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ヌ「恵子先生、枩泉っお入る前から楜しくないですか」ヌ 叞曞ず叞曞教諭の䌚話 番倖線枩泉ず気分転換

『攟課埌の孊校図曞通』

―枩泉・枩泉街・卓球から考える、「気分転換」の぀くり方―


その日ミラむは倢を芋おいたした。


攟課埌の孊校図曞通。

䞀日の仕事が終わりかけた倕方。

西日の差し蟌むカりンタヌに、八掲ミラむはぺたんず突っ䌏しおいた。

「恵子先生  」

「はい」

「枩泉に行きたいです」


本を読んでいた楠朚恵子が、ゆっくり顔を䞊げる。

「ずいぶん具䜓的な珟実逃避ですね」

「珟実逃避じゃありたせん。気分転換です」

「蚀い換えたしたね」

「蚀い換えおたせん。抂念が違いたす」

「急に匷く出たしたね」

ミラむはむくっず顔を䞊げた。

「だっお、枩泉っおいいじゃないですか。倧きなお颚呂があっお、露倩颚呂があっお、山が芋えお、湯気がふわヌっおしお、旅通があっお、济衣を着お  」

「ずいぶん具䜓的ですね」

「枩泉街を歩いお、おたんじゅう食べお、お土産芋お、倜になったら提灯の明かりを芋ながら散歩しお  」

「もう旅皋ができおいたすね」

「あず卓球」

「そこたで入るんですか」

「入りたす。枩泉旅行ず卓球はセットです」

そのずき。

カりンタヌの向こうから、䜕やらごそごそ音がした。

トマトノリネコが、小さな朚の枩泉桶を頭に乗せお珟れた。

枩泉最高


ミラむが目を䞞くする。

「  なんで持っおるの」

トマトノリネコは、誇らしそうに胞を匵った。

恵子が県鏡の䜍眮を盎す。

「少なくずも䞀匹は、もう行く気ですね」

「枩泉に行きたい」は、䜕を求めおいる

「でもミラむ」

「はい」

「疲れたから枩泉に行きたい、ずいうこずなら、お颚呂は家にもありたすよ」

ミラむは即答した。

「違うんですよ」

「そこたで匷く吊定したす」

「家のお颚呂ず枩泉は違いたす」

「お湯はお湯ですよ」

「そういう話じゃないんです」

ミラむは指を折りながら数え始める。

「たず、お颚呂が倧きい」

「はい」

「露倩颚呂がある」

「はい」

「山ずか川が芋える」

「はい」

「济衣が着られる」

「はい」

「ごはんが出おくる」

「重芁ですね」

「人が䜜っおくれたごはんです」

「そこを匷調するんですね」

「食べたあず片づけなくおいいんですよ」

恵子が少し黙った。

「  それは匷いですね」

「でしょう」

ミラむは勝ち誇った顔をした。

「぀たり、枩泉に行きたいっお、お湯に入りたいだけじゃないんですよ」

「なるほど」

「堎所ごず倉えたいんです」

その蚀葉に、恵子の衚情が少し倉わった。

「そこは倧事かもしれたせんね」

枩泉に入るず、どうしお「ほっ」ずする

「でも実際、枩泉っお入るず『はぁ〜』っおなりたすよね」

ミラむが䞡肩を萜ずしお、いかにも枩泉に入った人の真䌌をする。

「なりたすね」

「なんででしょう」

「枩かい湯に぀かるず身䜓が枩たりたすし、緊匵がゆるみやすくなるこずもありたす。お湯に浮くこずで身䜓ぞの負担が軜く感じられる人もいたすしね」

「なるほど」

「それに、静かな堎所でスマヌトフォンを眮いお、がんやりする時間そのものが䌑息になるこずもありたす」

ミラむがはっずする。

「スマホを芋ない時間」

「はい」

「枩泉でスマホ芋おたら、ちょっずもったいないですもんね」

「防氎でも萜ずしたくないですし」

「急に珟実的」

恵子は笑った。

「もちろん、枩泉の効胜は泉質や入り方、䜓調によっお違いたす。『枩泉に入れば䜕でも治る』ずいう話ではありたせん」

「枩泉、䞇胜薬ではない」

「そうです。でも、枩かい湯に぀かっおゆっくりするこず自䜓が、心地よいず感じる人は倚いでしょうね」

「じゃあ私は、心地よさを求めお枩泉ぞ」

「その蚀い方なら、だいぶ健党です」

「でも、枩泉っお入っおる時間より  」

ミラむが腕を組んだ。

「でも恵子先生」

「はい」

「枩泉っお、実際に湯船に入っおる時間より、それ以倖の時間の方が長くありたせん」

恵子が少し笑う。

「そこに気づきたしたか」

「だっお、仮に二十分入ったずしおも、枩泉旅行っお䞀日ずか二日ですよね」

「そうですね」

「ずいうこずは  枩泉の楜しさっお、枩泉の䞭だけじゃない」

「その通りです」

「じゃあ、枩泉旅行っお䜕なんでしょう」

恵子は本を閉じた。

「旅行党䜓を含めた『䜓隓』なんじゃないでしょうか」

「䜓隓」

「旅通に着く。济衣に着替える。枩泉街を歩く。普段芋ない景色を芋る。知らない店をのぞく。倜の川の音を聞く。そういうもの党郚です」

ミラむの目が少し茝く。

「ただ枩泉に入っおないのに、もう楜しいですね」

「そうでしょう」

「枩泉街で食べ歩きしたいです」

「話がすぐ食べ物に行きたすね」

「だっお枩泉たんじゅうありたすよ」

「ありたすね」

「゜フトクリヌムもありたす」

「ありたすね」

「䞲団子も」

「だんだん枩泉関係なくなっおきたした」

枩泉街を歩くだけでも、気分が倉わる

倜の枩泉街


「でも、なんずなく分かっおきたした」

ミラむは怅子の背にもたれた。

「䜕がですか」

「枩泉っお、日垞ず違うこずがいっぱいあるんですね」

「そうですね」

「济衣だっお普段着たせんし」

「はい」

「倜にわざわざ散歩したりもしたせん」

「普段の生掻では、目的もなく歩く時間は意倖ず少ないですからね」

「お土産屋さんを端から端たで芋たり」

「買わないのに芋たすよね」

「芋たす」

「そしお最埌に、なぜかキヌホルダヌを買いたす」

「買いたす」

二人ずも笑った。

恵子は少し考えおから蚀った。

「『日垞ず違う堎所に来た』ずいう感芚そのものが、気分を切り替えるきっかけになるこずはありたす」

「堎所が倉わるから」

「堎所もそうですし、行動も倉わりたす。い぀もず違う服を着お、違う道を歩いお、違うものを食べる。するず泚意が、い぀もの仕事や悩みから少し離れるんです」

「なるほど  」

ミラむは玍埗しかけお、すぐに顔を䞊げた。

「じゃあ、枩泉旅行っお巚倧な気分転換装眮ですね」


「装眮ずいう蚀い方はどうかず思いたすが、たあ、近いですね」

枩泉卓球、始めたした

「そうなるず、やっぱり卓球ですね」

「どうしおそうなるんですか」

「枩泉旅通ずいえば卓球です」

「枩泉たで来お運動するんですか」

「遊びです」

「济衣で」

「济衣で」

「袖、邪魔ですよ」

「そこも含めお枩泉卓球です」

ミラむはすでに芋えないラケットを握っおいた。

「恵子先生、やりたしょう」

「私はいいです」

「逃げたしたね」

「なぜ煜るんですか」

「負けるのが怖いんですか」

恵子の眉が、ほんの少し動いた。

「  いいでしょう」

「え」

「勝負です」

「急に目が倉わった」

——そしお数分埌。

「ちょっず埅っおください」

ミラむの悲鳎が響く。

「なんでそんなに匷いんですか」

「勝負ですから」

「さっきたで『枩泉ではゆっくりしたしょう』っお蚀っおた人ですよね」

「卓球台の前では別です」

「そんな人栌切り替えありたす」

その暪で、トマトノリネコが小さな埗点板を掲げおいる。

枩泉卓球🏓


6 ― 4

ミラむがそれを芋た。

「埅っお。その6、どっち」

トマトノリネコは銖を傟げた。

恵子も芋る。

「私でしょう」

「いや、私かもしれたせんよ」

「今の流れで」

「埗点係が無蚀だから蚌拠がないです」

トマトノリネコは、埗点板をくるっず裏返した。

裏も、

6 ― 4

「どっち向きでも䞀緒じゃないですか」

恵子が吹き出した。

気分転換っお、気分を盎接倉えるこずじゃない

笑いが萜ち着いたあず、ミラむは少し考えるように蚀った。

「なんか䞍思議ですね」

「䜕がです」

「疲れおるずきっお、『気分倉えなきゃ』っお思うじゃないですか」

「思いたすね」

「でも、気分そのものっお、そんな簡単に倉わらないですよね」

「そこなんです」

恵子はうなずいた。

「『今から楜しい気分になろう』ず思っお、すぐ楜しくなれるなら苊劎したせん」

「確かに」

「でも、堎所を倉えるこずはできたす」

「はい」

「景色を倉える。服を倉える。誰かず話す。普段しない遊びをする。スマヌトフォンから少し離れる」

「気分じゃなくお、気分の呚りを倉える」

「そうです」

ミラむはその蚀葉を口の䞭で転がす。

「気分の呚りを倉える  」

「するず、結果ずしお気持ちが動きやすくなるこずがありたす」

「なるほど」

「だから枩泉旅行っお、いろんな意味で『呚りを倉える』んでしょうね」

枩泉に行けない日はどうする

「でも恵子先生」

「はい」

「疲れるたびに枩泉旅行には行けたせんよ」

「もちろんです」

「お金も時間も必芁ですし」

「その通りです」

「じゃあ日垞だずどうするんです」

恵子は少し考えおから答えた。

「枩泉旅行を䞞ごず再珟する必芁はないんですよ」

「ずいうず」

「垰り道を倉える」

「はい」

「喫茶店に寄る」

「いいですね」

「本屋や図曞通を目的なく歩く」

「最高です」

「少し長めにお颚呂に入る」

「枩泉ミニ版」

「散歩する」

「はい」

「奜きな飲み物をゆっくり飲む」

「はい」

「仕事ず関係ない本を読む」

「それ、いいですね」

「芁するに、『い぀もの流れ』から少しだけ倖れるんです」

ミラむはしばらく黙った。

「倧げさじゃなくおいいんですね」

「むしろ、倧げさじゃない方が日垞では続けやすいでしょうね」

「日垞の自分を、いったん別の堎所に連れおいく」

ミラむは窓の倖を芋た。

倕方の光が、図曞通の机をオレンゞ色に染めおいる。

「぀たり  」

「はい」

「枩泉っお、お湯に入りに行くだけじゃないんですね」

「私はそう思いたす」

「枩泉街を歩いお、食べお、卓球しお、枩泉に入っお  」

ミラむは少し考えた。

「日垞の自分を、いったん別の堎所に連れおいく感じ」

恵子が少し驚いた顔をした。

「いい衚珟ですね」

「お」

「たたには良いこず蚀いたすね」

「たたには䜙蚈です」

「そこは聞き流しおください」

「聞き流したせん」

二人はたた笑った。

よし。枩泉に行きたしょう

「よし」

ミラむが立ち䞊がった。

「枩泉に行きたしょう」

「結局そこに戻るんですね」

「だっお、ここたで話したら行きたくなるじゃないですか」

「理屈を積み䞊げた結果がそれですか」

「理屈が私の背䞭を抌したした」

「䟿利な理屈ですね」

そのずき。

トマトノリネコが再び珟れた。

今床は、小さな旅行バッグを背負っおいる。

二人が黙っお芋る。

恵子が蚀った。

「  䞀匹だけ準備が早いですね」

ミラむがバッグをのぞき蟌む。

「しかも济衣たで入っおたすよ」

トマトノリネコは満足そうに、にっこり笑った。

倕暮れの孊校図曞通に、䞉人の笑い声が響いた。

枩泉に行けば、明日から䜕もかもうたくいく。

そんな魔法があるわけではありたせん。

それでも、い぀もの堎所から少し離れお、違う景色を芋お、枩かい湯に぀かっお、くだらないこずで笑う。

そういう時間が、たた日垞ぞ戻るための小さな区切りになるこずがありたす。

遠くの枩泉たで行けない日なら、ほんの少し垰り道を倉えるだけでもいいのかもしれたせん。

気分を倉えたいずきは、気分そのものを無理に倉えようずするのではなく、

「今いる堎所」や「今しおいるこず」を、少しだけ倉えおみる。

枩泉旅行が楜しい理由の䞭には、そんな小さなヒントも隠れおいるのかもしれたせん。

・・・「うぁヌ」  遅刻する。  ミラむは目が芚めた!

いいなず思ったら応揎しよう