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マイクロソフトの排出増は、AIデータセンター建設と会計の見直しが押し上げた

マイクロソフトの温室効果ガス排出量が、2025会計年度に約25%増えました。「AIでデータセンターが増えれば排出も増える」という話として片づけてしまいそうですが、内訳を開けてみると、もう少し込み入った事情が見えてきます。増えた理由の一部は、物理的な排出増ではなく、会計のやり方を変えたことにあるからです。

▍まず、数字の大きさを確認する

木曜に公表された最新のサステナビリティ報告書によれば、同社の純排出量――大気から除去した分を差し引いた後の数字――は前年の約1,600万トンから約2,000万トンへと増え、増加率はおよそ25%でした。除去前のグロスで見ると約3,400万トンに達します。増加幅としては、同時期に報告されたAmazon(約16%増)やGoogle(約18%増)を上回ります。それでも同社は、2030年カーボンネガティブ(排出より多くを除去する)目標を取り下げず、削減・除去・効率化の三本立てで達成を目指すと繰り返しました。

▍増加の主役は、AIの「建設」だった

増加の最大の寄与はScope 3、つまり自社の直接排出でも購入電力でもなく、バリューチェーン全体の排出です。中身はAI向けデータセンターの建設と運用、そしてそれに連なるサプライチェーン。鉄やコンクリート、サーバーの製造に伴う排出が、拡張のスピードに合わせて積み上がっています。象徴的なのは、同社がテキサス州西部に新設される大規模な天然ガス火力から電力を調達し、データセンターに充てる契約を結んだことです。再エネの調達を進める一方で、需要の伸びに供給が追いつかず、化石燃料由来の電力に頼る場面が出てきている。ここは、紛れもない物理的な排出増です。

▍もう一つの増加は、「やめた近道」から来ている

見落とされがちなのが、電力に由来する排出(Scope 2の領域)の扱いです。報道によれば、電力関連の排出は2024年に総排出の約2%だったものが、2025年には約13%へと跳ね上がりました。理由は、マイクロソフトがアンバンドルな再エネ証書(発電の実態と切り離して調達できる短期のRECs)の購入をやめたことにあります。この種の証書は、報告上の排出量を手早く下げる手段として使えますが、新しい無炭素電源を生む効果は乏しいと批判されてきました。つまりこの分の「増加」は、新たに煙突が増えたからではなく、これまで数字を軽くしていた近道を手放し、実態に近い計上へ切り替えた結果という側面があります。物理的に増えた分と、正直に計上し直した分――ここを切り分けて読むかどうかで、この25%の意味はかなり変わってきます。

▍除去の最大の買い手は、歩みを緩めつつある

一方の除去(CDR)側では、マイクロソフトは相変わらず突出した存在です。FY2025だけで過去最大の約4,500万トンの除去契約を結び、これは前年の約2倍にあたります。29件の長期事業にまたがり、累計の契約量は7,000万トンを超えるとされます。恒久的な除去(durable CDR)市場では、同社一社で約9割を占めるという推計もあります。経路も幅広く、BECCS(バイオマス発電+回収貯留)が大半を占め、biochar(バイオ炭)や鉱物化、DAC(直接空気回収)や海洋アルカリ度強化などの試験購入まで含まれます。ただ、2026年に入ってからは、同社が新規購入を一時停止するとサプライヤーに伝えたとの報道が相次ぎました。同社は「プログラムは終わっていない」「ペースや量は調整しうる」と説明していますが、市場最大の買い手が足を緩める兆しは、供給側にとって小さくない話です。

▍盟主が緩めても、買い手はむしろ増えていた

ここで注目したいのが、マイクロソフト以外の動きです。CDRポートフォリオ運用会社ClimeFiの第2四半期(4〜6月)レビューによれば、四半期の契約量は前四半期比で83%増え、マイクロソフトを除く買い手の確約量は過去最高を記録しました。象徴的なのはストックホルム市の参入です。市はStockholm ExergiのBECCSプラント(ヴァルタン地区、年間約80万トンの回収能力を持つ世界最大級の除去事業)から、15年間で計75万トン(年5万トン)を購入する契約を結び、この規模で除去を買う初の自治体となりました。さらに、銀行や日本の機関投資家が初めて動き出した四半期でもあったとされます。もう一つの変化として、1年以上にわたって購入量の最大シェアを占めてきたbiocharが、この四半期には首位を別の経路に譲ったとClimeFiは指摘しています。市場の中身が、少しずつ入れ替わりはじめているということです。

▍「買い手が広がった」をどう読むか

買い手の裾野が広がったことは、二通りに読めます。前向きに見れば、一社依存からの脱却であり、市場が厚みを増している証拠です。SBTiの新基準(V2.0)が除去を将来の義務として組み込み、EUのCRCFやETSへの統合、日本のGX-ETSといった制度が「除去を買わざるを得ない」構造を後押ししつつある。政策が需要を底上げする局面に入りかけています。一方で慎重に見れば、市場最大の買い手がなお約9割を握る構図は変わっておらず、裾野の広がりは規模で見ればまだ小さい。その盟主が購入ペースを緩めたときに、広がりつつある裾野が穴を埋めきれるのか、それともボラティリティが増すのかは、まだ見えません。買い手の分散が「市場の成熟」なのか「盟主不在の不安定さ」なのかは、もう数四半期の動きを見ないと判断がつかない、というのが正直なところです。

実務者や投資家にとっての含意は、たぶん二つです。ひとつは、AI企業の排出報告を読むとき、「AIで増えた」の一言で終わらせず、物理的な増加と会計の見直しを分けて見ること。数字が大きく動いたときほど、その内訳に何が混じっているかを確かめる価値があります。もうひとつは、除去市場の「健全化」をどう評価するか。買い手が増えたこと自体は歓迎すべき変化ですが、それが制度に支えられた持続的な需要なのか、一時的な盛り上がりなのかで、意味はまったく違ってきます。数字は増えていても、その中身を読み解く作業は、これからむしろ重くなりそうです。

■ 参照記事

【マイクロソフトの排出・報告】

【マイクロソフトのCDR】

【CDR市場(ClimeFi / CDR.fyi)】

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