長男を読書沼へ沈めた話。
長男を、読書沼に沈めた。犯行に使ったのは、『十角館の殺人』と『葉桜の季節に君を想うということ』。我ながら、なかなか容赦のない二冊を選んだと思う。
もっとも、長男がそれまで本をまったく読まなかったわけではない。小さいころには『怪人二十面相』なんかを渡したし、『レイトン』の娘を主人公にした小説も読んでいた。だから、本を読むこと自体に抵抗はなかった。
漫画もよく一緒に読んだ。『ブラック・ジャック』、『ダイの大冒険』、『幽遊白書』。私が子どものころから好きだった漫画を、家に置いておく。長男が読む。面白かったところを話す。
そんなことを繰り返していた。
別に「読書は大切だから本を読みなさい」なんて言った記憶はない。私自身、そんなことを言われたら読みたくなくなるから。ただ、「これ、面白いよ」と、自分が面白かったものを渡していただけだ。
そんな長男が中学生になったころ。そろそろ、いけるんじゃないかな。
そう思って渡したのが、綾辻行人『十角館の殺人』だった。ミステリなので、詳しくは書かない。
とにかく、読んどけ。
そして長男は、きれいに食らった。
そりゃ、そうでしょう。
父ちゃんも中二のときに『十角館の殺人』で読書の楽しさを知りました。これを初見で食らえるのは、一生に一回。ちょっと羨ましいくらいだった。
これで終わってもよかった。でも、長男がミステリを面白がっている。
こいつは、もう一発いける。父ちゃんには、もう一つ、とっておきがある。
長男からおすすめを聞かれたので、必殺の
歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』。
これも私が大好きな小説だ。社会人になり、読書から遠ざかっていた私に、再び読書の面白さを教えてくれた。
こちらも、何がすごいのかは書かない。書いた瞬間に台無しになる。なので何も言わずに渡した。
そして、また食らった。
やったね、計画通り。
沼に沈めた。
ズブズブズブ……。
そこから長男は、自分でも本を選んで読むようになった。面白いものはオススメしてくれるし、オススメを聞いてくるようになった。
考えてみれば、私が長男を読書好きにした、というのは少し違うのかもしれない。もともと本は読んでいた。ミステリも好きだったし、漫画もたくさん読んでいた。
沼の水際までは、自分で来ていたのだ。
私はそこに、『十角館の殺人』と『葉桜の季節に君を想うということ』を置いただけ。そして、「これ面白いぞ」と背中を押した。
あとは勝手に沈んでいった。
子どもに本を読んでほしいなら、読書の大切さを説明するより、自分が本当に面白かった一冊を渡すほうがいいのかもしれない。
その後、長男は友達にも『十角館の殺人』と『葉桜の季節に君を想うということ』をオススメし、友達も沼にハマったそうです。
二次感染。親父、してやったり。
長男も高校生になった。残念ながら、だらしのない父親と思われている。それでも、本と漫画の選球眼だけはリスペクトされている。
……と思う。
