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火星入植3世代目の気持ちを考えた結果

火星基準のオーラリーを設計した話

オーラリーというものがある。太陽系を模した機械仕掛けの置き物で、惑星が実際の公転周期の比率で動く装置だ。3Dプリンターで作れる。

作ろうと思ったとき、最初に考えたのは「地球の公転を1として、他の惑星の比を計算すればいい」ということだった。ところがここで少し立ち止まった。

なぜ地球基準なのか。


火星基準に設計する

近未来、人類が岩石惑星に居住するようになった世界を想像してみる。火星に住む人間からすると、地球の公転を「1年」として語られ続けることには違和感があるはずだ。

そこで設計の方針を決めた。火星の公転周期を基準にする。

地球が「0.532火星年」で回る装置を作る。歯車比の比率そのものが、その主張になる。

対象は岩石惑星(水星・金星・地球・火星)に加え、SF小説「星を継ぐもの」に登場する消滅した惑星ミネルヴァ。


まず単位を揃える

インターネットで調べられる公転周期のデータは全て「地球の日数」基準だ。これをまず火星基準のソルに変換する必要がある。

1ソル(火星の1日)= 88,775秒 1地球日 = 86,400秒

変換式はシンプルだ。

公転周期(ソル)= 公転周期(日)× 86,400 ÷ 88,775

これで各惑星の公転周期がソル基準になる。

惑星公転周期(日)公転周期(ソル)火比率水星87.96985.6167.809金星224.701218.6903.057地球365.256355.4841.881火星686.971668.5921.000

火比率は「火星の公転周期 ÷ 各惑星の公転周期」で求める。火星1周の間に各惑星が何周するかを表す。最初に逆で計算するミスをしたが、水星の火比率が1より小さくなったことで(水星は火星より速いはずなので)自分で気づいて修正した。


連分数展開で歯車比を求める

火比率は小数だ。7.809とか1.881とか。でも歯車の歯数は整数しか存在しない。

この「小数を整数比に近似する」問題を解くのに、連分数展開という手法を使う。

考え方はこうだ。ある小数xに対して——

  1. 整数部分を取り出す(これが整数列の1つ目)

  2. 残りの小数の逆数を取る

  3. またその整数部分を取り出す(2つ目)

  4. 繰り返す

地球の火比率1.881を例にすると整数列は[1, 1, 7, 2, ...]となり、これを内側から折り返すと分数が復元できる。

[1, 1] → 2/1(誤差6.3%)
[1, 1, 7] → 15/8(誤差0.3%)
[1, 1, 7, 2] → 32/17(誤差0.083%)

展開を深めるほど精度が上がる。どこで止めるかは「歯数が現実的な範囲に収まるか」と「誤差が許容できるか」のトレードオフだ。

全惑星で計算した結果がこれ。

惑星歯車比段数誤差水星(40/14)×(41/15)2段0.000%金星52/171段0.051%地球32/171段0.083%火星基準軸——

水星だけ2段になっているのは、1段だと最小歯数が5歯になってしまい印刷精度の問題が出るためだ。2段に分解することで最小歯数を14歯に抑えた。


ケプラーの第三法則でミネルヴァの軌道を計算する

消滅した惑星ミネルヴァを追加したかった。軌道半径を1.3MA(火星天文単位)に設定した。

公転周期はケプラーの第三法則から求められる。

T² = a³

Tは公転周期(火星年)、aは軌道半径(MA)。

T = √(1.3³) = √2.197 = 1.4822火星年
火比率 = 1 ÷ 1.4822 = 0.6747

連分数展開で整数比に近似すると27/40(誤差0.044%)。

惑星歯車比誤差ミネルヴァ27/400.044%

火星40周の間にミネルヴァが27周する歯車を作れば、消滅した惑星の軌道が再現できる。


火星の時間体系

せっかく火星基準で設計するなら、時間の単位も考えてみた。

1ソル = 88,800秒(25秒の誤差は後で閏ソルで処理する)と定義して素因数分解すると——

88,800 = 2⁵ × 3 × 5² × 37

37が素数で扱いにくいが、これを時間の単位に昇格させることで綺麗に割り切れる体系ができた。

単位値1分60秒(地球と同じ)1時間=40分。1ソル=37時間

検算:60 × 40 × 37 = 88,800 ✓

1分だけ地球と同じなのは、秒の定義がセシウム原子の振動数という宇宙普遍の物理定数に基づいているためだ。単位を変えたら宇宙船の軌道計算でズレが生じる。実用と文化的アイデンティティのレイヤーを分けることにした。


設計の哲学

一般的なオーラリーは「太陽系の縮尺模型」だ。惑星の位置関係を正確に再現しようとする。

でも今回作るのは違う。

「太陽系の時計」だ。

ケプラーの第一・第二法則(楕円軌道、面積速度一定)を捨てて、第三法則(公転周期の比)だけを取り出した装置。円軌道で近似しているから惑星の絶対位置は正確ではないが、周期の比率は本物だ。

歯車比の数字そのものが、「火星基準で測った太陽系の時間」を刻んでいる。


現在地

歯車の印刷テストが完了した。14歯の小さな歯車も精巧に出力され、噛み合わせも問題なかった。

次はフェーズ2、同軸構造の設計と3Dモデリングに入る。

使った道具:素因数分解・連分数展開・ケプラーの第三法則。全部「作りたい」という気持ちから自然に必要になった。

いつかガニメアンに見せたいところだ

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