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あったか〜い、あったかいコーヒー、夜中の

眠れない夜に、財布とスマホだけ持って外に出る。

スウェットのまま、サンダルを突っかけて、マンションの階段を降りた。
二月の空気が首筋に触れた瞬間に、少しだけ目が覚める。
でも、覚めたいわけではないんだよなあ。

角を曲がると、いつもの自動販売機がある。コカコーラの白い文字。
蛍光灯の白い光に照らされて、かすかにブーンと唸っている。
深夜の住宅街で、あれだけがずっと起きていた。

缶コーヒーのボタンを押す。
百二十円。ガコン、という音が思ったより大きくて、びっくりした。
あ、誰も起きていない。よね?

今この瞬間、わたしと同じように天井を見つめている人間が、
あの壁のどこかにいるのかもしれない。

缶を持つ。あたたかい。
手のひらで包むと、金属の表面にうっすら結露がついた。
開けない。
しばらくそのまま、持っているだけで十分だった気がする。

自販機の下の方に、誰かが飲み残したペットボトルが転がっている。
ラベルが剥がれていて、中身が三分の一くらい残ったまま、もうどこにも行けなくなっていた。

実家を出てからもう何年になるだろうか。
あのころは、眠れない夜なんてなかったのだと思う。布団に入れば落ちるように寝ていたし、朝は母の「ごはんよ」の声で起きていた。
今は深夜二時に自販機の前に立つ人間になっている。
成長なのか、劣化なのか、たぶんどちらでもない。

プルタブを引いた。
小さく空気が抜ける音がして、コーヒーの匂いが鼻に届く。
甘い。甘い。安い。
でも深夜に外で飲むと、この安さがちょうどいいのだろう。
何百円もするカフェラテでは壊れてしまう、この時間の薄さに。

玄関のドアの前に、肩紐が千切れかけた重たいリュックがある。
明日も使うから片付けない。夢と現実の区別がつかないまま朝が来て、きっとまた二度寝をするのだろう。

缶コーヒーの底に残った最後のひと口は、もうぬるくなっていた。
部屋に戻って、布団に入る。
まだ自販機の光が、まぶたの裏にうっすら残っている気がした。


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