見るアートから、飲むアートへ|ピカソ meets ポール・スミス&よなよな
美術館を出たのは、15時47分だった。
国立新美術館で、「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」を見た。
ピカソの絵は、特段好きでもなければ、嫌いでもない。
でも、それをデザイナーのポール・スミスが用意した、色と遊び心にあふれた空間で見られると知って、行ってみることにした。
この絵、ちょっとかわいいかも。
好きかも。

そう思って見ていると、近くで小さな子どもの声が聞こえた。
「これ、半分は横から見て、半分は前から見てるんだね!」
すごいじゃん。
私は思った。
その10倍の驚きと感動で、その子のママは言っていた。
「え?どうしてわかるのー!」
そう、こんなとき、親は大抵「うちの子天才かしら」と思う。
子供が小さいうちは、そんなことを何度も何度も思う。
そして、我が子のように15歳にもなると、そう思う瞬間は劇的に減る。
娘の近頃のふてぶてしい態度が頭をよぎったが、ピカソとは重ね合わさないことにして次を見た。
おっと。
さっきの少年よ、これをどう説明する。
どっちも正面見てるよ。
割れてるのに、正面プラス正面だよ。

私はこう分析した。
向かって左は怒り。
向かって右は悲しみ。
夫の浮気に悩んでいる女だ。
読んでいる本の何かが、きっと夫との日々を思い出させるのだ。
組み合っているのは、手と手だろうか。
いや、左は怒り狂ってバンっと置いた足かもしれない。
女ってのは怖い時があるのだ。
わかったか、少年よ。
心の中で、さっきの少年にそっと告げた。
鑑賞時間は50分。
短い方かもしれない。
でもいい。
長く過ごせば元を取れるわけじゃない。
微笑ましい親子の会話を聞いて、
私にも「うちの子天才!」と感じたことがあったのを思い出した。
50分でも、十分だった。
それに、私にはこのあと、お楽しみがある。
ショップで、事前リサーチ済みのチャームを買うのだ。

チャームの絵を展覧会で回収してこようと思ったけど、パイプとTシャツしかわからなかった。
でも、欲しい。
だいたい美術展グッズというのは高い。
小さなステッカー1枚ですら800円していた。
そんな中、550円というのは破格だ。
550円で、今日のあの少年と母の会話を何度も思い出せるなんて。
いいじゃないの。
そしてショップで、これを探したら……。

どういうことよ。

こっちがSOLD OUTなのは分かってた。
15,400円なのに売り切れちゃうって、みんなどんだけピカソ好きなのよ。
あ、違うか。
ポール・スミスが好きなのか。
アンブレラチャームにSOLD OUTの文字はなかった。
だから買えると思ってたのに……。
がっかりだ。
550円。
人気出るに決まってるんだから、もっとたくさん生産しといてほしかった。
何も買わずに美術館を出た。
せっかく今日のお土産予算、550円と決めてきたのに。
私は、気を取り直して、次のアートを求めて表参道へ向かった。
「YONA YONA BEER WORKS 青山店」は16:00オープン。

15:59着予定。
アートみたいに美しい、ぴったり時間の移動だ。

目的地はものすごく見つけやすかった。
表参道の交差点の目の前だ。

地下へと階段を降りる。

出迎えてくれたのは、水曜日のネコだ。

「いらっしゃいませー」
カウンターに案内される。
この前ブルワリーレストランに行ったし、1人でビールはもう怖くない。

まずは、数日前から飲めるようになった「BREWPRINT SERIES #1」を1杯。
ホップの香りが強いけど、苦過ぎない。
「製造技術に対する知見と探求が込められたビール」そう書かれている。
確かな技術がある。
そこからの探求。冒険。
ピカソとポール・スミスが聞いたら、にやりとしそうだ。
そんなアートみたいなビールを口に入れると、くっきりした喉越しが主張する。
暑い中を移動してきたからか、ビールの香りより味より、喉越しを優先して体が受け止める。

おつまみにはソーセージ。
美味しい!
ビールとのマッチングも最高だ。
飲んでいるうちに、ビールが持つ香りと味がじんわり広がってくる。
もう1杯、長野でも飲んだ「軽井沢ビール クラフトザウルス ブリュットIPA」を飲んだ。
アルコール度数7%が効く。
いい感じに酔っ払って外へ出ると、まだ昼間のように明るかった。

「これは、お土産予算が活かせるかも」
そう思った私は、3分ほど歩いてスパイラルマーケットに向かった。
……というわけで、我が家のトイレに2枚のアートが飾られることになった。
左は今日スパイラルマーケットで買ったポストカード。
右は10年くらい前に、私が「うちの子天才か!」と思った、娘の作品だ。

その夜。
私より遅く帰宅した娘が、トイレから出てきて言った。
「トイレの絵、変えた?」
「うん。ポストカード。今日買ったの」
娘は、ちょっと得意げに鼻を持ち上げて言った。
「あ、そう。なんか、描けそうね」
……15歳。
たまには「うちの子天才か」と思わせてくれ。
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