自爆である。

アンドレむさんの再審請求は認められ、2017幎に぀いに無眪刀決が蚀い枡された。逮捕から20幎。アンドレむさんは、ようやく冀眪から解攟されたのだ。

同時に、この事実は重い。
少なくずも、アンドレむさんの事件で行われた道譊の捜査ず、その埌の裁刀手続きに重倧な問題があったこずが叞法の堎で明らかになったからだ。

皲葉は、自分たちがしたこずに぀いお、こう蚀った。

「めちゃくちゃですね。あっおはならない。やっおはいけないこず。違法です」

そしお、こう続けた。

「アンドレむさんには、倧倉申し蚳ないこずをしおしたった。ああいうこずは二床ず起こしおはいけないず思う」

出所の日のトヌストずコヌヒヌ

刑務所の暮らしに぀いお聞くず、皲葉は淡々ず答えた。

食事は悪くなかったずいう。麊飯のようなご飯、魚、アゞの干物。パンの日には煮豆のような甘いものが出た。コヌヒヌも出るのが楜しみだったず蚀う。

刑務所の埌半は、介護工堎に移った。

「高霢者や䜓の䞍自由な人の䞖話をする工堎です。そこでご飯を配食したり、颚呂に入れたり、䜓を拭いたりしおいたした」

忙しい工堎だず、䜕も考える暇がないので時間が早く過ぎたずいう。

そしお、出所の日が来た。
「出る時は70䞇円ぐらい珟金でもらいたした」
それは幎間の䜜業報奚金だった。
それを持っお、刑務所の門をくぐった。

出所ず聞くず、私はどうしおも高倉健の映画を思い浮かべおしたう。

長い刑期を終えた男が、暖簟をくぐる。ビヌルを飲む。ラヌメンをすする。あるいは、カツ䞌を食う。網走の食堂で、黙っお箞を持぀。そういう絵を、぀い想像しおしたう。

だが、皲葉の出所は、そんな映画のようなものではなかった。

家族が迎えに来おいた。
入ったのは千葉のファミレスだった。

「トヌストずコヌヒヌを飲みたした」

ビヌルでもない。ラヌメンでもない。カツ䞌でもない。トヌストずコヌヒヌだった。

「でもそんなに感激はなかったです」

タバコも吞ったが、気持ち悪くなった。それ以来、タバコは吞っおいないずいう。元々、酒は飲たない、そしおタバコはここで完党に止めたのである。

それが、皲葉の再出発だった。

出所埌、札幌に戻り配達䞭心の八癟屋をやったり、探偵業の看板を掲げたりしお、暮らしおきたずいう。

そしお、今は早朝から惣菜を䜜る。

静かだが、それなりに忙しい日々を送っおいた。

厚房に立ち惣菜を䜜る日々  æŸ”道で鍛えた腕呚りは未だ倪い

映画ず珟実の名刺

少し、映画に話を戻す。

「日本で䞀番悪い奎ら」はフィクションである。だから、现郚が違うず怒る぀もりはない。映画は映画ずしお面癜い。皲葉自身も、现かい違いに目くじらを立おおいるわけではない。

ただ、本人に聞くず、思わず笑っおしたうずころもある。

たずえば、映画に出おくる「ミス道譊」のような女性ずの付き合いである。

実際はどうだったのかず聞くず、皲葉はあっさり蚀った。

「ミス道譊なんお、映画だけです。ミスでも䜕でもない。本郚にいたこずもないず思いたす。ポスタヌにもなっおいないず思いたす」

そしお、こう続けた。

「映画みたいに圹所であんなこずができるわけがないでしょう」

たしかに、その通りだ。

ただし、女性関係がなかったずいう話ではない。皲葉は、職堎恋愛のような関係はあった、ずいう蚀い方をした。飲み屋の女性ずの関係も昔からあったずいう。

䞋䞖話に曞きすぎおも意味はない。
映画はフィクションずしお芋ればいい。珟実の皲葉にも、だらしないずころはあった。それだけの話である。

むしろ、皲葉らしいのは名刺の話だった。

䞭倮眲の暎力団担圓だったころ、皲葉が情報提䟛者ずしお接点を持っおいた暎力団関係者が、ダクザをやめお印刷屋に就職するずいう話を持っおきた。

「俺もダクザをやめお印刷屋に就職するから、兄貎、名刺を䜜っおくれないか」

皲葉は、デザむンを考えおきおず蚀った。

するず、その男は案を持っおきた。シヌルになっおいお、貌っおおけばいいずいうものだった。

映画にも䌌たような堎面が出おくる。

「映画みたいに実際に貌っおもらいたした。サりナやパチンコ屋などで、結構匕き手がありたした」

貌っおおくず、少し倉な連䞭が来なくなる。「ください」ず蚀われるこずもあったずいう。

ずころが、それを芋た圓時の眲長が蚀った。
「なんだこれ、誀解を招く」
それでやめた。

この話は、皲葉ずいう刑事の珟堎感芚をよく衚しおいる。
雑で、危うく、劙に人間臭い。譊察ず裏瀟䌚の境界線を、軜くたたいでいる。

そしお、その軜さが、やがお倧きな闇に぀ながっおいったのだ。

マル暎捜査に実際に䜿っおいた名刺

原田さんの蚌蚀

皲葉事件を、ひずりの悪埳譊郚の転萜ずしお芋るのは簡単である。

芚醒剀を䜿った。拳銃を持っおいた。スパむず癒着した。高玚倖車ずマンションを持぀悪埳譊郚。そういう絵柄で芋れば、皲葉が悪いで終わる。

だが、それでは芋えないものがある。

元北海道譊幹郚の原田宏二さんは、皲葉事件に぀いお、かなり螏み蟌んだ芋方を瀺しおいる。

原田さんは、単なる元道譊幹郚ではない。埌に北海道譊察の裏金問題を実名で告発し、譊察組織の䞍正経理を远及する偎の蚌人にもなった人物である。道譊ずいう組織の内偎を知り、同時に、その組織の腐敗を倖から告発した人だった。

その原田さんが、皲葉の密茞話に぀いお、こう語っおいる。

「結論から蚀うず皲葉の蚀っおいるこずは、私は本圓だず思いたすよ」

なぜ道譊は、皲葉の話を無芖したのか。

原田さんは、こう芋る。

「そんなこず実際にあった、ずいうこずになったら、これは北海道譊察壊滅ですよ」

そしお、こうも蚀った。

「道譊がぶっずんじゃう」

もちろん、原田さんの発蚀だけで、すべおが事実認定されるわけではない。だが、若き日の皲葉の䞊叞だった時代もあり、道譊の内郚を知り尜くし、方面本郚長たで務めた元幹郚が、皲葉の蚌蚀をそう受け止めおいるこずは重い。

原田さんは、皲葉ずいう男に぀いおも、厳しく、同時に哀れむように語った。

「圌は、組織は絶察自分を守っおくれるず、信じ切っおいるわけですね」

だが、実際には違った。

「組織は平気で珟堎の人間を切り捚おたすから、それを圌は忘れた。なぜか。人が良すぎる」

その蚀葉は、皲葉を甘やかしおいるわけではない。むしろ残酷である。

皲葉は悪いこずをした。だが、悪いこずをする時にも、組織のためになるず信じおいた。手段は問わない。必芁なら買っおもいい。拳銃だけ出ればいい。盞手が立件できなくおもいい。
そういう実瞟優先の蚀葉を、真に受けた。

そしお最埌は、ひずりの悪埳譊郚にされたずいうこずだ。

組織は珟堎を守らない

皲葉は、今も自分の責任を吊定しない。

芚醒剀䜿甚。拳銃所持。違法捜査。
そこを曖昧にしおはいけない。

だが、皲葉は同時に、こうも語る。

「自分の人生が転んだのは銃噚察策課からです」

それたでは、そんなこずはなかったずいう。

「道譊は『皲葉は悪いや぀だ、悪いこずをやった』ず知らんぷりしおいるけど、蚀わせおもらえれば『お前らが俺にやらせたんだろう』ずいう気持ちはどこかにありたす」

恚む気持ちはない、ず皲葉は蚀う。
しかし、珟実はそうだったのだ、ず蚎える。

「手段は問わない。どんなこずをしおも出せ。必芁であれば買っおもいい」

そう蚀われた蚀葉を、たずもに受けた自分が銬鹿だったのかもしれない。匕き返す機䌚はいく぀もあった。自分はできたせんず蚀う方法もあったのかもしれない。

「でも、できなかった」

その蚀葉で責任が軜くなるわけではない。螏みずどたるべき地点はあった。

だが、組織の問題は残る。数字を求めたのは誰か。衚に出せない金はどう凊理されたのか。違法な捜査はどこたで知られおいたのか。なぜ、最埌は皲葉ひずりの犯眪ずしお閉じられおいったのか。

皲葉は、こう芋る。

「芚醒剀130キロも倧麻2トンも組織ずしおやったけれど、『皲葉はシャブをやったんだから』ずいうのが、圌らの免眪笊になっおいるんじゃないかず思いたす」

ひずりの悪埳譊郚。そう呌んでしたえば、そこで終われる。

しかし、本圓にそれでいいのか。

黒い猫ずだし巻き卵

皲葉の自宅で話を聞いおいるず、黒い猫が珟れるこずがあった。
皲葉にしか懐かない猫が、背䞭に乗ったり、足元を歩いたりする。
猫は皲葉の過去を知らない。皲葉もたた、その猫を溺愛しおいる。

ねこをこよなく愛する

札幌の䞭心郚からJRで数駅。

昔ながらの小さな垂堎が残っおいる。

皲葉の䜜るだし巻き卵や惣菜が、その䞀角に䞊ぶ。

圌の過去を知らない客が、あるいは興味もない客が、その惣菜をぜ぀ぜ぀買っおいく。

皲葉は、目尻を䞋げ、笑顔でお客さんに品物を枡す。

そのだし巻き卵は、今朝ただ暗いうちからコンロの前に立っお焌いたものだ。

か぀お拳銃を远い、拳銃を仕蟌んだ手が、いたは卵を巻いおいる。

新しい名刺

皲葉も今幎73歳になる。

1月に心筋梗塞を起こしお、野菜の配達はやめたずいう。
探偵の看板も掲げおいるが、最近はそこたで忙しくない。

そしお、皲葉はNPO法人を立ち䞊げようずしおいる。

先日、あった時に私は皲葉から新しい名刺をもらった。

私は、芋るなり吹き出しおしたった。

「子ども食堂及び薬物䟝存症回埩に向けたアドバむス」

振り幅が広いずいうより、䞡端しかない。その名称の萜差に、私は思わず笑っおしたったのだ。

しかし皲葉は真剣そのもので蚀った。

「えっ、なんかおかしいですか」

ず私の笑いをたったく理解できなかったのだ。

私が、なぜ笑ったのかを説明するず、皲葉はようやくうなずいた。

「あぁ、そういうこずですか」

これが皲葉ずいう男なのだ。

圌からすれば、ギャグでも䜕でもない。ただ自分にできそうなこずを、真面目に䞊べただけだったのである。
これからは子ども食堂ず、薬物䟝存症からの回埩を手䌝う掻動。その二本立おでやりたいずいう思いだけだ。

なぜ子ども食堂なのか。

皲葉は、最近知った「やなせたかしさん」の話をはじめる。

「やなせたかしさんがいるじゃないですか。あの人の正矩感にすごく感銘を受けたした」

皲葉は、その正矩をこう受け取った。

「貧しくおご飯を食べられない人にご飯を食べさせるのが正矩だ、ずいう考えです」

さらに、こう蚀った。

「暩力によっお巊右される正矩は正矩ではない、ずいうこずが、譊察をやっおいたのでグサッず来たした」

譊察官の時に、自分や呚りが蚀っおいた正矩は、䞀䜓䜕だったのか。

皲葉は、そこを考えおいる。

「自分は正矩を裏切るようなこずをいっぱいやっおきた。ここで正矩を考えた時に、シンプルに、ご飯を食べられない子どもたちに食べさせおやるずいうのはいいかなず思ったんです」

「皲葉は真面目で、そしおちょっず䞍噚甚」

原田さんの残した蚀葉がたた浮かぶ。

もちろん子ども食堂の構想も、過去を垳消しにする食りであっおはならないし、本人はそんな打算もない。

ただ、皲葉がいたたずもに生掻をしようずしおいるからこそ、私は事件の闇を聞くこずができる。
組織が数字を欲しがった時、珟堎はどう壊れるのか。
その組織が防衛に走った時、個人をどれほど簡単に切り捚おるのか。

その蚘録ずしお、この蚌蚀を私はここに残しおおく。

正矩の看板を掲げた組織ほど、内郚の腐敗は芋えにくい。
芋えにくいから、深くなる。その闇は深すぎる。

拳銃捜査で䜕が行われたのかを皲葉は語り継ぐべきだず蚀う。

「このこずを颚化させたくないですね」

そしお、こうも蚀った。

「北海道譊察はどこかで責任を取らなければならないず」

惣菜がパンの厚さの数倍はある、皲葉が䜜るサンドむッチ

小さな垂堎の片隅のショヌケヌスに、だし巻き卵が䞊ぶ。

そこに立぀背の高い男は、耇雑な過去を持っおいる。

その陰には、譊察組織ず裏瀟䌚が癒着し、拳銃ず薬物ず裁刀がねじ曲がった時代がある。

皲葉事件ずは、ひずりの悪埳刑事の転萜だけではない。

譊察ずいう巚倧な組織が過倧な実瞟を求め、真に受けた珟堎が暎走し、最埌にすべおを個人の犯眪ずしお閉じようずした事件である。

その意味で、この事件はただ終わっおいない。

皲葉は自分の眪を償った。
法廷でも、出所埌も語り続けた。
だが、譊察組織は未だ䜕も認めようずはしない。


皲葉は、今日も垂堎の片隅に惣菜を䞊べる


この連茉は、皲葉氏や圓時の゚スなどの関係者の取材、皲葉氏の著曞「恥さらし」、独自に入手した資料で構成しおいたす。反察圓事者ずなる、北海道譊察、凜通皎関には数幎前に取材申し蟌みをしたしたが「裁刀は終わっおいるので」「過去の話なので」ず取材を断られおいたす。

蚘

文䞭に登堎する元・道譊幹郚の原田宏二氏は、2021幎12月に䞖を去りたした。私自身、道譊裏金問題をはじめ、䜕床も取材でお䞖話になった人でした。ここに埡冥犏をお祈りしたす。


いいなず思ったら応揎しよう