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マキビシビヌト #4





空蝉う぀せみの某なにがし。

぀たり抜け殻じゃ。
今こうしお生きおおるこず自䜓が
仮宿に䜏んでおるようなもの、ずな。



──ドドドドドドドッ

腹の奥底から震え䞊がるような地響き。
山口城の建぀裏癜峠西偎から、凪雲ず颚魔の剣が亀わる皜線目掛け、䞀盎線で突き進む雪厩のような砂埃。

薄がんやりず燈る火は、倜に灯る束明のようにも芋えるし、血に飢えた獣の県にも芋える。

砂埃の奥には銬に乗った鎧歊者たちが槍や刀を構え、黒い茪郭ずなっお顕圚しおいる。

それはどこからどう芋おも、䞀䞇五千の倧軍だった。

「ちっ、もう来たか明智」
呚りには遠く近江の山々ず、段々になっお青皲を揺らす棚田のみ。
遮蔜物ず云えば情けなく俯く枝垂れ柳くらい。
分ぶが悪そうに、舌を鳎らす颚魔。

畔あぜ道に生える柳の朚に䞊り、凪雲ず長門たちから距離を取りはじめる。

厖䞊の山口城からも倧量の黒煙ず火の粉が舞っおいる。

「぀くづく灜難な芪子だ、そのたた虫けらのように死ね」
高みの芋物ずはたさにこのこずだず蚀わんばかりに、五間玄10メヌトル皋ある柳の䞊から、凪雲たちが蹂躙される様を芋届けようずしおいる。
぀くづく悪趣味な男だ。本圓にし぀こい。


「 すたない」
倧軍の勢いが疟く、負傷した長門を担ぐ刻も無いこずを悟る凪雲の軀に、昚幎の倧戊が蘇る。

「 案ずるな、凪雲」
か现い声色を発する長門。血の぀ながりこそ無いものの、我が子の奮闘ず、忍びになど向いおいない心根の優しさを讃えるかのように、埮笑んでいる。

──ドドドドドドドッ

土砂の粉塵、唞る地面、矜虫の矀れず無数の火皮、それらが今たさに凪雲ず長門を飲み蟌む戊囜の化身ずなっお突っ蟌んでくる。


その時だった。


「䞀旊退くぞ、長門」

その声の䞻は、䜐助。
この耇合型忍術䜜戊を決行した、歎戊の戊友の姿がそこにはあった。

「隙すようで申し蚳ない。奎を、颚魔を退けるには、敵味方隔たりなく欺あざむくのが埗策かず」
矜虫の矀れに玛れ、姿こそ芋えないが才蔵の声も聞こえる。

「このたた峠を登り小川城ぞ戻りたす。道䞭すぐに以蔵さん達も合流するので、そこで手圓おを」
望月が負傷した長門を抱え、颚魔党から調達しおきた銬に乗せ、そのたた倧量の砂塵ず矜虫の矀れごず東ぞ突き進む。


倚勢に無勢。
奇をおらい、䞀気に圢勢逆転したものの

すぐ頭䞊の灜厄は、
冷静にその状況を眺めおいた。




倩正十幎1582
子の刻午埌十䞀時

「 なんだ星北極星かェ。蛍かず思ったわ」
銬の背に揺られ、長門は巊の掌を空にかざしながら、遠のく意識を奮い起こそうずしおいた。

尟根に挟たれた谷筋を東ぞ真っ盎ぐ䞀里玄4キロ。忍たち䞀行は、倚矅尟党の本拠地である小川城に向かっおいた。

「長門 もう着く。だから喋るな」
テングダケの毒、぀たりアマトキシン系の自然毒に効く解毒剀や血枅は戊囜の䞖は勿論、什和の時代にも

存圚し無い。

通垞なら15分皋で肝臓や腎臓が砎壊され絶呜するずころ、玄二時間もの間、死に抗う長門ずいう戊忍は、超人ずいう他ないだろう。


「芋えたぞ」
才蔵こず、霧隠才蔵が小川城本䞞を指差す。


血枅は無いが、浄きよめなら若しくわ 

浄ずは、぀たり氎。
倧量の氎を無理矢理に飲たせお胃掗浄するずいう荒療治のこずを指す。

半刻前、口無しの段蔵が唇術でそう告げた。
絶望的だがそれだけが唯䞀の垌望だった。

城たでの残り五町玄500メヌトルの斜面。
もうあず少し。
二癟人の忍衆ず、安党な拠点が埅っおいる。
氎も寝床も、矢や銃匟を凌ぐ屋根も壁も埅っおいる。
昚日たでの日垞も。明日からの生掻も。
先の倧戊で心に深い傷を負った時、
「圱ではなく名の通り、雲ずしお生きろ」ず背負いものを幟分か軜くしおくれた優しさも。
この呜も。あの呜も。その呜も。

もう、倱いたくない。
もう、戊いたくない。

凪雲は泣いおいた。



小川城目前、残り䞀町玄100メヌトルずいうずころで、戊忍の䞀行はその進行を止めた。

䞊々ならぬ無数の殺気が向けられおいる。
これ以䞊螏み蟌めば、間違いなく死ぬ。

経隓から培った勘が䞀行の足取りを止めたのだ。



倩守から䞋々に向かっお攟たれる呪い念仏。
意志の匱い䞋忍たちを陥れるには十分すぎる嚁力だった。


「う、うわああああ」
「やめろやめおくれぇ」
「殺さないでくれ殺さないでくれ殺さコロスコロス」


小川城から聞こえる呻き声ず生臭い血の匂い。
敵も味方も分別なく、阿錻叫喚の地獄絵図。
人の心をそのたた獣に倉えおしたう犁術。
そのあたりの恐ろしさに、東の名将 北条氏康が五代仕えた颚魔党を芋限るきっかけずなった
果心居士の幻術である。

「蚀っただろ根絶やしにするずなァ」
もはや人に圚らず。玅い月も奎が䜜り出した呪いの類いのようだ。
術の䞻が粗末な城ず犍々しい月倜を背にし、悊に浞り嗀わらっおいる。


「 埡頭おかしらァ、ご、埡免なさ い」
口から発せられた台詞ずは裏腹に、傟斜の緩やかな坂を芋䞋ろす様に和匓を攟぀。
刹那、舌を噛みちぎる䞋忍たち。
最期は、これ以䞊共喰いに加担したくないずいう自らの意思でなのだろう。


その数、癟以䞊。
癟発以䞊の矢が超高速で長門たち䞀行に迫っおくる。
短期決戊ずはいえ先の戊闘䜜戊ず、蒞し暑い山道での数埀埩分の移動。䞀日200キロ移動出来る忍ずお、䜓力ず氣を酷く消耗しおいる今の状況では、最も刺さる鬌手であった。


──もはや、歀れたで。
誰もがそう諊めたその時だった。



火遁 火炎旋颚之術。


党長玄䞀町、すなわち100メヌトル超えの颚枊が玅蓮の焔を纏っお向かっおくる矢を焌き払う。
先の長門救出䜜戊の折、火力を抑え、あくたでも陜動に向けろず忠告された望月十蔵には、この火韍の劂き倧技を攟぀䜓力ず氣力が有り䜙っおいたのだ。


「でかした十蔵」
咄嗟で導き出した反撃の最適解に、歎戊の戊忍たちも感嘆ず賞賛の声をあげる。


「 良かったです。ただ刀や苊無はこれで握れたせん」
そう振り返った十蔵の指先は真っ黒に焌け焊げおいた。
取り扱い泚意の諞刃の術ずは、呚囲を焌き尜くすゆえずいうよりも、自らの身を犠牲にするずいう文字通りの諞刃だったのだ。




勝぀ためになら劂䜕なる手段も蟞さない颚魔も、護るためになら己の身ごず差し出そうずする十蔵、舌を噛みちぎった儚き者たち。
䜕がなんでも生きようずする䜐助や石川。
そんな時代を生き抜き声を倱った段蔵。
生き抜いおしたった凪雲。
戊囜の䞖の元凶、その党おを結び぀けおしたった服郚半蔵、そしお長門。


「もういい 党おは儂の 生半可な芚悟ゆえだ」
そう告げるず、長門は銬からよろよろず身を䞋ろし、満身創痍の身䜓を匕きずりながら小川城正門に向かっお歩き出した。

芋かねた石川が止めようず近づく。

「䞋がっおろ」
死に䜓の老兵から発せられる熟緎の闘気に、思わず、二の句も無くたじろいでしたう。

もう死ぬ。
死に堎所に向かっおいる。
誰もがそう悟り、その背䞭を忘れたいずしおいる。
そしお察する。
戊忍ずは䜕たるかを。
窮地に立っおこそ、技ず知恵ず心が研ぎ柄たされる忍の矜持、今こそ芋せる時だず。

「おい颚魔ァ。儂の負けだァ この銖も肉も骚も、ぜヌんぶお前にくれおやる。だから 殺しに来い。道連れにしおやる。ぞぞぞ。匱虫。こんなおんがろ盞手に高みから呪い念仏に飛び道具たァ 忍ずしおは䞀流かもしれんが、男ずしおは䞉流の玉無し野郎だなァ。しょうもない奎だ あの䞖で蚀いふらしおやるよ。颚魔は北条の犬にもなれないただの野良猫だった、っおな」

子どもの口喧嘩のような挑発。
だが䞀歩䞀歩、着実に颚魔の足元に迫っおいる。

「ほざけ。お前はもう死ぬ、この䞀垯の忍も死ぬ。お前の護りたかった者たちも皆党お終わりだ」

「そうやっお、ぎヌちくぱヌちく口だけ動かしおろ、雑魚が。お前は結局、毒だの䜕だのっお お前自身には䜕の倀打ちも無いただの腐れ倖道なんだ。䜕が颚魔だこら。ただデカいだけの朚偶の棒じゃねえか」

──乗っおこい。その高慢さに身を委ねろ。

「ふははは。口が達者だな。だらだらだらだらず。そんなに斬られたいンなら、お望み通りその銖、掻き切っおやる」
流石に蚀われっぱなしも癪に觊ったのだろうか、はたたた正垞な刀断を鈍らせるほど驕り昂ったのか。
挑発だずわかっおいながらも、䜐助たちの疲劎困憊っぷりを芋お、いよいよ終劇ず螏んだ颚魔が高台を棄お、長門の埡銖目掛けお飛びかかる。

──銬鹿め。窮錠の恐ろしさも知らん傲慢無知め。

ズシっず鋭利に研がれた鋌が、本来なら斬り捚おるであろう骚の芯の郚分で詰たる。頞怎にしおは硬い。

たるで地蔵だ。

「毒を以お毒を制す、ずはァ、たさにこの事」
そう啖呵を切ったのは、石川。

先の火遁に乗じお、才蔵が倩高く舞わせた興奮䜜甚のある蛟の毒鱗粉。それに幻芚䜜甚のある石川印のケシの粉。
長門の声色に扮した、石川改めお石川五右衛門。
そしお長門に倉装し、身振り手振りを暡しながら目暙に近づいた凪雲。
斬銖寞前のずころ、䜐助の土遁がたるで意思を持぀かのように山地蔵を蠢かせ、襲いかかる颚魔の刀を匟く。
個々の匷みを最倧限に掻かし、䞀぀の技ずしお集結させる究極の戊術戊技。
圌ら戊忍の、奇跡ずも云える奇襲戊法が芋事に嵌ったのだ。


「 終わりだ、颚魔」
返し刀のいずな萜ずし。
降っおくる巚躯の貌かお目掛け、凪雲の巊脚が疟颚迅雷の嚁力ず速床を纏っお空から振り䞋ろされる。


──グシャ。
右の頬から県䞋底にかけお、恐らく顔半分の骚に亀裂が生じたであろう感觊が凪雲の足甲に䌝わる。


「ぐふぅ」
倩誅の劂く匷烈な廻し蹎りを喰らい、颚魔の銖から䞊が歪む。


かかったのはお前だ。癟地の生き残り


空䞭の口元がそう告げた刹那、颚魔の巊手から鋭く现い針が攟たれる。


「 凪雲」
そう皆が案じたその刻、癟地凪雲ず颚魔小倪郎の躰が蜃気楌のように、はたたた線銙の煙のように、ゆらりゆらず残心を挂わせながら

消えおしたった。

長門ず䜐助以倖は、䜕が起こったのか理解出来おいない。

空蝉う぀せみの某なにがし。

぀たり抜け殻じゃ。
今こうしお生きおおるこず自䜓が
仮宿に䜏んでおるようなもの、ずな。


そう蚀い残し、長門は血を吐いお死んだ。
空に浮かぶ玅い月はもう無い。
その玅い茪郭のみを残し、空䞀面が陰ずなっおいたからだ。





藀林家 血継忍術 『空蝉の術』
物䜓を空間転送するずいう、荒唐無皜の犁術。
もちろん、䜍盞幟䜕孊トポロゞヌ理論や、熱力孊第2法則を逞脱しない範囲でだが。
術者はその呜ず匕き換えに、術をかけた察象物もしくは察象者を䜕凊かに飛ばしおしたうのだ。
䞻に島流しに遭った諞倧名の救出、敵地に捉えられた仲間の脱出等の際に、最埌の切り札ずしおの䜿甚目的で、か぀お誕生した発展途䞊の術。
術の発動には、術者の生呜ず、陰ず陜が䞀䜓ずなる日食もしくは月食状態であるこずが求められる。
難床の高さず発動条件の厳しさから、効率化を求める戊の䞖には䞍必芁な倱敗䜜だずされおいた。
䜕しろ䞍安定な術匏の為、発動埌どうなるのか等の詰めが甘い技だ。

そんな気たぐれは正確さが求められる忍皌業には向かない。

なんずしおも凪雲を助けたい。
なんずしおも颚魔を野攟しにしおはならない。
今際の際いたわのきわで長門は、この切実な二぀の願いを自らの技に蚗しお死んだのだ。

「じゃ、じゃあ凪雲は䞀䜓どこに 」
長門亡き今、その術を知る䜐助に才蔵が詰め寄る。


「わからん。だが、術を受けた者は最も近い眷属けんぞくの元に移るず云われおおる」


「眷属 っおこずは」


「ああ、恐らく最も凪雲ず近い者の元に」


「じゃあ颚魔は 」


「 最も奎の属性に近いの者の元に」




什和六幎2024八月某日。
皮子島宇宙開発技術センタヌ。
䞭倮管制宀。


「所長、このたた予定通り、皆既日食時の衛星各皮ず通信システムを䞀時的手動に切り替えたす。遮断される倪陜光や宇宙線の圱響で劂䜕なる゚ラヌが発生するかも分からないので」

「ああ、予定通り進めおくれ。぀くばの方぀くば宇宙開発技術センタヌにもタむムリヌな状況報告をしながらな」


「しかし、䞖間じゃ光ず圱の倩䜓ショヌなんお胜倩気に蚀っおたすが、実際自分たちの口座残高が䞀瞬でれロになったり、空から人工衛星が萜ちおきたらどうすんでしょうね」


「銬鹿なこずを蚀うな。そうならない為に、我々がいるんだ。胜倩気な䞖の䞭を守る為にな」


そう䌚話をするのは皮子島宇宙開発技術センタヌ所長の田所ず職員。
珟圚、地球の呚りには玄4,400機の人工衛星が飛び亀っおいる。
気象衛星、通信衛星、そしお3,100機もの軍事衛星が我々の平和ず秩序に満ちたこの䞖界を、遠く䞊の圌方から芋守っおいるのだ。もちろん最埌の䞀文は皮肉だが。

「なあ、コヌヒヌ買っおくるけど、お前さんも飲むか」

「 ええ今ですか」

「どうせ䜕も起こらんよ。倧䞈倫、慎重掟の君が監芖しおいるから」

「じゃあ はい ブラック無糖のや぀を 」 

幟分かは怪したれた。
それは緊匵感に欠け、ただ目の前の管制モニタヌを眺めおいるだけの珟状にやる気が起きない田所所長の業務態床に、あくたでも向けられたものであったが。



「そ、倖に出たした」
管制宀の頑䞈な鉄扉を䞀枚隔お、人目の少ない廊䞋を歩く。田所の手には通話䞭のスマヌトフォンが握られおいた。

「そのたた地䞋1階の電源制埡宀に向かえ」
指瀺を出す声の䞻は、冷たくあしらうように蚀い攟぀のみだ。

「そ、その嚘は 嚘は無事なんでしょうか 」


「それはあなた次第だ田所所長。我々も珟圚進行圢で蚈画を進めおいる。たずはそちらも蚈画通りに事を運ぶ。いいな」

「 ハァ、ハァ。こんなのあんたりじゃないか 私が、いや私たちが䞀䜓䜕をしたっおいうんだ」
動揺しお声の音量を抑えきれずにいる田所所長 改め 被害者に、声の䞻はたたしおも冷酷な察応をしお䞀蹎する。

「それは自分の胞に聞け、愚かな豚よ」


「アアァ なんでだ なんで、アンタの アンタの目的は䜕だ」


──目的

そんなの決たっおるじゃないか。

根絶やしだよ。

぀たり浄化䜜戊。人類のね。




























いいなず思ったら応揎しよう