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SBTiの新基準は、GHGプロトコルの改訂が終わる前に必須になる

排出量の目標を審査する組織と、その排出量の数え方を決める組織は、別々です。ふだんは意識しなくていい分業ですが、この夏、二つの作業の日程が噛み合っていないことがはっきりしました。

目標の側が先に固まり、算定の側はその一年近くあとに確定します。考え方が割れたわけではありません。ただ、この時間差は企業の手元で、目標のための数字と開示のための数字が並んで走る、という形になって出てきます。

役割は分かれている。噛み合っていないのは日程

まず、両者は競合していません。GHGプロトコルが7月29日に公表した統合版の標準開発計画は、目標設定のルールづくりと、どの行動や市場性商品を目標に算入してよいかの判断を、自分たちの対象外だと明記しています。それは各プログラムの仕事だ、という整理です。SBTiは同プロトコルの独立標準理事会にオブザーバーとして参加し、草案と自分たちの基準のずれについて意見を出す立場にあります。

噛み合っていないのは日程のほうです。SBTiは6月11日にCorporate Net-Zero Standard(企業向けネットゼロ基準)のV2.0を公表しました。主要変更点の文書によれば、発効は2027年1月31日、検証の受付は2027年第1四半期から。2028年1月31日までは旧版のV1.3.1でも提出できますが、それ以降の新規提出はV2.0のみです。節の単位で42%が完全な新規で、小さな手直しではありません。

一方のGHGプロトコルは、同じ7月29日にISOと企業向け算定基準を統合すると発表しました。統合版の公開協議は2027年第2四半期、発行予定は2028年第4四半期です。つまりSBTiが完全に新基準へ切り替わってから、足元の算定基準の新版が出るまでに、まだ一年近くあります。あわせて公表されたスコープ2の意見募集の結果は56カ国から約1,100件で、再生可能エネルギーの購入をどう扱うかで意見が割れ、複数の報告方式を並行して検討する状態です。カーボンクレジットや証書の扱いを検討している作業部会では、物理的な排出、契約や証書にひもづく排出、自社の行動がもたらした影響、の三つを別々の計算書に分けて報告する案に支持が集まったと8月12日のニュースレターで報告されています。

スコープ2は、削減目標の物差しだけが動いた

V2.0のスコープ2には、二つの目標の型があります。排出削減目標と、低炭素電力の割合を上げていくアライメント目標です。ここを分けて読む必要があります。

変わったのは前者です。V1では、市場基準(契約や証書を反映させる方法)と所在地基準(使った系統の平均的な排出係数で計算する方法)のどちらを土台にしても目標を立てられました。V2.0の排出削減目標は、物理インベントリ、つまり所在地基準を土台に軌道が決まります。契約や証書は、目標の水準を決める側ではなく、それを達成するための行動の側に整理されました。一方の後者では、使った・契約した・紐づけた低炭素電力の割合そのものが目標の指標です。こちらでは契約が引き続き目標そのものになります。

行動として認めてもらう条件も増えました。実際に使う場所へ届きうる電気であること、原則として運転開始から15年以内の設備であること(例外の扱いは2026年第4四半期のガイダンスで示される予定)、そして年単位での紐づけです。電力消費が一定量を超えるCategory A企業(売上高や排出量などで区分される、大企業側の分類)には、時間単位で紐づけられている割合を公表する義務が加わりました。ただし時間単位で紐づけること自体は目標達成の条件ではありません。要件はあくまで年単位の紐づけで、時間単位は公表と、水準に応じた任意の表彰の対象です。

GHGプロトコル側のスコープ2改訂は、まだ結論が出ていません。SBTiは、GHGプロトコルの進む方向に沿わせる意図であり、その結論を先取りするつもりはない、と書いています。それでも、目標の水準をどの数字で決めるかは、もう決まりました。

スコープ3では、同じ5%が別の役割を負っている

V2.0は、目標の対象範囲の決め方を変えました。旧版の固定割合(近接年の目標で67%)をやめ、カテゴリー1〜14の合計に対して5%以上を占めるカテゴリーを対象にする、という方式です。境界の中でも限定的な除外が認められますが、条件は一様ではありません。中古品の調達段階(カテゴリー1と2)、スコープ1・2の目標ですでに手当てされている分(カテゴリー3)、従業員の通勤(カテゴリー7の全体)、影響が及ばないリース資産や輸送、独立系のフランチャイジーなど、条件が個別に書かれています。除外するときは、どの条件に拠ったか、それで外れる排出量は絶対量と割合でどれだけか、今後どう対処するかを報告します。

GHGプロトコルの側にも5%が出てきます。スコープ3基準改訂のフェーズ1中間報告では、必須のスコープ3排出量の95%以上を計上し、除外は合計5%までに抑える案が示されています。しかも、除外が5%に収まっていることを示すために、必須分は毎年すべて概算する必要があります。概算の方法は自由です。まだ草案で、公開協議も経ていません。

中間報告は、この5%の閾値がSBTiの要求する範囲やCDPの実務と揃うと説明しています。ただ、同じ5%でも、基準の中で果たしている役割は同じではありません。SBTiの5%は、目標に入れなければならないカテゴリーを選ぶための下限です。GHGプロトコルの5%は、インベントリから落としてよい量の上限です。

もう一つ、制度の建て付けそのものが違う場所があります。カテゴリー15、つまり投融資にともなう排出です。SBTiでは、金融活動からの収入が5%以上ある企業は、貸出・投資・保険引受・資本市場業務を金融機関向けの別基準(FINZ)で扱い、本体の企業向け基準はカテゴリー1〜14を受け持ちます。対してGHGプロトコル案は、カテゴリー15も95%のルールの対象に含め、投資先のスコープ3まで必須の範囲に入れる方向で、保険引受などは新設のカテゴリー16へ移す案が出ています。同じ活動が、どの基準のどの箱に入るかが違う。カテゴリーの並びが動けば、SBTi側の「1〜14の5%」という定義の足元も動きます。

企業の手元では、数字が二系統では済まない

両者のCEOは連名の文章で、V2.0が改訂途中のGHGプロトコルの要素、具体的にはスコープ2の更新と複数計算書の構造を取り込んでいると認めています。そのうえでSBTiは暫定的なガイダンスを出す予定で、企業は基準年と目標年のインベントリを揃えるため、目標サイクル全体を通じてそれを使ってよい、としています。

ここが実務にいちばん効きます。目標のための計算ルールは一つのサイクルのあいだ据え置ける一方、その間に算定側の新版が出ます。しかも開示制度が一斉に切り替わるわけでもありません。ISSBの気候関連開示基準であるIFRS S2は、現行のGHGプロトコル企業基準に従った開示を求めています。標準開発計画によれば、40を超える法域がこのIFRS S2を自国の制度に取り込むか、その方針を示しており、日本もそこに含まれます。EUの気候開示基準であるESRS E1も、現行の基準群を参照しています。新版が2028年に出ても、各制度が参照先を差し替える時期はそれぞれです。

結果として、企業の手元には二つでは済まない数字が並びます。目標管理のための数字、その時点の算定基準に沿ったインベントリ、法定・任意の開示に載せる数字、そして市場性商品や行動を別建てで報告する数字。どれも間違いではなく、拠って立つ版とルールが違うだけです。

だとすると、実務でやるべきことは一つに統一しようとすることではなく、突き合わせの表を先に作っておくことだと思います。列は、算定に使った基準とその版、目標側でどのルールを適用したか、どの開示先に出した数字か。数字が食い違ったときに、どの規則で出したものかをその場で示せるかどうか。当面はそこが分かれ目になりそうです。

■ 参照記事

【一次情報】
・SBTi「The new Corporate Net-Zero Standard Version 2.0」(両組織CEOの連名文を含む)
https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2
・SBTi「Corporate Net-Zero Standard V2.0 Main Changes Document」2026年6月
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Main-Changes-Document.pdf
・SBTi「Understanding Scope 2 in the Updated Corporate Net-Zero Standard V2.0」2026年6月
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Understanding-Scope-2-in-the-Updated-Corporate-Net-Zero-Standard-V2.0.pdf
・SBTi「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Criteria」2026年6月
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Criteria.pdf
・SBTi「Financial Institutions」(FINZ基準と適用対象)
https://sciencebasedtargets.org/financial-institutions
・GHG Protocol「GHG Protocol Announces Key Standard Development Updates」2026年7月29日
https://ghgprotocol.org/blog/ghg-protocol-announces-key-standard-development-updates
・GHG Protocol「Corporate Standard Version 3.0 Standard Development Plan」2026年7月29日
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-07/Consolidated-StandardDevelopmentPlan(SDP)-2026.07.29.pdf
・GHG Protocol「GHG Protocol Pulse: August Update」2026年8月12日
https://ghgprotocol.org/blog/ghg-protocol-pulse-august-update
・GHG Protocol「Scope 3 Standard Revisions: Phase 1 Progress Update」2026年3月(草案)
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-03/S3-Phase1ProgressUpdate-20260331.pdf

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