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「80歳を迎える6つの極意」④

  文藝春秋八月号で、林真理子さんが「70代を楽しむ六つの極意」を紹介していた。これに倣って、私なりに「八十歳を迎える六つの極意」を考えてみた。
 
① いつも上機嫌なふりをする
② 監視人殿(妻)には決して逆らわない
③ 息子たちとは適度な距離を保ち、余計な口は出さない
④ すべての人とは横の関係だと心得る
⑤ 気になることはネットで徹底的に調べる
⑥ 明日のことは考えない

 
 今日は、この中の「④ すべての人とは横の関係だと心得る」について書いてみたい。
 
 私のいう「横の関係」とは、立場や役職の違いはあっても、人間としての価値に上下はないと考えることである。この考えに至るまでには、長い会社人生があった。
 
 大学を卒業して就職した頃、会社とは経験豊富な上司が部下を指導する縦社会だと思っていた。ところが実際には、上司や先輩が必ずしも技術的に優れているとは限らなかった。中には、自分では難しいからと私に技術解析を頼む上司もいた。三十代半ばのその方は、人間的には尊敬できる、私の好きな上司だった。
 
 一方で、技術力より現場経験で管理職になった人も多く、理不尽な扱いを受けることも少なくなかった。そのため逐一上司の指示を仰ぐことはせず、自分が正しいと思う道を突き進んでいた。生意気な新入社員だったに違いない。今振り返れば、自負心が強く、扱いにくい若者だったと思う。
 
 三十歳を過ぎ、中間管理職になると、一応部下の意見は聞くものの、最後は自分で決めていた。当時は、自分の技術力を少し過信していたのかもしれない。
 
 四十代後半から五十代前半にかけては、左遷されたかと思えば抜擢されるという時期が続いた。突き詰めれば、社内の経営主導権争いや人脈争いの駒だったのだろう。しかし、その経験を通して、少しずつ人を見る目が変わっていった。
 
 五十三歳で新潟の子会社へ転じた時は、「牛後より鶏頭」と腹をくくり、社員とともに汗を流した。その頃には、社長も社員も会社を支える仲間であり、苦楽を共にする同士だと思うようになっていた。それ以降二十一年間、三社で経営に携わったが、会社にとって最も大切なのは社員であるという思いは変わらなかった。思えば、生意気この上ない新入社員だった私も、年月とともに随分変わったものである。
 
 十数年前、アドラーやラカンの解説書を読んで、「人は横の関係である」という考え方に触れた。その時、それまで自分が経験を通して感じてきたことが、理論として腑に落ちた。
 
 もちろん、仕事の能力や経験には差がある。しかし、それと人間としての価値に上下をつけることは全く別の話だ。誰もがその人だけの価値を持ち、その価値が個性となって表れる。だからこそ、人は皆、横の関係なのだと思う。
 
 今では、監視人殿とも息子たちとも、上下ではなく横の関係と思うことにしている。若い頃の自分を振り返れば反省することばかりだが、それもまた八十歳を迎える今だからこそ得られた人生の極意なのだろう。もっとも、その反省を口に出せば監視人殿に鬼の首でも取ったような顔をされそうなので、胸の内にしまっておくことにしている。

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