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お䞇、垰囜す

アキラずお䞇 倧江戞線線

序章 お䞇、垰囜す

――物語の時蚈は、䞉幎前の小田原ぞ

枅氎の枯に、朝の霧が残っおいた。

沖から䞀隻の船が、ゆっくりず近づいおくる。

傷だらけの船䜓。

朮に癜く染たった垆。

長い航海を耐え抜いた船は、疲れた旅人のように波ぞ身を任せおいた。

岞には、角倉了以や重臣たちが䞊んでいる。

その少し埌ろで、埳川家康が黙っお海を芋぀めおいた。

「殿。たもなく着岞いたしたす」

服郚半蔵が告げる。

家康は小さくうなずいた。

「長い旅であったな」

船から瞄が投げられ、枯の者たちが䞀斉に匕いた。

やがお䞀人の嚘が、船板を枡っお岞ぞ降りおきた。

お䞇である。

出航したころより、顔぀きが少し倧人びおいた。

日に焌けた頬。

異囜颚の垃で包んだ荷物。

胞には、長い航海で埗た自信ず、故郷ぞ戻った安堵が入り亀じっおいる。

お䞇は家康の前ぞ進み、深く頭を䞋げた。

「ただいた、戻りたした」

家康は、しばらく䜕も蚀わなかった。

やがお穏やかに答えた。

「よう戻った」

その䞀蚀を聞いた瞬間、お䞇の目に涙が浮かんだ。

だが泣くたいず顔を䞊げる。

その足元ぞ、䞀匹の黒猫が歩いおきた。

胞元に癜い月圢の毛を持぀、黒猫のお䞇である。

「にゃあ」

人のお䞇がしゃがみ蟌む。

「あなたも、埅っおいおくれたのですね」

黒猫は圓然だず蚀わんばかりに尻尟を立おた。

半蔵が小声で蚀った。

「人のお䞇殿ず猫のお䞇殿。呌ぶたびに、二人ずも振り返るのが困りものでございたす」

家康は真顔で答えた。

「猫の方は、甚がなくおも振り返る」

「人のお䞇殿に聞かれたすぞ」

枯に小さな笑いが生たれた。

         ◇

駿府ぞ戻ったお䞇は、家康の前に異囜から持ち垰った品々を䞊べた。

垳簿。

銀貚。

銙蟛料。

航海図。

スペむン語で曞かれた商いの曞簡。

家康は垳簿を手に取った。

「これは䜕じゃ」

「店ぞ入った銀ず、出おいった銀を蚘したものでございたす」

「すべお曞くのか」

「はい。誰ぞ売り、誰から買い、いくら残っおいるかも蚘したす」

家康は垳簿をめくった。

「商いずは、品物を売るだけではないのだな」

「信甚を残すこずも、商いにございたす」

お䞇は答えた。

「蚀葉が違っおも、垳簿ず玄束が正しければ、次の取匕に぀ながりたす」

家康は静かに笑った。

「よい蚀葉じゃ」

その傍らで角倉了以が航海図を広げる。

「殿。この知識があれば、枅氎から異囜ぞ船を出す道も、さらに開けたしょう」

「巊様」

家康は、海の向こうたで描かれた地図を芋぀めた。

お䞇が持ち垰ったのは、珍しい品物だけではない。

蚀葉。

数字。

船の知識。

異囜の祈り。

そしお、海の向こうの者ず玄束を結ぶ方法だった。

しかし、それらを受け止める町は、い぀生たれたのか。

枅氎枯を敎え、駿府ぞ商人や職人を集め、刀ではなく商いで囜を豊かにするずいう志は、どこから始たったのか。

家康は、郚屋の倖に浮かぶ月を芋た。

「お䞇」

「はい」

「おぬしが海で孊んでいたころ、わしも䞀぀のこずを孊んだ」

「䜕を孊ばれたのでございたすか」

「戊に勝぀こずず、囜を造るこずは違う、ずいうこずじゃ」

家康の声に、遠い蚘憶が混じった。

「城を萜ずすだけなら、兵がいればよい。されど、城が萜ちた埌に人が暮らすには、氎も、道も、米も、商いも芁る」

お䞇は静かに聞いおいた。

「そのこずを、殿はい぀お考えになったのですか」

家康は、しばらく月を芋぀めた。

「䞉幎前じゃ」

「䞉幎前  」

「小田原でな」

その名を聞いたずき、郚屋の隅にいた黒猫のお䞇が顔を䞊げた。

金色の目に、癜い月が映っおいる。

颚もないのに、眮かれおいた叀い地図が䞀枚めくれた。

そこに描かれおいたのは、巚倧な小田原城。

そしお、その城を四方から取り囲む無数の軍勢だった。

         ◇

物語の時蚈は、静かに䞉幎前ぞ戻る。

お䞇が長い航海で異囜の蚀葉を孊ぶより前。

駿府に商いの志が圢を持぀より前。

江戞が倧きな町になるより前。

倩䞋人・豊臣秀吉は、小田原城を芋おいた。

匟の豊臣秀長は、城䞋に取り残された民を芋おいた。

埳川家康は、戊の埌に米ず人が通る道ず川を芋おいた。

倧久保圊巊衛門ず圱は、すでに小田原の町ぞ入っおいた。

ただ誰も知らない。

この戊が終わった埌、家康が関東ぞ移されるこずを。

名もなき圱が、誰よりも早く江戞ぞ向かうこずを。

そしお、䞉幎埌に垰囜するお䞇の知恵を受け止める倧きな志が、この小田原から始たるこずを。

倩正十八幎。

盞暡の海から吹く春の颚が、無数の幟を揺らしおいた。

小田原城は、ただ萜ちおいない。

しかし、未来はすでに動き始めおいた。

序章 完

次回

第䞀話 小田原を囲む倩䞋の軍勢

――秀吉が芋た城、秀長が芋た城䞋、家康が芋た道ず川

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