ひっそりとメイド喫茶で働いてた頃の話
ずっとメイドカフェに憧れがあった。
それは私がヴィジュアル系バンドが好きなファン=バンギャだったからかも知れない。
なぜかメイドカフェ界隈にはバンギャが多かったし、バンギャ仲間を作りたかったのだと思う。
地元ではできない刺激的な仕事をしてみたかった。
かと言って私の性格も見た目も派手ではなく普通の女の子だったのでラウンジなど夜の商売には興味がなかった。
大学進学と同時に上京してからすぐに求人を探した。
やっぱり働くなら秋葉原がいい。
そう思い、まずは色んなメイド喫茶を巡って、お客さんとしてご主人様を体験してみた。
どの子もちゃんとコンセプトに沿って振り切って仕事をしていて、各お店にコンセプトがあって楽しかった。
容姿的にはそこまで可愛いと思えない子も可愛い衣装を着るとアイドルに見えてくる。
もし自分が男だったらこんな風に優しくされたらちょっと勘違いしてしまうだろう。
通いたくなる常連さんの気持ちを少し理解できる。
ただ、自分がいざ働くとなると私の性格上萌え的な接客ができそうになかった。
どんなご主人様が来てもブレずに魔法をかけたりイメージを崩さず接客できる自信もなかった。
そういうお店は自分が行く分には楽しめるが、自分がやるとなるとちょっと違う。
そんな中で出会ったひとつのお店は昔ながらのクラシカルな王道メイド喫茶だった。
ここなら頑張っても「お帰りなさいませ、ご主人様」だけ頑張って言えばいい。
そう思ってここのお店に応募した。
スタッフの子もみんな優しく働きやすかった。
そしてひっそりと佇んでいたお店でもあったので、ここなら知り合いが来ないだろうと思ったのもここで働こうと思った決め手だった。
私が働いたお店は土日は一見さんも来るけど、基本的には常連さんばかり。
ガチガチに緊張して言葉が出てこない新人の私にもとても優しかった。
そして何より縛られるのが苦手な私にとって働きたい時にシフトを入れられるシステムがとても自分に合っていた。
そしてメイド喫茶の定番であるチェキ撮影。
メイドさんのみ撮るのもいいし、ツーショットどっちでも選べる。
最初の頃は緊張して表情が引き攣り、頑張ってもピースくらいしかできなかった。
それでも自分と撮りたいと言ってくれるお客さんがいることは嬉しい。
そしてメイド喫茶に来るお客さんは個性的な人が多い。
とくに私が感じたことは一見とても紳士で落ち着いていて、仕事人間という社会的にも成功した人が多かった。
だけれど何度も会話をするたびに、ただ楽しく会話にしにきてくれる人もいれば、とてもマニアックな趣味だったり、幾つになっても少年のようなギャップのある面を持ち合わせている人が多かったのが印象的だった。
煌びやかなカフェではなく落ち着いたメイドカフェに通うということは、日頃の疲れをメイドさんを見たり会話することで癒されに来ているのかなと思った。
そう思うと笑顔を増やしてみようかな、とか癒される会話をしてあげようと意識してみた。
そして私は業務的には少し抜けが多かったが、一度来たお客さんの名前と顔と前回話した内容は必ず覚えていた。
正直可愛い声も出せるわけでもなくでもなく見た目もアニメっぽくはないので最初は推してくれる人は少なかったと思う。
私はどちらかというと壁を作らない友達のような雰囲気で親近感を湧かせるタイプの店員。
だけど仕事として丁寧に接する。
そこでお客さんは自分と話すのを楽しいって思ってくれてた人もいたのかなとは思う。
働き始めは出勤率の低い幽霊メイドだったが急に出勤日を増やしたので昔から働いていたメイドさんは誰!?と驚いていた人も少なくなかったと思う。
いつのまにか私は1週間に2〜3回は出勤していて、12時間働くこともあった。
そうやって私を知ってくれるお客さんが増えた。
私のことをお姫様だとか一生の憧れだと崇める人もいて、こんな体験は現実世界では絶対にないであろう珍しい経験だった。
中には私のことを本気で好きになってくれて泣きながら付き合ってほしいと言ってくれる人もいた。
だけどお店のルール上は個人的な関わりができたかった。
そして働き始めて数年経つと私はお店の電光看板になっていた。
パッと見はお店の顔である。
詳しく言うと検索されてしまうので言えないのがもどかしい。
そして台湾のとあるカレンダーのモデルもさせてもらったしちょっとしたDVDにも参加させてもらったが撮れ高が良くなかったのかその後のオファーはなかった。
また、オンラインショップでメイド服のモデルも経験させてもらった。
現在もまだ販売されている。
このエピソードも自分大好きな人と勘違いされてしまいそうなので本当に気の知れた友人しか知らない。
とにかくメイド喫茶は自分が自分らしく働けるとても楽しいところだった。
普通のカフェでは味わえない特殊な体験をさせてもらったし、人生の中でもとてもいい思い出だったと思う。
ただ働くのが楽し過ぎて、大学卒業前の国家試験に落ちてしまったことだけは後悔している。
