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囜替え

江戞入り線

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――土地を離れおも、人ず志は連れおゆける――

小田原の戊いが終わりぞ近づいたある日。

埳川家康は、豊臣秀吉の陣ぞ呌ばれたした。

陣幕の䞭には、関東䞀円を描いた倧きな地図が広げられおいたす。

秀吉は扇を開き、北条が治めおきた土地をゆっくりずなぞりたした。

「家康殿。関八州を、そなたに任せようず思う」

家康は黙っお地図を芋぀めたした。

関八州は広倧な土地です。

しかし、それを受け取るずいうこずは、長く守っおきた䞉河、遠江、駿河、甲斐、信濃を手攟すこずでもありたした。

家康が生たれ育った䞉河。

若き日を人質ずしお過ごした駿河。

家臣たちず呜を懞けお守っおきた城や町。

そのすべおを眮いおゆけず、秀吉は蚀っおいるのです。

秀吉は地図の䞀角を扇で指したした。

「江戞ずいう所がある。海に近く、川も倚い。関東を治めるには悪くなかろう」

「江戞にございたすか」

家康は目を现めたした。

川が入り組み、䜎い土地には湿地が広がっおいたす。

倧きな町もなく、道も十分には敎っおいたせん。

秀吉は明るく笑いたした。

「どうじゃ。広い囜をもらえお、うれしかろう」

家康はすぐには答えたせんでした。

拒めば、豊臣に逆らったこずになりたす。

喜んだ顔をすれば、故郷を軜んじたように芋えたす。

やがお家康は深く頭を䞋げたした。

「ありがたく、お受けいたしたす」

その声は静かでした。

けれど胞の内では、長い幎月をかけお守っおきた城も町も田畑も、音を立おお遠ざかっおいたした。

家康が退出しようずしたずき、秀吉はもう䞀床呌び止めたした。

「家康殿」

「はっ」

秀吉は扇を閉じ、地図の䞊を軜くたたきたした。

「たずは江戞を芋おたいれ」

家康は、その蚀葉にわずかな匕っかかりを芚えたした。

「たずは  でございたすか」

秀吉は笑みを浮かべたす。

「人の圹目は、い぀たでも同じずは限らぬ」

扇の先が、江戞から西ぞ動きたした。

そしお䞀瞬、駿府の蟺りで止たりたす。

「よく働く者には、時が来れば、ふさわしい土地ず圹目が回っおくるものじゃ」

家康は駿府の文字を芋぀めたした。

「それは、いずれ駿府を任せるずいう意味でございたしょうか」

秀吉は答えたせんでした。

ただ、少しだけ目を现めたす。

「さおな。先のこずは、先になっおから考えればよい」

はっきりした玄束ではありたせん。

けれど、䜕気ない䞀蚀でもありたせんでした。

家康は深く頭を䞋げたす。

「今は江戞を知るこずに努めたす」

埳川の陣ぞ戻るず、倧久保圊巊衛門、服郚半蔵、䌊奈忠次をはじめ、倚くの家臣たちが埅っおいたした。

家康は座に着き、皆を芋枡したした。

「関東ぞ移るこずになった」

陣の空気が凍りたした。

圊巊衛門が膝を進めたす。

「殿。䞉河は、いかがなさいたす」

「手攟す」

「駿河も遠江もでございたすか」

「すべおじゃ」

圊巊衛門の顔がゆがみたした。

「殿 䞉河は我らの故郷にございたす。父も母も、先祖も、皆あの地に眠っおおりたす」

「分かっおおる」

「城を移すだけの話ではございたせぬ」

「分かっおおる」

家康の声が陣幕を震わせたした。

家臣たちは息をのみたした。

家康は䞡の拳を膝の䞊で握っおいたした。

「わしずお、故郷を捚おたいわけではない。岡厎にも浜束にも駿府にも、忘れられぬ道がある」

圊巊衛門は悔しそうに唇をかみたした。

家康は声を萜ずしお続けたす。

「されど、ここで秀吉公に刃向かえば、たた戊になる」

誰も答えられたせん。

「戊になれば、田畑は焌け、人は死に、子らは芪を倱う」

家康は䞀人䞀人の顔を芋たした。

「わしは、土地を守るために、人を倱うこずはできぬ」

陣の倖では、颚が旗を鳎らしおいたした。

「土地は眮いおゆく。だが、そなたたちの知恵たでは眮いおゆかぬ」

氎を治める者。

道を造る者。

田畑を育おる者。

城を守る者。

商いを知る者。

家康は地図の䞊の江戞を指したした。

「城は新しく築ける。道も掘れる。町も造れる」

そしお、静かに蚀いたした。

「だが、人は䞀床倱えば戻らぬ」

圊巊衛門は深く頭を䞋げたした。

しばらくしお尋ねたす。

「殿。江戞を、どのような町になさるお぀もりですか」

「ただ分からぬ」

家臣たちが顔を䞊げたした。

「分からぬからこそ、たず知らねばならぬ」

家康は、圊巊衛門ず陣幕の隅に控えおいた圱を呌びたした。

「圊巊衛門。圱」

「はっ」

「二人は、誰よりも先に江戞ぞ入れ」

圊巊衛門が目を芋開きたす。

「我らが先に、でございたすか」

「城を芋よ。川を芋よ。道を芋よ。人の暮らしを芋よ」

圱が片膝を぀きたした。

「良いずころだけでなく、悪いずころもすべお確かめよ」

「埡意」

家康は、さらに蚀葉を続けたした。

「わしは半蔵ず忠次を連れ、鎌倉、川厎、倚摩川、池䞊を芋ながら江戞ぞ向かう」

圊巊衛門が銖をかしげたす。

「最短の道を行かれぬのでございたすか」

「そなたたちは江戞を芋る。わしらは、江戞ぞ至る道を芋る」

「なるほど」

「そしお、もう䞀぀䌝えおおく」

家康の声が䜎くなりたした。

「わしは江戞ぞ入っおも、長くは留たらぬ」

圊巊衛門が驚きたした。

「江戞を埡本拠になさらぬのでございたすか」

「江戞城ず町を芋回した埌、わしは駿府ぞ戻る」

陣の䞭に小さなどよめきが起こりたした。

半蔵も忠次も、黙っお家康を芋おいたす。

「駿府ぞ戻られる  」

「秀吉公も、先の圹目に぀いお少し含みのある蚀葉を残された」

家康は地図の駿府を芋たした。

「玄束ではない。されど、駿府は江戞ず西囜を結ぶ倧切な土地じゃ」

圊巊衛門が尋ねたす。

「殿が駿府ぞ戻られた埌、江戞はいかがいたしたす」

「そなたたちが残れ」

「我らが」

「圊巊衛門は城ず人を芋よ。圱は川、道、䞍審な動きを芋よ」

家康は二人をたっすぐ芋たした。

「わしが駿府にいおも、江戞の目ず耳が働くようにしおおけ」

圱が答えたした。

「江戞の倉化を、駿府ぞ䌝え続けたす」

「そうじゃ」

圊巊衛門は腕を組みたした。

「殿は江戞を芋お、すぐ駿府ぞ。残されるのは私ず、ほずんど口を利かぬ圱殿」

圱が静かに蚀いたした。

「必芁なこずは話したす」

「今の䞀蚀で、ひず月分話したような顔をするな」

家康は少しだけ笑いたした。

「二人なら、ちょうどよい」

「䜕がでございたす」

「䞀人は話しすぎ、䞀人は話さなすぎる」

圊巊衛門は圱を芋たした。

「殿。私が話しすぎの方でございたすか」

圱が小さくうなずきたした。

「おぬしは、そこでうなずくな」

その様子を、珟代のアキラず黒猫のお䞇が、光の箱の䞭で芋぀めおいたした。

アキラの隣には、町井先生、雚宮先生、習志野先生が座っおいたす。

町井先生が静かに蚀いたした。

「家康公は、土地に執着しお人を倱う道を遞ばなかった」

雚宮先生もうなずきたす。

「退くこずも守りだ。意地を通しお戊えば、民が傷぀く」

習志野先生は圱を芋たした。

「そしお、䞻より先に目ず耳を送る。知らぬ土地ぞ入るずきの基本だ」

お䞇が机の䞊で尻尟を揺らしたした。

「䞉人ずも、今日も芋事に自分の教えぞ話を着地させたのう」

䞉人の先生が、同時にお䞇を芋たした。

「間違っおいるか」

「間違っおはおらぬが、同時に振り向くずころが怖いのじゃ」

アキラが尋ねたした。

「秀吉公は、本圓に家康公ぞ駿府を任せる぀もりだったの」

お䞇は黄色い目を现めたした。

「本心たでは分かりたせぬ。ただ、倩䞋人の䞀蚀には、いく぀もの意味が隠れおいるものでございたす」

町井先生が蚀いたす。

「蚀葉にも間合いがある」

雚宮先生が続けたした。

「すべおを語らず、盞手に考えさせる。それも人を動かす力だ」

習志野先生もうなずきたす。

「本心を隠すのも、立掟な忍びの術」

お䞇はため息を぀きたした。

「秀吉公たで忍びにしおしたったのう」

その倜。

圊巊衛門ず圱は、小田原の陣を出発したした。

圱は小さな地図を懐に入れ、圊巊衛門は倧きな荷物を背負っおいたす。

圱が荷物を芋たした。

「倚すぎたす」

「江戞には䜕もないず聞いた。食べ物も垃団も必芁であろう」

「目立ちたす」

「おぬしの垃団も入っおおる」

圱は少し黙りたした。

「瀌は蚀わぬぞ」

「ただ䜕も申しおおらぬ」

二人の前には、誰も未来を知らない江戞ぞの道が続いおいたした。

䞀方、家康は服郚半蔵ず䌊奈忠次を呌びたした。

「わしらも、数日埌に出る」

忠次が頭を䞋げたす。

「急ぎ、支床を敎えたす」

「急がぬ」

「急がぬのでございたすか」

家康は、小田原から東ぞ続く道を芋たした。

「圊巊衛門ず圱は江戞を調べる。わしらは、江戞ぞ至る道を芋る」

先に江戞ぞ入る二人。

道を芋ながら、ゆっくり江戞ぞ向かう䞉人。

そしお家康公は、江戞を芋回した埌、再び駿府ぞ戻る。

すべおの手筈は、この倜に決たりたした。

囜替えずは、ただ土地を移るこずではありたせん。

故郷を離れる痛みを抱えながら、それでも人を守り、次の土地ぞ志を運ぶこず。

家康公の新しい囜づくりは、この静かな決断から始たったのです。

いいなず思ったら応揎しよう